直接貿易ABC(第1回)
飯田 博 記事更新日.08.01.04
(財)海外職業訓練協会 国際アドバイザー 
■PROFILE
1939年 三重県生まれ。
総合商社兼松で長年にわたり貿易実務に従事す。
また欧州駐在をふくめ、海外経験を積む。
近年は、アジアを中心とする国際物流の場で活躍。
2004年より、三重県津市在住。
1.直接貿易(直貿)とは
1) 間接貿易と商社の機能
間接貿易とは、貿易会社・商社を通じて海外のメーカー、販売店などと輸出入取引を行うものです。貿易とそれにともなうリスク負担は商社が果たすので、貿易には間接的に関与する立場です。

したがって輸出の場合は、メーカー・商品供給者は商社に国内売りをして、商社が輸出者(Shipper)になります。輸入の場合は、商社が輸入者(Importer)になり、メーカー・商品需要家は国内買いをすることになります。

この場合に商社は次のような貿易機能を果たして、それに見合った商社口銭を得ることになります。

@ 海外市場・販路の開拓(輸出)
     海外供給地の開発、開発輸入(輸入)
A 貿易に伴うリスク負担
B 貿易実務を行う

2) 直接貿易(直貿)
直接貿易は、貿易会社・商社に輸出入取引を委ねず、自らが直接おこなうもので、略して直貿(ちょくぼう)と呼んでいます。

直貿では、上記(1)の商社の機能を自らがはたすことになります。すなわち、自らが市場を開拓し、海外との交渉・契約にあたり、貿易に伴うリスクをとり、船積や決済などの貿易実務をおこなうことになります。

 
3) メリットとデメリット
間接貿易と直接貿易のどちらが良いかという質問はよくありますが、このような単純な質問に答えはありません。

双方にメリット、デメリットがあり、それを理解した上で、自分の会社にとってどちらが良いかを判断しなければなりません。

間接貿易のメリットは、海外とのやりとりや貿易にともなうリスク、面倒な貿易手続きは商社まかせにして、メーカーであれば本業のモノづくり、商品開発、技術開発に専念できることです。貿易のアウトソーシングです。

しかしモノづくり、商品開発においても、市場の求めているもの、トレンドなどの情報を海外と直接やりとりすること、海外市場にじかに接することにより、新鮮なニーズが把握できるわけです。たとえ、貿易取引には慣れれていなくても、自分の事業分野、商品については専門家であり、直貿により海外の同分野における専門家とは直接にレベルの高い情報が交換できるメリットがあります。
 
またアウトソーシングですが、業務を他者に任せることということは、委託者は業務の内容については熟知しており、任せてもコントロールできるという自信があって、コストメリットなどを考え合わせて、委託するわけです。ところが、間接貿易の場合は、よくわからないままに商社まかせにしているケースが多くあります。そして、そのコストが高いというばくぜんとした不満があり、お互いに力をあわせて海外市場を伸ばさなければならないのに、うまく行っていないという不幸なことがままあります。

貿易について、商社にまかせるか、自らがおこなうかの判断基準を明確にもつことが重要です。自社にとり、今後は海外市場の比重を高めなければならないという経営判断があれば、貿易は手間がかかりリスクはあっても避けて通れないので、デメリットではなく、挑戦し貿易ノウハウを自社にとりこむというメリットのある課題となります。

また、貿易を商社にまかせる場合は、商社の役割と課題をはっきりしておくことが大切です。途上国など市場を切り分けてまかせる方法もあります。

4) グローバル化の時代と直貿
第2次大戦後の日本は、敗戦国の常としてわずかの外貨準しかなく、その使途は制限されきびしい外貨管理のもとで貿易も商社など限られたチャンネルでおこなわれてきた。そして、戦後60年以上たった現在では、まったく様相がかわり、だれでも自由に貿易が出来て、外貨が扱えます。制度的には、国際化の条件はまったく整っており、個人でも世界の各地から欲しいものを取り寄せられる時代です。

企業にあっては、さらに海外とのふれあいは広まっており、いまや国内企業であっても原材料のなにかには輸入品があり、製品が海外に渡る機会は日常的におきています。このようにグローバル化がすすんでくると、すべての 企業が海外と直接取引きすることが普通の時代となってきており、少なくともそのような経営認識での人材配置、育成が必要ではないでしょうか。

これからは、間接貿易のほうがむしろ例外的で、どの企業も国内取引とおなじく貿易取引を行うのが当たり前という時代になって来ました。

2. 直接貿易をはじめる
1) 商社経由から直貿への切替え
これまで、商社任せにしていた貿易を直貿に切替えることは、よくおこなわれることです。この場合に、市場・客先の開拓はすでに商社により為されているので、スムーズな移行が課題となります。まず商社の海外拠点に駐在員を置き、つぎに独立して支店、現法を開設するなど、時間はかかるがステップをふんで、直貿に切替えゆくケースが多くみられます。

