株式会社 鬼福
「あいちの製品」

記事更新日22.03

鈴木 良

【問い合わせ先】
株式会社 鬼福

愛知県碧南市住吉町3−10
TEL 0566-41-0758
HP  https://www.onifuku.com/
   
 

今回の「あいちの製品」は、創業100余年の三州瓦の窯元『鬼福製鬼瓦所』の製品をご紹介します。 瓦に成形した粘土の焼き締め後に燻化(くんか)とよばれるいぶす作業を加えることにより、素地の表面に炭素被膜ができて銀色に発色します。「燻してできる銀色」なので、「いぶし銀色」と呼ばれます。このいぶし銀の鬼瓦を残していくために「チャレンジするあいちの製品」でもあります。

三州とは愛知県西三河の「高浜市」「碧南市」「半田市」を指します。江戸幕府は火事による延焼を避けるために屋根に瓦を置くことを推奨しました。この西三河の瓦が衣浦湾から船で江戸へ出荷され、西三河が日本の瓦の主要な産地として知られるようになりました。 日本の高度成長期までは窯元も多く、窯の煙突から大量の煤煙が出ており、それを雀が浴びるため「高浜の雀は黒い」と言われた話が残っています。

この三州瓦の特徴は分業制にあります。具体的には、原料の粘土を生産する業者、釉薬を生産する業者、プレス機や窯などの設備を生産する業者、瓦の金型を作る金型業者、鬼瓦を作る業者です。 この瓦の分業制により鬼瓦の業者も残りました。
  ■ 会社所在地
株式会社鬼福(以下:鬼福製鬼瓦所)は愛知県碧南市住吉町にあります。名鉄三河線「北新川駅」から南東へ1kmの所にあります。

  ■ 会社概要

創業1916年の鬼瓦専門店。初代は近所の瓦職人のところへ丁稚奉公されました。その後旅職人として鬼瓦を造るために全国を回っていました。鬼瓦は「役モノ」「面倒なモノ」であり、仕事量も限られるため作り手が少なかったこともあり、仕事を求めて全国を回る必要があったようです。その後、大正5年に地元で根を下ろして創業しました。現在は4代目として代表取締役社長の鈴木良さん(以下:鈴木社長)が受け継いでいます。 

鬼瓦の由来は「厄除け」「魔除け」「招福万来」が目的とされています。屋号の「鬼福」の由来は、初代のお名前が鈴木福松さんでした。鬼瓦を作る福松さんだからそれを縮めて「鬼福」となりました。 これまでに収めた建造物では、成田山新勝寺山門、出雲大社祖霊殿、永平寺名古屋別院本堂などがあります。
■ 鬼瓦を残すために

神社仏閣に使われる鬼瓦は1点ものであり、しかも耐用年数は100年といわれるため、新しい需要が生まれるまでのサイクルは長くなります。一般家庭に鬼瓦が乗せられる機会は激減していますが、特注鬼瓦が必要な場合は鬼瓦職人が製作します。伝統を守りながら現状打開に鈴木社長は思案し、その打開策が庭に置く装飾材の提案でした。

この装飾材を持ってフランスで開催されたクールジャパン展に出かけました。いぶし銀の鬼瓦の説明をさんざんした後に見せたものが庭に置く装飾材のキューブでした。凄い鬼瓦が登場すると期待したギャラリーからドン引きの反応に鈴木社長もビックリでした。周りからお前の強みは鬼でしょうと言われて鈴木社長は悩みました。

キューブは日本庭園に活かせると考えたまでは良かったです。しかし、自然の岩や石に比べるとキューブは値段が高いこともあり上手く行きません。強味の鬼を活かすにはどうしたらよいのか思案しているとき、キューブの空間に何か入れることができないか考え、閃いたのがティッシュでした。鬼瓦をデザインした瓦でできたティッシュケースを思いつきました。

鈴木社長の凄いところは、2019年にクラウドファンディング「Makuake(マクアケ)」にて鬼瓦ティッシュケースのプロジェクト立ち上げ、資金を集めて製造しました。クラウドファンディング期間中のご支援数は、鬼瓦ティッシュケース180個、支援者数171人、支援総額2,986,000円となりました。また、現在までの総出荷数は400個以上となっています。テレビ東京の「WBS」や人気テレビ番組「マツコ有吉のかりそめ天国」でも、鬼瓦ティッシュケースが紹介されました。

