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企業の地球温暖化への対応
浅井豊司 記事更新日.07.10.10
株式会社フルハシ環境総合研究所 東京事務所所長 
■PROFILE
1999年 フルハシ工業株式会社入社
2001年 株式会社フルハシ環境総合研究所入社
専門分野は環境コミュニケーション、環境教育、廃棄物リサイクル・ゼロエミッション、環境ビジネス構築等。他に資源生産性向上、省エネルギー、環境活動に関する各種企画・調査等、環境経営全般の活動をコンサルティング・支援している。

連絡先
株式会社フルハシ環境総合研究所
【東京事務所】
東京都渋谷区恵比寿西2-8-5 エビス・S&S・ウエスト3F 
〒150-0021 TEL:03-3780-9733 FAX:03-5728-3414
【名古屋本社】
名古屋市中区金山1-12-14 金山総合ビル7F
〒460-0022 TEL:052-324-5351 FAX:052-324-5352
ウエブサイト: http://www.fuluhashi.jp  

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1  はじめに

「カーボンオフセット付き年賀はがき」 が発売されるのをご存知ですか? 英語で「カーボン」は炭素、「オフセット」は相殺を意味します。商品を作るとき、使うときに排出される二酸化炭素を風力発電や植林事業に投資することで埋め合わせようという考え方で、欧州では英国を中心に急速に広まりつつあります。これに目を付けた商品が、日本でも次々と発売されています。

「カーボンオフセット付き年賀はがき」は1枚55円のうち、5円を風力発電などの地球温暖化防止事業に寄付される仕組みです。JTB関東は、旅行中に排出されるCO2を、自然エネルギーを購入することで相殺するツアー「CO2ゼロ旅行」を売り出ました。日帰りバス旅行なら、排出するCO2を客一人当たり20kgと算出し、この相殺分として400円を料金に上乗せする仕組みです。4月に売り出した団体向けが学校の修学旅行や環境意識の高い企業などから多数の申込みがあったそうです。こうした事例から環境省でも検討会が動き出し、排出量の正確な計算法や正しい仕組みのあり方について議論し、指針をまとめることになっています。

   カーボン・オフセットのあり方に関する検討会(第1回)議事次第・資料(環境省)

◆カーボンオフセットの事例
プログラム 実施者 価格 オフセット
CO2
内容、問題点等
カーボン
オフセット
年賀状
日本郵政公社 55円(5円分が温暖化対策に寄付) 1.6kg 年賀葉書の製作や配達によって排出されるCO2 をオフセットするものではなく、購入者の日常生活により排出されるCO2 の一部を郵政公社が代わりにオフセットする。商品の製作過程や商品の輸送により発生するCO2 をオフセットする本来の意味でのカーボン・オフセット商品とは異なる。
本社ビル
における温室効果ガス
排出量を
オフセット
三菱UFJ
信託銀行
- - オフセットの対象は、「三菱UFJ 信託銀行本店ビルの電気の使用に伴うCO2 排出量1 万トンCO2/年」
ap bank fes'06
イベントにおけるCO2
排出量を
オフセット
ap bank - 20,538kgCO2 2006 年に開催されたap bank 主催の野外音楽イベントにおいて、ライブエリアで必要となる電力をグリーン電力証書(風力、バイオマス、太陽光)の購入により、またバス等の一部でバイオディーゼル車を導入することなどにより、イベント開催により排出されるCO2 量を削減した。
CO2
ゼロ旅行
JTB関東 +400円 20kg 日帰りバス旅行で排出するCO2を客一人当たり20kgと算出。
カーボン
ニュートラルリース
三井住友銀行
リース
- - リース物件に排出権を割り当てることにより、物件の使用に伴い発生する温室効果ガスをニュートラルにする。
カーボン
オフセット
プログラム
ブリティシュ

エアウェイズ
3,900円 2.17トン
(東京ロンドン往復)
ロンドンから東京(成田空港)へ往復した場合にはCO2排出量は2.17トン、寄付金は 16.24ポンド(約3900円)となる。(参考:ブリティッシュ・エアウェイズWebサイトの試算サービス)
出典:カーボン・オフセットのあり方に関する検討会(環境省)およびフルハシ環境総合研究所調べ
来年2008年からの5年間が、京都議定書が拘束する期間です。つまり、排出権取引がいよいよ現物として動き始めます。簡単に言えば、排出権取引とは削減したCO2排出量を売買できる仕組みです。CO2がお金に換わる、ガラガラと音を立ててそんな時代に突入しようとしています。CO2を排出することは、お金がかかること、という認識を持たなければ企業経営の原価を押し上げる大きな要因になりうるでしょう。逆にCO2を減らすこと、CO2を出さないことは企業競争力になると言えるのではないでしょうか。

