地域に根差した綿織物を新たなスタイルで伝承する。

記事更新日19.05

青木 淳

【問い合わせ先】

愛知県西尾市一色町松木島榎31
TEL 0563-75-1208
HP https://read.uzu-japan.com/
   
 

渦は、2016年に青木夫婦(青木淳さん、愛さん)で立ち上げた製造小売業です。 渦は、地域に根ざした伝承綿織物(三河木綿)を植物染料で手染め、デザインしたアパレル、雑貨、小物、インテリアなどのモノづくりをしています。 渦は、名鉄西尾線「吉良吉田駅」下車して国道247号線を西へ約3km進み、矢作古川を超えた辺りで脇道へ1本入った場所にあり、店舗は民家とカーネーション栽培ハウスや田畑に囲まれています。 こんな場所に店舗兼生産現場があるとは思えないことから驚きが始まりました。


   

  ■ 戦前の愛知県内の織機産業分布
 

明治、大正から昭和にかけて、一宮を中心とした尾西地方は日本一の毛織物産地へと発展し、半田市・西尾市・蒲郡市とその周辺では綿・スフ織物の産地が形成され、岡崎市や安城市の周辺では綿紡績と羊毛紡績が盛んとなり、豊橋市を中心とした東三河では生糸生産が大きく増加しました。 西尾の綿・フス織物生産は平成が終わる31年4月では産地として規模は縮小していますが、その技術を伝承する綿織物製品は間違いなく「あいちの製品」と考えます。新興産業でもなく、伝統産業でもない、あいちの伝承産業の芽生えと考えました。

  ■ 三河木綿の歴史
 

三河木綿は、平安時代の初めごろに崑崙人(こんろんじん:インド人と言われている)が愛知県幡豆郡福地村(現在の西尾市)に綿種を持って漂着しました。これが日本の棉の伝来と言われています。そのため、西尾市にはその人物を綿の神様として祭っている天竹神社(てんじくじんじゃ)があります。しかし、残念ながら、この綿花は三河地方の気候・土壌に適応せず、定着しなかったと言われています。

三河地方が綿織物の一大産地として本格的に発展してきたのは、江戸〜明治時代です。15世紀の後半に、朝鮮半島から綿布が大量に輸入されるようになり、16世紀には中国からの唐木綿の輸入が加わって、綿布の国産化の気運が高まっていきました。

江戸時代になると、三河地域の綿産業がさらに活性化し、「三白木綿」として江戸で人気になりました。 明治時代になると、西洋の技術を取り入れたことで量産化が進みました。「三河木綿」の名称は、三河織物工業協同組合によって、2007年に「三河木綿」が地域団体商標に登録され、更なるブランド力の向上と拡販を目指しています。

  ■ 綿花生産でなく織屋さん
 

現在、三河地方での綿花の作付面積は限りなくゼロに近い状態です。そのため、外国産の綿(インド綿など)を輸入し、それを紡績した糸を使って綿布を織ります。具体的には三河地方は、地元を中心に織・染・縫製など一次加工品から最終製品までを地域内で一貫して処理できる産地を形成しています。西尾では60年〜70年前の織機を大切に使い続けて、手触りのフワフワ感を出す織屋さんが残っています。この織屋さんの生地を使って衣料品を製作する渦が生まれました。

  ■ 生地の仕入れ
 

地元の昔からある職人気質の機織り業者から生地を仕入れます。なぜ地元なのか、そこに製品へのこだわりがあるからです。戦前戦後の機械を大事に今でも使い続け、この機械の特徴を活かした生地を作っています。古い機械は速度が遅いため糸と糸の間に程よい空間が生まれる。これにより肌触りに柔らかさが生まれるからです。また、糸の色を指定すること、小ロット対応が可能なことも地元を活用する理由です。

   
  ■ 生地の仕入れ
 

無地、生成り色を中心に西尾市近隣の機織り業者から仕入れます。織は平織、あや織、刺し子織などです。少し離れますが知多では甚平・手ぬぐい・ガーゼなどの用途で0.5mほどの小巾(こぎん)織物が生産されているため、一重ガーゼ、二重ガーゼ、ダイヤガーゼを知多から仕入れています。写真は保管されている生地の一部です。


   
   
