こだわりのいちじく作り
記事更新日14.07
大島 千恵子・美智子
【問い合わせ先】
ファーム大しま
愛知県一宮市丹陽町九日市場2852
TEL・FAX 0586-77-0975
HP http://www.farm-oshima.jp/index.html

今回は「いちじく」(無花果)に関する製品紹介です。いちじく栽培農家が手塩にかけて育てた「いちじくの木」、「いちじくの果実」と「いちじくの果実を加工した製品」紹介です。

昭和35年19歳で「農家の嫁」になった大島千恵子さん。その娘である大島美智子さんは音大を出てピアノの先生をやっていました。そんなある日、農地を残さなければという思いから一念発起。未経験の農業を始めました。こうして平成8年から母(大島千恵子さん)と娘(大島美智子さん)のいちじく栽培が始まりました。

 果実と果実加工製品が流通する裏には宝に等しい「いちじくの実」に対する思いと不思議なご縁がありました。

果実加工製品とは、完熟いちじくの自然の甘みと食感が効いた「いちじくジャム」、完熟いちじくを丁寧に天日干しした「いちじくグラッセ」、完熟いちじくをワインで煮込み、果実そのものの食感や風味が残っている「いちじくコンポート」です。


■ いちじく畑 その1

いちじく畑は害虫や鳥からの被害を防ぐため全てネットで囲ってあります。扉を開けて一歩中に入ると植物の香りが心地よく鼻を刺激します。子供のころ里山で嗅いだ「いちじく」の香りが脳裏に蘇りました。
ネットは空気を通します。しかも外です。自然な風があり、空気が流れているにも関わらず、存在感のあるいちじくの香りに感動を受けると共に一本一本大切に育てていることを感じました。

 現在、@桝井ドーフィン、Aサマーレッド(早生:お盆前に出荷)、Bバナーネ、Cビオレソリエスの4種類を37a(アール)の農地で栽培し、年間約10tを出荷しています。

 Bバナーネ、Cビオレソリエスの栽培面積は全体の15%程ですが、珍しいため飲食店等から問い合わせがあります。




■ いちじく畑 その2

低農薬を目指しています。アザミウマ対策のため、光反射シートを使っています。光が反射してアザミウマが攪乱するため虫の寄り付きを防ぐことができます。

 光反射シートの下には藁を敷きます。地元の農家に藁の保管を有料でお願いしています。藁を敷くことにより土の温度を保つことや線虫(せんちゅう)対策を兼ねています。

 畑の中でお話をしながら、手には防虫対策スプレー缶を持っている大島さん。この時季は土の中から孵化したクワハムシが新芽を食べるため枝や葉につきます。話の合間に虫がいる狭い範囲を目がけてサッとスプレーして退治して動く姿からも、手塩にかけていちじくを育てていることがわかります。
農薬を散布するとクモも死んでしまいます。クモが死んでしまうと夏場にダニの発生が活発になります。自然の力と共存しながらおいしい完熟いちじくを目指しています。

 いちじくの枝を横へ這わせる理由は栄養を果実に集めるためです。枝が上に伸びる力を抑えることにより、成長のための栄養を結実に向かわせる。強靭な枝の一本一本に紐をつけて引っ張る作業は大変ですが、全ては美味しい「いちじく」のためです。

※アザミウマとは1mmくらいの黒い点が動くように見える虫です。それがいちじくの実の先端から入り果実にキズを付けたり、肥大が遅れる被害につながります。

※線虫とは字のごとく細長い虫のことです。根に卵を産み付けなどして根が枯れる被害につながります。



■ いちじくという宝

一般的ないちじく生産者は、形が悪い、少しキズがある、又は豊作による出荷調整等により、やむを得ず果実の廃棄を行うことがあります。多い時は生産量の2割〜4割に達することもあります。非常にもったいない現象が起こっています。
ファーム大しまでは捨てることが一切ありません。いちじくの全てを無駄なく使い切るのです。
果実が小さい、形が悪い、少し虫に食われたいちじくをジャム製品に回すこともありますが、完熟して消費者へ販売できる果実も加工品として使います。
市場が必要とする量は出荷しますが、それ以上の収穫量があったときは美味しい加工品として使用するため、外部に委託して冷凍保管します。いちじく収穫時期終了後はいちじくの加工作業が始まります。年間を通していちじくを消費者に届けているのです。




■ ご縁のマシーン(IH式煮練攪拌機)

朝摘みされた完熟いちじくを冷凍保存します。収穫時期が過ぎたら必要な分だけいちじくの加工作業を行います。年間作業の平準化を行うことで「6次産業」のビジネスモデルを構築することになります。 それまではコンロに大なべを置いて作業していました。大きな火力や一定の火力、そして撹拌や大なべの移動と重労働でした。そんな時、IH式煮練攪拌機の営業マンと知り合うご縁がありました。地元の農家の紹介です。九州では6次産業が進んでいるため、写真のようなIH式煮練攪拌機も農家に導入されています。 ところが愛知県では6次化の声はあるものの遅れています。営業マンの話を聞いたお二人は非常に興味を持ちました。高級新車に相当する費用でしたが、導入を決意しました。平成21年の出来事でした。愛知県内での農業分野での最初の導入でもありました。IH式煮練攪拌機導入により、賞味期限の延長と省力化を図ることができました。



