独自技術のロール成形・溶接でグローバル調達に対応せよ
田中 純 記事更新日.10.05.06
株式会社 タイガーサッシュ製作所 代表取締役社長
■問合せ先
株式会社 タイガーサッシュ製作所
〒448-0804 刈谷市半城土町大下馬71-1
TEL 0566-21-2881(代) Fax 0566-24-2189
http://www.tiger-sash.com
■上場企業を向こうに回しドアサッシュ等で高い評価
株式会社タイガーサッシュ製作所は、昭和30年大型トラック用窓枠製造メーカーとして設立される。昭和40年ごろからは、ロール成形に本格的に取り組み、コア技術の基礎を確立した。
現在は、ロール成形を主にプレス・溶接・組み付けなど開発から量産まで一貫生産できるドアサッシュメーカーとして、軽自動車・小型自動車のドアサッシュ、ウインドウガラスの昇降を支えるセンターサッシュ・ロアサッシュ等を生産している。

当社のセンターサッシュ・ロアサッシュ部品をほとんどの国内生産車で採用する自動車メーカーもあるなど、当社の技術は高く評価されている。こうした企業へは技術者を派遣し、設計開発段階から共に携わることで、製造過程でのコストダウンや不良発生減少を見据えた設計にすることができ、コスト・品質面などでのメリットを共有、より深い取引関係を築いている。
「自動車用ドアサッシュメーカーは国内で大きいところでは7社ほどなのですが、当社以外は全て上場会社です。こうした企業と競争するには、他社では難しい技術、品質を始めとした信頼関係の構築が欠かせません」と当社の3代目社長田中純氏は力を込める。

■原点は人財育成
信頼関係の構築、技術力の向上の原点は、何と言っても人財育成だと田中社長は語る。
「当社でも世代交代による技術継承が課題になっています。上の世代から下の世代へつなぐ階層別教育の必要性を非常に感じています。リーマン・ショック以前は、学校へお願いしても新卒が全くといっていいほど採用できず、技術継承を云々する以前の問題でした。しかし、不況により、採用の様相は一変しました。幸い当社は他の自動車部品メーカーよりも落ち込みが少なかったため、今年は5名を採用することができました。採用さえできれば、じっくり大切に人財教育が進められます。幸いなことに、ここ7〜8年は辞める人もほとんどなく、順調に育ってくれています。日々社員の顔色を見ながらこまめに声かけをしてコミュニケーションを取るというあたりまえのことですが、これが社員定着には一番効果があるようです」。

人財育成・社員定着・技術継承に力を入れるのは当社のコア技術と密接な関連がある。
当社の製品は、ロール成形の後、曲げ・プレス・ミーリング加工を経て溶接、さらにその溶接箇所を研磨等で仕上げることで作られる。
当社のコア技術の一つは、ロール成形工程の「治具を取り替えるだけ」という汎用性により設備交換にかかる手間とコストを減らし、2年かかる立ち上げ期間を8ヶ月にするノウハウである。
その上、設備を入れるだけでは実現できない熟練のコア技術を持つのが溶接工程と仕上げ工程である。

■溶接工程と仕上技術では負けない
溶接工程における当社の特徴は「薄板の突き当て溶接」である。
軽自動車や小型自動車のドアサッシュなどドア部品に使用される板圧は0.7mm。溶接物の剛性が小さいため変形しやすく、その度合いも大きい。しかも溶接物はロール成形品は中空状になっており、溶け落ちなどの変形を押さえる方法もない。こうした悪条件下での溶接を行うのが当社の技術でありノウハウである。

一方、溶接部の仕上技術にも大きな特徴がある。
ドアサッシュでは溶接部がボディの表面に出るため、溶接部がわからないようにしなければならない。当社には手で触っただけで3/100ミリの凹凸がわかる熟練技術者が10人ほどおり、こうした技術者により溶接部分の表面仕上げがなされ、溶接跡は跡形もなくきれいになくなる。

「技術の習得はセンスの部分もあり、伝えていくのは難しいのですが、感性の部分を含めた『ノウハウ』として伝え、熟練の技術者をじっくりと育てていくことで当社のコア技術が守られ、また高まってもいくのです」。
競合する上場企業を向こうに回し、薄板を使う軽自動車や小型自動車用ドアサッシュ部品等での採用を獲得できるのはこうした技術に支えられているのである。

■グローバル調達対応への第一歩
このように築いた技術力はグローバル調達を行う海外自動車メーカーの目に止まる。
ある日、海外の自動車メーカーから見積もり依頼を受ける。
田中社長は当時を振り返る。
「ドイツでグローバル調達を行っている、誰もが知る自動車メーカーでした。私の推測ですが、見積依頼をしたのは、全世界で数社だったようです。社内は大騒ぎになりました」。当社としても品質・コストなどのプレゼンにあたる「テクニカルレビュー」をしなければならない。しかし、プレゼンは英語。
「当社のような100人程度の企業で英語でプレゼンを行うことができる人材はいませんでした。しかし、ビッグメーカーからの受注は欲しい。こうなれば、社長の私がやるより他ありませんでした。メールへの対応からプレゼン資料の作成に始まり、航空チケットやホテルの手配まで自分でやりました。説明は全くの棒読みでした」。
なんとか苦労の末終えたプレゼンであったが、結果はコスト面で当社の採算に合わず断ることになってしまった。ところがしばらく後、再度連絡を受ける。品質・納期・生産数など総合面で検討した結果、当社への発注が妥当だと判断したとのこと。
「結局、価格も当初の提示どおりで受けていただけました。採用の連絡が来たときは全社で喜びました」。
今後も積極的にグローバルな受注を伸ばしていきたいと語る。
「海外生産までは現在規模では難しいのですが、ただ海外の現地工場との技術提携という形でも、グローバル展開をしていきたいと考えています。いずれ次世代自動車も登場することになると思いますが、動力が変わっても自動車のドアがなくなることはありません。軽量化などの課題が出てくるとは思いますが、それに備え人材力、技術力を高めていきたいと考えています」。

取材・文 有限会社アドバイザリーボード 武田宜久