クラウド(雲)に乗って
高間 正俊 記事更新日.09.11.02
株式会社 名古屋コンサル21 代表取締役
■PROFILE
・ITコーディネータ
・情報処理システム監査技術者
・経営品質協議会認定セルフアセッサー
(独)中小企業基盤整備機構 CIO経営支援アドバイザー
(財)あいち産業振興機構 経営技術診断助言外部専門家

連絡先:   株式会社 名古屋コンサル21
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TEL 0586-25-8380  Fax 050-7770-3581
http://www.nc21.jp
■ 序
昨今の新聞紙上や経営情報誌などでは、クラウドコンピューティング到来とか、SaaSを使ってIT経営を進めましょうと、かまびすしくIT業者も政府も唱えております。
では、このクラウドコンピュータは、孫悟空が『きんと雲』に乗って行きたいところにひと飛びできるような極上のITなのか、正に雲をつかむ様なUFO到来なのか、企業経営者は判断に窮しておられるのではないかとお察しします。それにIT分野は、技術革新が早くて、カタカナ文字と英語情報が飛び交い、新語が常に登場してきますので、これも混乱の一因となっているように思えます。
今回は、この新IT技術のトレンドをご説明しながら、中小企業の経営にどこまで役立つのか、将来にはどうなるのかを推察してみたいと思います。

■ クラウドコンピュータとは
この言葉は、インターネットの検索で有名なグーグル社のCEO、エリック・シュミットが2005年頃に提唱した概念で、インターネット全体を巨大なコンピュータ群と捉えて ひと繰りにした『クラウド(雲)』に見立てました。コンセプトは、ビジネス目的でも個人目的でも、あらゆる用途に、いつでもどこからでも容易に活用できる世界を作り出そうという壮大なものです。
読者の皆様も、パソコンからインターネットを通してGoogleやYahooにアクセスして百科事典代わりに使ったり、ちょっと判らない単語、商品名を検索して利用しておられる事と思います。このとき、百科事典がどこの図書館にあるのかは意識せず欲しい情報を即座に入手できる便利さを享受しているわけです。
このように回答をくれた相手は、パソコンの中に存在せず雲の向こう側からすばやく答えを返してくれるという仮想コンピュータの概念がクラウドです。雲の向こう側には無数のサービスが用意されているわけです。
さて語句の説明として、もうひとつSaaSとASPが、いつも混在して出てきますのでこれも付記しておきます。
ASPの普及・啓蒙活動などを行っているNPO・ASPインダストリ・コンソーシアム・ジャパン(ASPIC)会長の河合輝欣氏は、『SaaSやASPの定義について既に混在化しており正確に区別できない状態だ。ほとんど同一の意味と捉えてもよいだろう。(2008年11月22日のマスコミ向け発表記事より)』と言っておられます。これもITシステムを使う新しい概念として理解すればよろしいかと思います。SaaSもASPも雲の向こう側に準備されている会計ソフト、給与ソフト、あるいは販売管理、文書管理・・・・と言った、企業で必要とされる色々なソフト群と理解してください。今までITシステムは高額を支払って購入していましたが、使いたいソフトを選んで、雲の向こうから取り出し安い使用料を払って使い、不要となったら中止して、もっと良いソフト(あるいはサービス)に乗り換えることができる利用スタイルになっています。