いまEUで取引されている排出権はCO21tあたり 1,800円です(2007年7月時点、CDM排出権<CER>価格)。御社ではCO2は年間何トン排出していますか? それに1,800円/tを掛け算してみてください。カーボンオフセットするには、新たにそれだけの費用が発生します。仮に御社が、電気と熱をあわせて原油換算で年間1500kℓを使っていたとしましょう(省エネ法、第二種エネルギー管理指定工場相当)。すると、二酸化炭素は約4千トン発生しますから、これをカーボンオフセットするには720万円の費用が必要となります。4千トンの二酸化炭素のうち、日本の削減目標である6%を削減するとしても、単純に排出権を購入するならば240トン分43万円の費用が必要となります。削減目標がさらに厳しくなり、排出権の市場価格があがれば、企業にとっての負担は厳しくなるばかりです。ただでさえ、原材料や燃料の価格が高騰している中でこのような対策が企業に求められるとしたら、作り方や商品自体を変えてしまわなければならないくらいの大きなインパクトとなります。古くは公害対策に始まり、最近ではダイオキシン対策やアスベスト対策など、環境問題の場合、中小企業にも有無を言わせない規制の波が押し寄せてきますから、今回の気候変動に対する規制も、どんな企業でも対応せざるを得なくなる未来が目に浮かびます。
 (参考)
  地球温暖化対策の推進に関する法律施行令で定める排出係数一覧(環境省)

このように、カーボンオフセット商品が話題になり、売れ行きが好調な一方で、CO2削減のノルマを課せられた場合には重い負担が発生することになるのでしょう。一方で、血のにじむような省エネ対策を行っている企業も多く見かけます。気候変動問題が進展した場合の企業への影響を見通すことができれば、その真剣味が良く理解できます。いま省エネ対策への投資や取組みに対してあぐらをかいていると、アリとキリギリスのお話のように数年先には痛い思いをすることになるかもしれません。実際に気候変動の経済学に関するスターン・レビューという英国の報告書では、国家レベルのコストですが、温暖化対策が遅れるほど対策コストが膨らむと予測されています。皆様もくれぐれも先手、先手の対策をとっていくことをお勧めします。

  スターン・レビュー「気候変動の経済学」の日本語版作成について(環境省)

2  気候変動の状況と、それを回避するためのゴールライン

地球温暖化問題と言われると、いつも違和感を抱いてしまうのは私だけでしょうか?確かに、地球の平均気温は100年間で0.74度、最近50年では上昇率が過去100年のほぼ2倍の速度で上昇しており、確実に温暖化しています。ところが、温暖化といわれると暖かくなるの?程度で、言葉の響きに恐ろしさがないように思えるのです。そもそも京都議定書は気候変動枠組み条約のひとつの約束事として位置づけられている通り、温暖化問題ではなく気候変動問題と言った方が実態を表していて、しっくりくるような気がするのです。温帯である中部地域が亜熱帯のように暑くなり、多治見市では過去最高気温を記録し、スコールのような大雨が頻繁に降ったり、超大型の台風が頻発したり、異常気象が普通に起きるようになりつつあります。さらに、すでに起きはじめていますが、気候が不安定になっており、三寒四温の温度差が大きくばらついたり、冬に暖かくて雪が降らないと思っていたら、突然どかっと大雪が降ったりします。また、気候変動はその名の通り気候が変わるわけですから、収穫できる作物や植生、生息する生物に至るまで、身の回りのあらゆる環境を変えてしまう可能性を持っています。気候変動はすでに始まっていて、異常気象と生態系の変化がまじまじと起きているのです。

  IPCC第4次評価報告書について(環境省)

恐ろしい気候変動問題ではあるのですが、実は回避するためのゴールラインは示されています。先日、政府から発信された「美しい星50」で示されたように、世界全体で2050年までに温室効果ガスの排出を50%削減すれば、温室効果ガスの濃度が安定し、気候変動を抑えられそうだ、ということなのです。世界全体で半減するということは、一人あたり排出量の大きい先進国は、大幅な削減が求められ、日本は2050年までに1990年に比べて60〜80%の削減が必要となります。厳しい目標には違いありませんが、いつまでに何をすれば良いのかわからないという別の恐怖からは脱することができます。

  「美しい星50」について(環境省)
  「脱温暖化2050プロジェクト」(環境省)

3  CO2削減のための規制はもっと大規模に、もっと強力に。

気候変動対策として、CO2を削減するためにすでに様々な規制ができています。昨年改正された省エネルギー法ではエネルギー管理義務を負う事業者の対象範囲がぐんと広がりました。商品を運搬するときのエネルギーについて、荷主に対する報告義務が課せられたこともあり、中小企業でも新たに引っかかった事業者は多いはずです。しかし、これからはもっと広がることを覚悟しておくべきでしょう。地方自治体レベルでも条例による対策に乗り出すところが出てきています。東京都では今年6月に、東京都気候変動対策方針という新しい取り組みが動き始まり、愛知県でもCO2排出削減マニフェストが動いています。

  東京都気候変動対策方針(東京都)
  CO2排出削減マニフェスト(愛知県)