 

写真は刺し子織とガーゼの生地です。刺し子織は柔道着のような厚手感はありますが、古い織機を使って織っているため、程よい空間が生地の肌触りを柔らかくしています。青木さんもこの生地に惚れ込み、こだわりを持っています。ここに製品の特長があります。


   
  ■ 草木染
 

生地ストック場所から染め工程場所まで生地を運びだします。一度に3〜5着分の生地を染めます。まず、糊抜き作業に入ります。製品にある糊が染色の妨げになってしまうため、糊を抜く作業を行います。 そして、染めて、洗い、干す。染料によってはこれを数回繰り返します。最後は仕上げ工程です。 全て手作業であるために生地と染めのこだわりが強くなると思います。たまたま、取材に訪れた日は定休日であり、青木さんが染の実験をする日でもあり、干してある生地を撮影しました。

   
   
 

染料は、草木である藍の他、玉ねぎ、にんじんなどを使って染めます。地元の玉ねぎ農家から収穫後に玉ねぎの皮を貰い受けてそれを保存させる方法やピンク色を出す場合は「インドあかね」を仕入れています。特に藍染の衣類は防虫、殺菌、防水等の作用があり、着る程に色が冴えるなど、効能と効果を楽しめるといった特性があります。


   
   
 

染めた生地に青木さんが墨を付けた筆で線や丸を描いてデザイン性をアップさせることも行います。


   
   
 

店舗内にはさりげなく草木染の原料サンプルが陳列されています。


   
  ■ デザインと縫製
 

デザインは青木さんの奥さまが担当しています。デザインの勉強は全くの我流のため、作り方に個性が出ています。通常はデザイナーが紙にデザイン絵コンテを書き、それに基づき型紙を作り、生地を裁断して縫製してサンプルを作ります。渦では夫婦でデザインを議論して、いきなり製品化です。余分な労力を掛けずに、30代〜40代の女性をターゲットに一直線で作業をします。シンプルだけどシンプルでない製品の秘密がここにもありました。(Tシャツなどの夏物縫製は外部委託を活用しています)



   
  ■ カバン 帽子
 

平成30年度あいち中小企業応援ファンド助成事業を1月に募集したところ、46件の応募があり、審査委員会での審査を経て、24件の交付先の中に渦.jp(青木淳)選ばれました。そのときに計画した事業がカバンと帽子です。刺し子織のカバンは耐久性があり、使い込むと色に味が出てきます。また、刺し子織の帽子はデザイン性とオリジナルが高いため、他では販売していない一点モノの帽子です。ここにも製品へのこだわりが出ています。
https://www.aibsc.jp/Portals/0/shinjigyo/H30.4.2-saitaku.pdf


   

  ■ アクセサリー 小物 財布
 

三河木綿を使ったアクセサリー、小物、財布も製造販売しています。この製品は外部のクリエーターが渦の生地を使って製造しています。ネットのモールスタイルをリアル化した仕組みです。餅は餅屋に任せた製品づくりです。



   
   
  ■ エプロン
 

名古屋市内にある飲食店から店の制服としてオリジナルエプロンの注文を頂いております。また、料理好きな芸能人の方にも使用されています。



   

  ■ 草木染の体験
 

創業したときは飛び込みでも対応する余裕がありました。現在はネットからの完全予約制です。昨年の夏休み期間中に300人が訪れました。子供の自由研究には最適な教材でもあります。また、最近ではインバウンドのコト消費の対象にもなり始めており、時々外国人観光客が来られます。製品に体験を加えることが出来ることも大きな強みと言えます。


  ■ 取材を終えて
 

隠れ家的店舗兼製造現場でした。吉良吉田駅からタクシーで移動しましたが運転手さんも渦を知らず、しかも喫茶店と勘違いされました。また、玄関を入るとワクワク感と手作り感が伝わります。内装などをご夫婦でされたことが伝わってきます。地元を意識しながら、余計なモノを持たないモノづくりの現場でした。他方、地産地消でなく 地産他消(地元は2割だけ残りは地元外−その内2〜3%は海外から注文)というネット販売を媒介とする新しいスタイルが生まれていることも感じました。


 

 

文責 YA(ワイエイ)ビジネスサポート 杉本 安行