この移行がうまくゆかず、販売権の譲渡で揉めたりすると、内輪争いで販売が低下したり、競合相手にマーケットを侵食されてしまいます。

さらに直貿に切替えることは、前述のようにリスクも手間もかかることをはっきり認識し準備して、体制を整えて実施しないと、失敗しかねません。口銭率をめぐって一時的に揉めて、前後のみさかいもなく商社はずしをしても、体制が出来ていないのでは続きません。

当たり前のことですが、経営戦略をはっきり立てて、体制づくりをして直貿に切替えてゆくことが大切です。

2) まったく新しく貿易をはじめる
間接貿易から直貿に進むのではなく、白紙の状態から貿易を始めるケースです。

買って(つくって)売るという商取引の原則は、国内も海外もおなじです。 ただ、国境を越える取引という点で、貿易にはいくつかの留意すべきポイントがあり、白紙から始める場合には、そのようなことを先入感なく聞き入れて、実践すれば、むづかしいことではありません。

それと、商品開発やモノづくりにかける努力、苦労に比べれば、貿易ノウハウはすでに存在し誰でもが共有できるものであり、その気になって取り組めばすぐ習得できるし、少しもむずかしいものではありません。

3) 他者の機能をうまく使う
そのようにして、直貿をはじめるわけですが、貿易業務は自分ですべて を行うわけでなく、多様な機能の関係者がかかわっています。決済には銀行、通関・船積は物流業者、リスク保全には保険会社などがあり、海外にも支店網を持っているので、その専門分野のノウハウ、情報を利用することができます。またJETROの貿易支援機能、海外駐在員網も強化されており、海外職業訓練協会、商工会議所、都道府県の中小企業貿易支援もあわせて活用することにより、海外駐在員を置かずともかなりのことが出来ます。

そして、直貿のスタンスをベースにもういちど商社機能を見直して、アウトソースした方が良い部分は商社を活用するということも選択肢です。このように、直貿を行うにしても、他者の機能、力をうまく利用すれば労少なくして、効果が期待できるものがあります。

3.貿易とは
1) 国際間の物品売買取引
貿易とは、あたりまえのことですが、国際間のモノの売り買いであるということです。広い意味では貿易には、物流、保険、金融、観光などのサービス分野もふくまれますが、ここではモノ貿易に限定してお話をします。
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貿易とは、外国の相手と商品の売買取引をすることである。。
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外国へ商品を売ることを輸出、外国から商品を買うことを輸入という。
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取引は日本経由であるが、商品は外国で買い外国へ売ることを三国間貿易という。

2) モノの売り買いであり、本質は国内取引と変らない
しかし、国際間の取引といっても、モノの売り買いであり、その本質は国内取引と変りません。いろんな約束事、言葉や通貨の違いがあっても、商売の元は信用にあるということは同じです。ただ、国を越えて相手の信用をうるということは、国内とことなりそれなりの努力と工夫を必要とします。

3) 国境を越える取引と国内取引の違い
そうは言っても、まず取引に使われる言葉は日本語というわけにはゆかないし、 決済のお金も米ドルやらユーロなど外貨が出てきます。また、車の運転が米国では左ハンドルのように、国が変ればルールが違うので、事故を起こさないようにその国のルールをわきまえた上で運転(取引)をしなければなりません。

貿易取引と国内取引の違いを整理してみます。

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取引に使う言葉が違う(ふつうは英語)。
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取引に使う通貨が違う(円取引もあるが、米ドル、ユーロなど)。通貨の交換、変動を考慮しなければならない。
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国境を越える手続き(通関)がある。
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相手国との法律、商習慣などの違いがある。
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一般的に、契約から、納品、代金決済までに時間がかかる。
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輸送距離があり、時間も要するため、輸送中の損傷などリスクがある。
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このような違いからくる誤解、トラブルを防ぐために、国際的な基準、取決め、仕組みなどがある。
   ―貿易条件(受渡し条件):インコタームズ
   ―決済条件:信用状統一規則
   ―関税率などを決める国際的な商品分類法:HS条約
   ―船荷証券、貨物海上保険の統一約款など
4) 共通につかう言葉、通貨、ルール、関係する取決めなど
そこで、国際的な取引を始めるにあたって、まず共通に使う言葉は普通は国際語の英語になるわけですが、相手との力関係でフランス語とかになると 日常の通信文、見積書、契約書など大変な負荷がかかります。どのような通貨で取引し、決済するかは重要なことです。円決済が通れば楽ですが、米ドル決済がまだ多く、為替リスクから目がはなせません。

取決め事項は、受渡し条件については「インコタームズ2000に準拠する」 などを双方で確認合意して契約書に記載します。こうして国際間の取引の共通のプラットホームができるわけです。

5) 貿易の形態
ここで、貿易のいろいろな形態について整理しておきます。
 @ 取扱い者による分類
   ・ 間接貿易
   ・ 直接貿易(直貿)

 A 取扱い対象による分類
   ・ 商品貿易(モノ貿易)
   ・ サービス貿易

B 移動による分類
   ・ 輸出
   ・ 輸入
   ・ 三国間

C 特殊貿易
   ・ 委託加工貿易
   ・ プラント貿易、海外プラント建設