「体感マーケティング」で心をつかめ!
志水双葉 記事更新日.09.03.02
株式会社フタバ化学 代表取締役社長
■問合せ先
株式会社フタバ化学
〒453-0825 名古屋市中村区沖田町390番地
TEL 052-471-1111(代)  FAX 052-471-1112
http://www.futaba-chemical.co.jp/
■洗濯石鹸で成長するもビジネスモデルのほころびに対応できず
昭和21年、戦後あらゆる物資が不足する占領下の日本。当時、原料不足から石鹸も非常に品薄状態であった。廃油を分離し、石鹸を製造する技術を持っていた志水徹男社長は廃油を安く調達するルートを開拓し、石鹸製造業を創業する。「廃油を分離し、良質の部分は食用油として、それ以外の部分を洗濯石鹸にして製造販売していました。どちらも品薄状態でしたので当時はとても儲かったようです」と語るのは、創業者の徹男社長の長女で、現株式会社フタバ化学社長の志水双葉氏である。

販路としては、富山の置き薬の販売方法を参考に、各家庭に洗濯石鹸を置いてもらい、使った分だけを代金回収する「配置販売方式」を採用した。『店で買っても、持って帰るのが大変』という主婦にとっては、自宅へ訪問し補充してくれるため大変好評で、昭和36年には「株式会社フタバ化学」として法人化、翌年にはこの販売システムをFC化するなど成長を続けた。また、早くから天然油脂を原料とした『自然派商品』の開発など『独自性』を重視した取組も積極的に行なった。最盛期にはFCで500店舗規模へ拡大、製造ラインも当時では最先端の工場を建設するまでになった。

しかし、共働きなどで昼間は留守宅が多くなるなど「配置販売方式」というビジネスモデルにほころびが生じる。そこで、売上高の確保を狙い、当時台頭してきた大型スーパーとの取引を開始するも、特売の目玉商品となることが多く、値下要求と大手メーカーとのコスト競争にさらされ、採算ラインに乗らず、企業として非常に厳しい状況に追い込まれるまでになってしまう。「どうしようもなくなり、かろうじて採算ラインにあったボディ洗いなどの化粧品系の製品だけを残し、他の事業はすべて中止し、大規模なリストラを余儀なくされることになりました」と当時を振り返る志水双葉社長。

■大手メーカーと戦わない土俵「旅行・ホテル業界」で大成功
洗濯用洗剤では、10トン単位の出荷であったが、化粧品系では1ケース、1ビン単位の出荷となり売上高も激減。大手メーカーと同じ土俵で戦わない、新たな切り口の販路を探す必要に迫られた。ボディ洗い向けの大口需要をリサーチしたところ、ホテル・旅館業界に行き当たる。大浴場では洗い場に置かれた石鹸を、入浴客が共用しており、宿泊客から「大浴場で誰が使ったかわからない石鹸を使うのは、不潔に感じ抵抗がある」という苦情が多く寄せられていることもわかった。

そこで、ポンプ式の液体ボディ石鹸であれば、清潔にしかも必要な量だけ大浴場で石鹸が使えるのではと考えた。

液体石鹸の製造はすでに昭和40年代に洗濯石鹸を手がけておりノウハウは持っていた。また、ポンプについても、配置販売方式のビジネスをする過程で、大きな容器から洗剤を出しやすくするための工夫としてすでに実用済みであった。双葉社長によれば「液体石鹸用のポンプ容器は、当社が初めて実用化したものです」とのこと。

こうして開発されたポンプ式の液体ボディ石鹸「リーブルアロエ・ボディソープ」は、ホテル・旅行業界で大成功を収める。

■成功を支えたビジネスモデルとビジネスノウハウ
その成功を一過性のものに終わらせず、ビジネスとして現在まで継続させることができたのは、それまで培った製造・販売ノウハウがベースになっている。一気に拡大した需要への生産体制は、かつて大手メーカーに対抗すべく建設し撤退した大量生産設備・コストダウンノウハウがあればこそ対応できたことであり、また、ホテル・旅館個別へのデリバリと代金回収は「配置販売方式」で培った顧客管理ノウハウが活きた。「作る仕組み・売る仕組み・回収する仕組み」というノウハウの積み重ねがあればこそ、現在に至るまでの成長が実現できたのである。

「ホテル・旅館業界への売り込みに際しては、固体石鹸を液体に変えた、というだけのアプローチでは弱いと考えていました。そこで、すでに『医者要らず』として認知されているアロエを入れることで新たな付加価値をつけることにしました」。アロエの効果はてきめんであった。浴場で使った宿泊客が「アロエの成分が良かったのか、肌がしっとりしている。家でも使いたいのだが、どこで買えばよいのか」と言いだしたのである。そこで、売店でこれを販売してもらったところ、思惑は当たり、買って帰る人が続出。旅館・ホテルでは売店売上が増加するメリットが出た。

旅館・ホテルで従来の固形石鹸をボディソープに変える → 効果を実感した宿泊客がボディソープを購入 → 旅館・ホテル側では売店売上が増加 → その利益でボディソープ代の一部がまかなえ、結果的に石鹸コストの大幅なコストダウンが実現、という顧客メリットを構築することができ、こうして瞬く間にこの業界で3000軒の得意先を獲得することができた。

このビジネスは旅館・ホテルというBtoBビジネスだけでなく、ボディソープを購入した宿泊客に対するBtoCビジネスでもある。

通常、顧客とのファーストコンタクトが最も経費のかかるプロセスといわれているが、このビジネスモデルでは宿泊客が使って、良さを実感して、自ら「買いたい」と言ってくれる仕組みであり、ファーストコンタクトに要する経費はほとんど必要ない。

ビジネスとしては獲得した新規顧客をリピート客とすることが求められるが、当社には各家庭に洗濯石鹸を販売していた顧客管理ノウハウがあった。このノウハウをBtoBビジネスとして専門に推進する部門として、通販ビジネスの専門会社、株式会社リーブルを平成2年に設立、多くの顧客を擁するまでになった。

■「体感マーケティング」を起点にした商品開発・将来像
「今では大手メーカーが参入をしており、競争の厳しい業界になっています。しかし、当社では商品には自信を持っており「使ってもらい、良さを実感していただく」ことがユーザーを獲得する近道だと思っています。そこで『体感マーケティング』として当社製品の良さを体感してもらうために、当社社屋の8階に浴場・洋室を設置して、一般開放しています。
そこでは、従来の製品だけでなく、試作段階の商品、テストマーケティング中の商品も使っていただき、その使用感などをアンケートで応えていただくことで、商品化・販路開拓に向けての貴重な資料となっています。その結果、ラインナップの強化やつぶ塩マッサージソープ『米ぬかアロエシオ』のような製造が非常に難しいが従来にない体感が味わえる独創的商品の開発などの差別化にも成功しています。また、地域や旅館とのコラボによる、それぞれの特徴を活かしたプライベートブランド石鹸の企画製造などもこれまで以上、一層拡げていきたいと思っています」と、今後の構想を語る志水社長である。
取材・文 有限会社アドバイザリーボード 武田宜久