こうした確かな技術はどのように企業内で育まれるのか。 「素材はとにかく『いいもの』だけを使っています。いいものだけを使って作るということは、不要な添加物や混ぜ物をする作業がありません。そうすると製造工程も単純に基本の部分だけとなるわけです。こうすることで従業員も徹底的に基本を身につけることができます。しかし、納品業者さんからは冗談まじりにこんなことを言われます。『他社へ持っていっても何の問題もない材料が、大口屋へ持ってくるとダメだといわれる』」。
このこだわりは、色素にも及ぶ。使うのは天然色素だけ。「おそらく、こんな贅沢な店は他にあまりないのでは」と語りながら、伊藤社長自身が苦笑いする。
当然、大ヒット商品の餡麩三喜羅にも、こうしたこだわりは存在する。
最初から「お菓子」として開発しており、料理の一品である京都の麩菓子よりもはるかに柔らかく、賞味期限も2日と短い。「お客様からはもうすこし賞味期限を延ばせないかと言われるのですが、今の味・自然素材へのこだわりを守ろうとすると、この2日は譲れないのです。防腐剤や保存剤を使うのは論外として、防腐効果のある砂糖を多く使えば、多少は賞味期限を延ばすことも可能です。しかしそれでは今の味は出ない。2日の賞味期限でお客様に我慢してもらうということは、裏をかえせば、今の味、今のこだわりをお客様に保証するということなのです」。
しかし、こうしたこだわりに、じわりじわりと危機が迫っている。高齢を理由に、こだわり材料を提供してくれる製粉工場の廃業が増えてきたのである。これは職人の高齢化を原因として技能継承に苦しむ「サポートインダストリー(基盤技術産業)」の危機と相似する姿に映る。
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