さらに行政主導の対策だけでなく、民間企業がサプライチェーンに向けて実施する対策も強まっていきます。今秋からリコーが調達先50社に対してCO2削減を課すCO2調達の試行を始めました。来春以降は280社に広げ、数値設定したCO2排出削減の目標に届かなかった企業には、対策強化が促され、改善しない場合には取引を停止することもあるというものです。

  リコーグループの環境経営(リコー)

 欧州ではすでに環境税が導入されている国がたくさんあります。基本的に環境税は化石資源に税を課すものが多いです。ドイツでは環境税が課金されるため、ガソリン1リットルが240円にもなるといいます。製品の生産時に排出するCO2にまで課税されるようになることも考えられます。なぜならば、例えばドイツの場合、環境税の高い場所で作った国産製品より、環境税のない国で作る海外製品の方が、製造原価が優位になってしまうからです。輸入製品には、生産時や運搬時のCO2に対して環境税を課税することはありうるはずです。したがって、部品を供給する中小企業でも、CO2調達が苛烈な状況になる可能性はあると思います。中小企業もいよいよ気の抜けない状況が差し迫ってきています。

4 リスクはチャンスにもなる!

製品の環境性が問われる時代に差し掛かっています。まさにエコプロダクツの時代といえるでしょう。小型化、軽量化、易分解(リサイクル性)、エコ素材、省エネ性などエコプロダクツでなければ売れない時代にすでに片足を突っ込んでいます。グリーン購入法ができて以来、政府はグリーン製品を率先して調達してきました。これからは一般消費者向けの製品でもエコプロダクツでなければ売れなくなるでしょう。なぜならば、資源は有限ですから、中国やその他の新興国では経済が急成長すれば、供給が不足し、したがって資源価格はこれからも上がり続けるはずです。資源価格が上がるほど、エコプロダクツの採算分岐点は下がり、売れるようになります。プリウスは車両の価格は高くても、ガソリンの値段が高いほど投資回収の期間が短くなる、簡単に言えばそういう原理です。

またエコプロダクツはプレミアム・ブランドに変身することがあります。「池内タオル」というグリーン市場で人気の商品があります。風力発電の電気だけ作ったオーガニックコットンのタオルを製造・販売しています。風で織ったタオルなんて素敵じゃないですか。風力発電の電気だけでオーガニックコットンのタオルを作ったら、それは高くても気持ちのいい商品ですよね。出産祝いのギフトなんかにちょうど良いのではないでしょうか? 赤ちゃんの肌にやさしいオーガニックコットンで、地球にも優しいタオルなんて、ストーリーを楽しむことができます。

では、エコプロダクツはどうやって作ればいいのか? 簡単です。エコデザインをはじめるなら、「エコプロネット」に入会すれば情報が得られ、エコプロダクツ開発の取組みを支援してもらえます。「エコプロネット」はエコプロダクツ開発の手法であるエコデザインを普及している名古屋を中心に活動するネットワーク組織です(会員数285、2007年9月14日現在)。中小企業を中心に中部地域の製造業の方々がセミナーや研究会を通してエコプロダクツの開発について勉強しています。生産時だけでなく、原材料の採掘から廃棄に至るまで、製品の生涯(ライフサイクル)にわたって、排出するCO2の発生量を調べるライフサイクルアセスメント(LCA)という手法の指導も行っています。国を代表するような有識者の方々からは、エコプロネットのように地域全体でエコプロダクツ開発を推進する動きは、世界的にもまだ行われていない世界のモデルになる取組みだと言われています。

  エコプロネット

5 まとめ

地球環境問題の第一人者である米国のアースポリシー研究所所長のレスター・ブラウン氏は、すべての環境問題に関して解決するための技術はすでにあり、問題はそれをどのように組織化し、政治的意思を持って機動的に動いていくかだ、と発言しています。要するに、社会全体が克服していかなければならない課題だということでしょうが、企業としては短期的にも採算が取れて、長期的にも採算性が取れるような取組みにしなければなりません。

御社が、まだ温暖化対策に取組んでいないなら、まず気候変動問題について経営者がしっかりと認識することがはじめの一歩です。経営者がその気にならなければ、はじまりません。具体的な対策はその後です。まずは米国・ゴア元副大統領が監督した温暖化に関する映画「不都合な真実」を経営者の方にぜひ見てもらいたいと思います。短時間で、気候変動の原因と結果が理解できるはずです。

すでに風は変わった、と思います。昨年4月、国連が金融の世界に責任投資原則というルールを作りました。機関投資家が「環境、社会、コーポレート・ガバナンス(ESG)」の考えを投資活動に取り入れていくものです。16カ国から、年金基金などの大口機関投資家(総資産額は2兆ドル超)が署名を行っています。この流れは、企業がCSR(企業の社会的責任)を盛んに口にするようになってきたことのひとつの要因となっているのかもしれません。そうであるならば、これからますます企業の環境への取組みに、とくとくと資金が注ぎ込まれることになるでしょう。今回の環境の風は強力です。ボーっとしてたら、あっという間に世界が変わってしまいます。市場をよく観察して、チャンスを見つけ出しましょう。

  国連「責任投資原則」(和文)

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