■ 自らの手による配送

浮野養鶏組合直売店「うきうき村」、真清田神社門前朝市、地元百貨店やスーパー、名古屋市中区栄にある中日ビル地下1階にある「ピピッとあいち」、一宮サービスエリア内売店へ出荷しています。

午前5時〜8時の間に朝採りしたイチジクを開店時間に間に合うよう、店頭まで届けています。宅配業者を使うことなく、配送もこなします。毎日配送するからこそ、消費者の生の反応を見ることができます。売れ行きが良くないときは直ぐに回収して加工品へ回します。見切り品になる前に対処が可能になります。また、通箱も回収してリサイクルにつなげています。

名古屋市内へは販売店のスタッフが通勤途中にファーム大しまに立ち寄り、売り場(職場)まで運びます。販売先のスタッフとのふれあいにより、生の声を聞くことができます。

※ピピッとあいち  https://www.pipito.jp/about/

愛知の「いいもの」が集まったお店です。新鮮、無農薬野菜や果物、調味料、お惣菜、お菓子、飲料、海産物や果物などの加工品、伝統的工芸品を集めたお店です。


■ いちじく製品を3つにする=ギフト製品の幕開け

IH式煮練攪拌機導入による省力化はコンポートを含む製品製造量を増やすことにつながりました。ギフト製品対応が可能になり、ネットやFAXによる注文と通販カタログ掲載等販路の拡大につながっています。実際、ネットでいちじくのコンポートを知ったシェフから注文がありました。



 あいちアグリアウォード受賞

いちじく栽培以外にも、大島さんは地元に根付いた活動をされています。
平成10年に50a(アール)の放棄地を地域の仲間たちと開墾し、春には菜の花、秋にはコスモスが咲く畑へと変えました。花畑では地元小学生や町内会と連携した地域の花祭りが開催され、大きな地域イベントへと成長したのです。残念ながら、メンバーが高齢化を迎えたため、開墾はできなくなりましたが、広大な放棄地を花畑に変える活動は地元住民の心を和ませるものでした。

放棄地の再生だけではありません。
『一宮市女性農業者会議』の会員として一宮市の中心地、本町通り商店街で毎週土日に仲間達と朝市を開催されています。『一宮市女性農業者会議』メンバーが丹精込めて作った新鮮野菜を求め、多くの人々が早朝から訪れるのです。

食育にも力をいれていらっしゃいます。平成11年から始まる地元小学校での食農教育は、総合学習のカリキュラムとして組まれるほど定着しました。大島さんは現在、5年生の担当。大豆の栽培を丁寧に指導しています。収穫した大豆から豆腐や味噌を作り、食の大切さを教えるだけでなく、食を通じて子どもたちの健康な体つくりに一役買っているのです。

こうした大島さんのいちじく栽培を始めとした多岐に渡る活動が評価され、平成22年度あいちアグリアウォードを受賞しました。

大島さん母娘の仕事に対する誇り。そして、開墾や食育、野菜の販売といった活動の成果が実を結んだ瞬間でした。

 


 補足

※平成22年度あいちアグリアウォード受賞
公益財団法人愛知県農業振興基金では、本県の農業・農村の振興や発展に尽くした個人や団体を表彰する農業振興功労者表彰事業(表彰名:あいちアグリアウォード)を平成18年度から実施しております。
この事業は、愛知県が50年余にわたって表彰を続けてきた「山崎賞」「岩槻賞」という権威ある農業賞を継承し、両賞の理念を引き継いだものです。

公益財団法人愛知県農業振興基金より http://www.aichinoshinki.or.jp/

 

※6次産業化認定(農林水産省)
農山漁村には、その地域の特色ある農林水産物やバイオマス、土地等の基盤資源、自然エネルギーなど、長い歴史の中で培ってきた貴重な資源がたくさんあります。「農山漁村の6 次産業化」は、こうした資源を有効に活用して、1 次産業としての農林漁業と、2 次産業としての製造業、3 次産業としての小売業等の事業の融合を図り、農林水産物等に新たな付加価値を生み出し、農山漁村における所得の向上、収益性の改善、雇用の確保に結びつけることによって、農林漁業の発展と農山漁村の活性化に寄与するものです。
23年度第2回認定事業計画一覧

http://www.maff.go.jp/j/shokusan/sanki/6jika/nintei/pdf/23_2itiran_260530kai.pdf

 

取材・文 YA(ワイエイ)ビジネスサポート 杉本 安行