■ 中小企業としての利用価値
ITシステムを企業は何のために導入するのか?、また、導入したら最大限の成果を生み出すためには、どのような導入を行なって利用していけばよいのか?、の視点からご説明を致します。
(社)日本情報システム・ユーザ協会(JUAS)の『企業動向調査2009』に拠りますと、
経営企画部門の調査回答では、
  @ 経営トップによる迅速な業績把握、情報把握
  A 業務プロセスの変革
  B 情報共有による社内コミュニケーションの強化
が、ITシステム導入の狙いの上位を占めております。
反面、これらのサービスを自前で作り上げるには高額なIT投資が必要となり、ITシステム導入後も運用費(ハードやソフトの保守費、保守要員等の人件費)が高くてITシステムを維持するのも大変なコスト負担となっております。
前述のJUAS報告によると、『システム保守費用は、5年間で初期開発費と同等の金額が掛かる』との調査報告があります。
例えば、3000万円掛けて「生産管理システム」を開発したとしますと、5年後には、総額6000万円のITコスト負担となります。このIT投資費用に見合った業務改革などのコスト削減ができないとIT導入成果を得ることができない勘定となります。さらに、ソフト開発には要求スペックが難しいと1年とか2年という歳月が掛かり、短納期というわけにはまいりません。
蛇足ながら、私どもITコンサルタントは、このIT投資の早期回収ができるか否かが、コンサル成果の生命線となりますので、IT導入成果目標を決めてムダや無理のない高効率なITシステム開発、運用のご指導に日夜奮闘をしております。
さて本題に戻しまして、このようにITシステムは開発に金も時間も掛かり、もっと安く早く効率的にできる方法はないのか廻りを見渡してみたら、クラウドコンピュータがよさそうではないかと、このサービスがクローズアップされてきました。
乱暴な説明となりますが、
  1) ハードは購入するから高くつく、しからば必要なときだけ借りるのがよい。
  2) ソフトは開発するから時間も金も掛かる、しからば欲しいサービスを欲しいときに使えるようになればよい。
  3) ネットワークは・・・・
と、電気や水道を使うような発想での利用スタイルが誕生しました。
パソコンとインターネットがあれば、雲の向こう側にある欲しい情報、欲しいサービスが直ぐに手に入るのがクラウドコンピューティングの概念です。
従って企業においては、コンピュータ設備は持たずに、従業員にパソコンを配備しておけば、 今まで以上のIT活用が図れることになります。また、季節変動とか年間を通してコンピュータ利用量に大きな差が出ている企業は、ピーク時に備えたコンピュータ設備を用意しておりますが、クラウドコンピュータは、必要なときに必要なサイズのコンピュータ利用をするわけですから無駄な投資は一切要らなくなりますので効率的で、低コストのコンピュータ活用ができるようになります。

■ いまクラウドコンピュータは旬の時期か
さて、良いことづくめのクラウドコンピュータを説明致しましたが現実には、まだまだ理想にほど遠い状況にあります。
雲の向こう側には、あらゆるサービスが準備されておりません。あったとしても、自社で使うには、『帯に短し襷に長し!』の中途半端なソフト群も多いと推察しております。将来的には、電気・水道のような社会基盤と同じ、IT基盤をつくって便利になると思われますが、まだまだ先の話です。
では、それまで待っていましょう!ではなくて、今からクラウドコンピューティングに慣れ親しんで円滑なIT導入を計画しましょう!が、推奨する選択です。
既に大企業におきましては、7割の企業が導入・検討中と回答をしております(前述のJUAS調査より)。大企業は、どこも大きなコンピュータを導入して全社オンラインシステムや統合生産管理システムなどを実現しておりますが、これらをクラウドの世界に持っていけるのでしょうか。実は基幹システムは、そのままで周辺のサービスをクラウド化しようとしております。具体的には、営業支援、販売管理、文書管理、事業所ネットワーク、メール、その他バックヤードで運用しているソフト(サービス)を高効率、低コストで運用するための導入です。
言い換えますと、企業独自の個性的なITシステムはクラウドには乗せず、機能やサービスが画一的なものを移行していく利用スタイルです。中小企業においても同じことが言えます。基幹業務は自前のサーバーに入れ、サブセット(オフィス業務)はクラウド活用をして、全体で最適化が図れればIT投資額の削減になる考えです。
支店増や事業拡大をしても、クラウド化されていればIT投資はさほど増えないことになります。
(図1.現実的なクラウドコンピュータ活用図を参照)

■ 最後に
いま我々の生活は、ITなくしては何もできない時代となっております。もっと便利に、もっと豊かな生活を求めて、これから益々ITは社会基盤に不可欠な存在となってくるに違いありません。クラウドコンピュータは、その存在を示し始めたばかりですが、この利用価値を先取りした企業がコスト戦略でも、企業戦略でも優位に立てることも自明の理と思われます。経済不況の中にあって知恵を絞った経営戦略を実践され、一日も早い苦境からの脱出をされることを願ってやみません。