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エマルション技術で世界を制する
伊藤敞一 記事更新日.07.09.05
中京油脂株式会社 代表取締役社長
■問合せ先
中京油脂株式会社
〒454-0037 名古屋市中川区富川町2-1
TEL 052-362-1851(代)  FAX 052-362-1856
http://www.chukyo-yushi.co.jp/
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■本来混ざらないものを混ぜるエマルション技術
【水と油】互いに交じり合わないもののたとえ−広辞苑にはこう表記されている。

しかし「界面活性剤」を使うことにより、水と油が混じる状態「エマルション」が実現する。このような現象は身の回りに多数存在する。例えば、油で汚れた手を水で洗っても、ずっと油が水をはじき、いつまでもヌルヌルした状態が続く。これは水と油が混ざらないために起こる現象である。油汚れを取るためにどうするか。石鹸を使って水で流す。つまり、石鹸という「水にも油にも溶ける」物質を介在させることで、油を水に混ぜて落とすということが可能となるのである。この他、マヨネーズも、水の中に界面活性剤に包まれた油が分散したエマルション状態の商品である。

「本来は分離した状態」の液体を混じり合わせる(エマルション)を支えるのは「混ぜる(乳化)」技術と「混ぜた物質を均等に分散させる(分散)」技術である。どのような性質を持つ材料を使って混ぜ合わせるのかという乳化技術。そして、双方を均等に分散しムラのない液剤に仕上げる、いわばミクロン単位を問われる分散技術。この双方が伴わなければ安定した工業製品は生まれないのである。

エマルション技術により、世界シェア60%を握る製品を持つのが中京油脂株式会社である。

■繊維油剤の扱いをきっかけとして界面活性剤を研究
こうした技術の多くは、主に昭和30年代から本格的に研究を開始することになるのだが、その基礎はさらに遡ることになる。

昭和2年、ろうそくの原料である蝋油を販売する卸商を先代社長が創業、昭和16年会社組織になり、卸をしていた蝋油に加え、石鹸材料の油脂の自社製造を始める。

戦後、近隣地域では繊維関係の企業が好調となり、繊維産業向けの薬剤(繊維油剤)の扱いが増え始める。繊維油剤には、糸をつむぐ、布に織る、染色段階の工程薬剤で、糸をすべりやすくする、染色時の発色を良くするなどの効果がある。この繊維油剤には界面活性剤が使われており研究を進めることにより、現在に至るまでの「乳化・分散」技術の基礎が培われた。

■エマルション技術の用途開発でトップランナー
現在、当社は製造部門と商事部門に分かれ、製造部門では、感熱紙の発色をコントロールする感熱記録紙用塗工液、建材向けの防水剤、ファインセラミックス成形時のバインダー及び添加剤、ポリウレタン樹脂の成形時に使われる離型剤などが主力製品となっている。

特に感熱紙塗工液は国内シェア80%、世界シェア60%を持つとされ、伊藤敞一社長によると「離型剤や防水剤も国内シェア50%以上はあるのでは」とのこと。高いシェアの秘密は、「商事部門で培ったニーズを吸い上げる力と、乳化分散の技術を業界の状況に対応させながら他社に先行してトップランナーとして用途開発してきた」というところにある。

昭和30年代、まず手がけたのが、建材向けの防水剤である。チップやファイバーなどを接着剤で固めて作るパーティクルボード等の防水剤として使用されている。メーカーとの共同開発で成形時にチップ類と共に混合させることで防水機能を持つことができ、チップ等への水分吸収による材質劣化を防ぐ。

次いで、開発されたのが離型剤である。自動車の座席用クッションやマットレスなどに使用されるウレタンフォームの需要が伸び始めると、発泡時にウレタンが型にくっついてしまう型離れの悪さが発生。型離れを良くする薬液はすでに海外で販売されていたが、満足できるほどの効果はなく、乳化分散を得意とする当社の技術でなんとかならないかという依頼があり、国産で初めて離型剤を開発した。

昭和40年代には、感熱記録紙の発色塗工液を開発。FAX紙やレシート、切符などの感熱紙に塗布されている。発色する温度が高いと、発色させるためのエネルギーが多く必要になるし、低すぎて常温で発色するのでは真っ黒になってしまう。そこで、この微妙な温度調整をコントロールするための薬剤が塗られているのだが、実はこの薬剤、非常に水に溶けにくい性質を持っている。この薬剤を液状にしなければ、紙に均一に薄く塗り広げられない。ここに当社のエマルション技術が活かされ、薬液化を実現しているのである。

■「工程薬剤」を扱うトップランナーの悩み
「ただ、当社の製品は『製品の主剤』ではなく、あくまでも製品に付随する『工程薬剤』なのです。ですから、常に顧客のニーズ・新製品開発・新事業立ち上げの情報を集めながら、ユーザーの開発にあわせて共同開発をし、当社の技術・製品を利用していただく必要に迫られるのです」とこんなエピソードを紹介する。

「かつてリムリケイというウレタンバンパー用の離型剤を製造していました。当時は多くの車でウレタンバンパーが採用されていましたので、あらゆる、自動車メーカーへ納品をする主力製品でした。しかし、メーカー側の技術革新により、バンパーの素材がポリプロピレンへ移行、リムリケイの出荷量はゼロになってしまいました」。

そのため、技術開発には余念がない。大学との共同研究も行い、開発要員も従業員の3割を維持している。「業界水準では特に高いほうではないのですが、当社規模の化学工業企業としてはかなり力をいれている方ではないでしょうか」。

■トップランナーの責任の重さを再認識
「大手がやらないことを狙う。市場が大きすぎても大企業が参入してきますし、小さすぎても事業としてうまくない。自社のサイズに合う事業分野を見つけ、そこで100%のシェアを狙う、という考え方です。国内シェア80%を握っている、とお褒めをいただく製品もありますが、当社が最先発で開発したのですから、当時は当然100%だったはずです。それが、競争により80%にまで低下してしまった、というのが当社の立場ということを考えれば、シェア80%あるといって安住もしていられません」と伊藤社長からは冗談とも本気ともつかない言葉が漏れる。

「先般の大地震により自動車部品が生産ストップしてしまい、自動車産業全体が大きな影響を受けたという出来事がありました。市場の大小や影響の大小はあれ、当社もある程度のシェアを持たせていただいておりますので、同様のリスクマネージメントはしていかなければいけないと考えています。製造ラインはもちろんのことですが、原材料の調達から物流工程まで、あらゆる面を今一度見直し、安定供給することが、シェアを持つ者の使命と考えています」と気を引き締める伊藤社長である。

取材・文 有限会社アドバイザリーボード 武田宜久       

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