顧客に寄り添う『工場専門のメカドクター』、環境提案への挑戦
磯村 洋子 記事更新日.11.10.03
豊安工業 株式会社 代表取締役社長
■問合せ先
豊安工業 株式会社
〒472-0042 知立市内幸町加藤40番地
TEL 0566-81-0885 Fax 0566-82-0321
http://www.e-houan.co.jp
製造業にとって、コスト管理の観点からも効率や操業度がより重要視されている。それだけに安定操業を続けるための設備を含めた工場全体の維持管理は重要な課題である。ボイラーを中心としてこうした工場メンテナンス事業を行っているのが豊安工業株式会社である。

■ボイラーメンテナンス業として戦後まもなく独立
創業者の磯村清氏は戦前の高等専門学校を卒業後、トヨタに入社する。高等専門学校ではボイラーを専攻し、いち早く「機関士免許」を取っており就職は引っ張りだこであった。
「祖父は『当時、ボイラー管理の免許を持っているのは愛知県内で数人だった』とよく私たち家族に自慢していました」と振り返るのは現社長の磯村洋子氏。  
終戦間もない昭和22年にボイラーメンテナンス業として豊安工業所を創業する。
ちなみに「豊安」は独立するときに大変お世話になったトヨタの重役・田種次郎氏にあやかってつけられた社名とのこと。
当時のボイラーといえば手製に近く、しかも大型のものが中心で、爆発事故は大惨事を招くことになることから、手間や技術が必要なメンテナンスには、現在のアイシン精機をはじめとして多くの依頼が舞い込んだ。

■ボイラー製造を経て工場プラント設備全体のメンテナンスへ拡大
昭和44年からは自社で小型ボイラーの製造も行っていたが、大手ボイラーメーカーが小型ボイラーの製造にも進出を始め、強力なライバルの出現に事業の再構築を迫られることになる。自社ボイラーの設置時には様々な配管も併せて行っていたが、こうした設置・メンテナンスを行ううち顧客から「ボイラーの配管がやれるなら水や空気の配管の面倒も見てほしい」という要望が多く出始めたため、昭和52年には製造を中止し、ボイラーメンテナンスだけでなく水や空気の関連設備であるポンプやコンプレッサーなどの工場プラント設備全体へと業務拡大を図ることになる。


その後、三河地域を中心に、自動車関連や味噌・醤油・豆腐屋など食品関係のボイラーを中心とした工場設備メンテナンスを手がけ、取引先を増やしていった。

■『第二の我が家』をテーマに人材育成
ところが平成7年事件が起こる。現社長の夫である2代目社長磯村享氏が若くして死去してしまう。                      
  「後継者といっても、子供は学生でしたし私以外にいませんでした。事務の仕事は手伝っていたものの、現場の仕事の詳細は知らない状態でした。しかし、社員がしっかり対応してくれたおかげで現場対応は大きな問題も起こらずにすみました。そうなると問題は私自身の社長業になるのですが、こうした業界では女性経営者というのは非常に珍しかったこともあり、お取引先様からは顔をすぐ覚えていただき、その点では助かりました。このように、社員にも、お取引先様にも恵まれたおかげで、難局を乗り切ることができました。」と当時を振り返る磯村社長。
従業員の支えもあり難局を乗り切った磯村社長は人材育成の重要性を痛感、人間性・専門性を磨き、社員のベクトルを合わせるための仕組みづくりに力を入れている。
『第二の我が家』をテーマに、入社一年目は必ず寮で共同生活を送り『第二の家族』となり、『50キロ歩行』では皆で励ましあいながら長距離歩行することで社員の絆を深め、『本物を見る旅行』では社員グループごとに自分たちの行きたい場所について目的や熱意などについて会社に対しプレゼンをし、認められたグループだけが会社補助を得られる。この「プレゼン成功」という一つの目標に向かってグループメンバーがベクトルを合わせて取り組むことで、プレゼン力や目的達成力をつけることができる。さらに、業務に関係のある難関資格の取得には50万円、100万円という報奨金も用意するなど、育成環境作りにも力を入れる。


■顧客の危機には真っ先に駆けつける機動性
工場全体のメンテナンスを事業として行うということは、通常時には定期的な健康診断により危機的状況に陥ることを回避し、突発的な緊急時には適切な応急処置を施し必要に応じて専門家と連携して復旧を図るという、人間で言えば「かかりつけドクター」となることでもある。
まさに、当社は「工場専門のメカドクターになる」ことを目指し、『お客様のお役に立つ』ということを営業方針としている。
多くの企業が『顧客第一』を掲げるが、その真価が問われるのは緊急時の対応である。
「岐阜の自動車部品関連大手メーカーが水害に見舞われたとき、とにかく集められるだけの雑巾数百枚を持参し駆けつけたところ『豊安さんは場所も遠いのにまっさきに駆けつけてくれた』と言ってくださいました。また、自動車部品関連大手メーカーで火災が起こりグループメーカーのライン全体が止まってしまった時には、従業員が1週間泊り込みで対応に当たり早期の操業開始のお手伝いをしました。どちらも、私どもは『自分たちの現場』という意識ですので、その対応をすばやくするのは当然だと思っていますが、喜んでいただいたことで少なからずお役に立てたという実感を持つことができました。」と磯村社長。

■環境を切り口にショールームで当社の提案力を紹介
『工場専門のメカドクター』企業としての次なる戦略のために、平成22年、刈谷に設置されたのが『スマートファクトリーショールーム』である。

「一部お取引先様とは冷暖房・空調・排煙脱硫・排ガス・排水処理・給排水・公害・環境対策など工場全般にわたりお付き合いいただいています。また原図面起こしから設備工事までという対応もしています。おそらく当社規模でここまでできる企業は数多くないと自負しているのですが、まだまだ『豊安工業はボイラー設備・メンテナンスの企業』という印象が強いようで、当社がどこまでできるのかということを知っていただける機会が少ないのです。そこで、当社のノウハウで工場全般に関する提案がここまでできる、ということをショールームという形にしたのです」。
ショールームでは『省エネ・新エネ・エネルギーコスト削減による高効率循環型の工場作り』という切り口で、工場全般の設備・メンテナンスの提案を行ない、次世代にむけての事業化を狙う。


「ショールームでは、まず、ヒアリングによる『工場簡易診断』をさせていただき、省エネや環境面の改善点や問題点についてのご提案を致しております。省エネなどは一つの設備を入れ替えるだけではその設備が持つポテンシャルが十分に発揮されないままというケースが多いのです。部分最適を図っても決して全体最適にはならず、配管・設備・排熱など工場全体としてバランスが取れていなければなりません。この点、幅広く工場管理に長年携わった当社は、設備という『点』の提案ではなく、配管類・配管方法の『線』さらには工場全体の『面』としての省エネ投資のあり方など投資対効果がより高くなる提案をすることができます。これは設備メーカーからの提案ではなかなか手の届かない部分だと思っています。こうした、当社ならではの特徴を生かした『オンリーワン』といわれるような事業として『ボイラー設備設置・メンテナンス企業』というイメージから一皮むけ、夢のある企業にしていきたいと考えています」と将来像を描く磯村社長である。

取材・文 有限会社アドバイザリーボード 武田宜久