■ アマビエ

アマビエとは、江戸時代の終わりごろに熊本県にあたる肥後国海上に出現したとされる日本の疫病封じの妖怪です。新型コロナウィルスがまん延したことにより注目されました。2020年に鈴木社長はいぶし銀のアマビエを作ることを思いつきました。しかも1,000個を無料で届けます。まさに「アマビエチャレンジ」です。
84円で発送できる普通郵便封筒に納まる設定で製作しました。つまり厚さ2センチ、重量50グラム以内のサイズです。1ヶ月以上前から製造に取り掛かり、1,000個の製造目途が立った時点でネット配信をしました。大反響です。SNSでは3,000を超える「イイね」を得ることができました。

  ■ 節分鬼
 

コロナ禍では密を避けるために集まっての豆まきが難しくなりました。また、高齢者は自分の歳の数だけ節分豆を食べることも無理があります。特に施設に入所されている高齢者の豆まきが一層難しくなってしまった昨今です。そこで鈴木社長は考えました。2021年は節分に関連した鬼です。

商品の使い方はユニークです。満面の笑顔で大きく口を開けた「鬼瓦」に「福豆」を食べさせます。まだ豆が食べられない子供の代わりに、年齢分の豆を食べるのが辛い人の代わりに、鬼瓦が豆を食べてくれます。福を招くお守りとして、節分後もお好みの場所に飾ってお楽しみいただけます。 価格は税込み2,970円ですが2021年に700個完売、2022年は650個を販売しました。

  ■ モノづくりの姿勢
 

トヨタ自動車が、若手の技術者らを東海3県の中小企業などに無償で派遣する新たな研修制度を2020年に開始しました。これは相互のPDCAサイクルを知ることで商品企画の幅が広がります。3名のトヨタマンが1週間に1度のペースで3か月間に渡り企画激論を交わした成果が節分鬼でした。鈴木社長は鬼瓦をどのようにして次世代につなげるのかを日夜考えているチャレンジャーです。

  ■ ユニークを求めて
 

ユニークな発想が鈴木社長の根底にあります。実用的ではありませんが「いぶし銀」にこだわった作品が1点モノのヘルメットとヤクルト専用格納容器(株式会社ヤクルト本社様から、商品名と商品の使用許可を得ました。)です。


  ■ 後継者の育成
 

写真は長野県の民家から持ち込まれた鬼瓦です。昨年の台風が原因で割れた1点モノの鬼瓦です。ネットに掲載された鬼瓦をデザインした瓦でできたティッシュケース、アマビエ、節分鬼を見て直接修理の依頼がありました。半分が欠けているため、どのように復元するのか、従業員の職人技を高める機会にもなります。

  ■ 鬼瓦の製造工程
 

(1)仕入れた土 必要な量を適時仕入れて保管します。

(2)仕入れた土に水を混ぜて機械で捏ねます。捏ねた粘土が下から出てきます。 (思わず巨大な羊羹をイメージしました)

(3)出てきた粘土を引き延ばす工程に移動させます。ローラーで約40センチ四方に板状に変形させます。写真の板の上に乗るサイズです。

(4)板状になったモノを保管します。

土づくりは古い道具を使って行います。一つの動力を天井から吊るしたベルトをかけ替えることで機械を使い分けます。大量生産の屋根瓦は大規模な工場の24時間体制で生産しますが、鬼瓦は昔からの作り方です。

(5)保管してあった板状の粘土を重ねて長方形にします。道具を使って彫ったり、装飾となる小さな球形などをつけます。

(6)乾燥工程です。数週間かけて乾燥させると粘土の色が白くなります。それを窯へ入れて焼きます。写真は工場内にある乾燥中の鬼瓦と窯です。

  ■ 取材を終えて
 

名鉄電車を利用して取材先に向かいました。車窓から見える民家の屋根を眺めると多くは化粧スレート、ガルバリウム鋼板であり、瓦が少ないことを痛感しました。しかし、高浜市は瓦のまち、鬼師のまちです。高浜市は市内で自ら居住するための家を新築した場合に三州瓦屋根工事等奨励補助金があります。 神社仏閣に関してはゼネコンが介在するため、地元の神社仏閣でも他県の鬼瓦を使うことも珍しくないと、鈴木社長からお聞きすると複雑な気持ちになりました。どうしたら鬼瓦の存在を知らしめることができるのか、チャレンジする鈴木社長の姿勢はこれからも続きます。

株式会社鬼福https://www.onifuku.com/concept/
通販紹介https://shop.onifuku.com/items/33137838

文責 YA(ワイエイ)ビジネスサポート 杉本 安行