管理技術を磨き、他社との差別化を図れ
祖父江 正直 記事更新日.12.10.10
東伸株式会社 代表取締役
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東伸株式会社
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■伸銅品商社からメーカーへ、そして真鍮素材の住宅機器部品専業から事業拡大

東伸株式会社は、真鍮を始めとする金属素材を熱間鍛造・機械加工することで、住宅機器向けの水道・ガス用のバルブ金具、電力会社向けケーブル固定部品、ハイブリッド自動車部品などの製造をしている。


現社長、祖父江正直氏が後継者候補として父親の経営する当社に入社した当時は、昔から続けていた住宅機器関連の仕事のみで、製造現場はベテランの職人が営業担当役員の渡す簡単な仕様を書いたメモ用紙をもとに、経験とノウハウでものづくりをおこなっていた。
当社が製造業を始めたのは昭和40年代後半。もともと伸銅品商社であったが、大量の材料を掛売りしていた取引先が倒産したことから、代金回収と併せて鍛造工場を取得したところから、商社から製造業へと転換が始まる。技術者や取引先を引き継ぐことができ、真鍮を素材とした住宅設備向け金具などの製造を開始、昭和51年に本格的に転換していた。
現在、祖父江正直社長が社長に就任して1年。入社してから15年の間、様々な改革の先頭に立ってきた。

新規販路を積極展開し、住宅機器関連比率は50%ほどに低下、1業界の景気の波をまともに受ける経営リスクを減らすことに成功した。また、生産管理や文書管理をコンピュータ一元管理で行うなど管理技術を大きく向上させた。

■生産・作業指示の標準化と生産工程の「見える化」

祖父江氏の入社当時。営業を担当するも、当時営業担当をしていた役員の現場へのオーダー伝達は「仕様を簡単なメモ書きで現場に指示する」という方法だった。祖父江氏はこれになじめず独自の生産指示を行っていた。両者のメモが混ざり合って、当然のごとく、製造現場は大混乱。営業担当が2人になったため仕様の表し方がバラバラだった。
そこで、指示方法を統一するためコンピューター管理することを決意する。
「ベテランの技術者が自分たちのノウハウや経験値という『職人の呼吸』の中で生産していましたので、自分が受注した案件が社内でどのような加工進捗状況にあるのかもわからない、またその経験値が会社として何も残せない状況でした。一番の新人である自分からみて、何がどう動いているのか全く見えない状況を改めたかったので、販売受注管理のパッケージソフトを導入しました。受注を手書き伝票に書いて、それを入力、そして製造指図書としてプリントアウトしたり、販売管理に活用するという単純なものだったのですが、導入当初は、それはもう大反対を受けました。『こんなに入力するよりも、わかりきった部品が大半なのだから口で指示した方が早い』とも言われましたが、自分が後継者になるという自覚もありましたので『とにかく自分の指示通りに動いてくれ』と社員を説得しました」と当時を語る祖父江社長。
受注情報のコンピューター管理の定着を進めるとともに、文書管理ソフトで設計図面をファイリングする仕組みも加え、生産指示書で工場内のオーダーをコントロールする体制を整えた。
今では、製品や工程パターンを入力すると、その製品の最新図面、作業工程やその責任者はもちろん、工程の管理項目や使用する金型の棚ロケーションから過去に発生した問題履歴までが一覧で工場への作業指示書として出力され、生産工程の「見える化」に成功している。

また、梱包工程についても、同様の指示書が作成され、どういう箱にどのような配列で梱包するのかということがわかるため、納品先からは『毎回同じ梱包状態で納品され、自工程の作業が取り掛かりやすい』と好評である。

■熱間鍛造業界では早いISO取得、有力な営業ツールに

入社当時、祖父江社長より若い社員はおらず、新たな取り組みに抵抗感が強かった。
そこでヤル気のある若手を採用し、業務改革の中心メンバーとした。今、そのメンバーたちは30代になり現場のリーダーとして中核業務を担っている。
平成12年から13年にかけISOの取得にも挑戦。

「当時、ISOが認知され始めたぐらいの時期で、利益に直接つながらない管理のために膨大な書類作成をすることに大きな反発がありました。ただ、ISOは他社との差別化につながる営業ツールになると考えていましたので、できないといって終わらせるのではなく、できるためにどうすればいいのかを社員と議論しながら進めました。入社3年目ぐらいだったのですが、ISO取得の過程で工場の内容も非常によく分かるようになり、自分自身には非常に良い勉強になりました。ISOとコンピューター管理を同時期に進めたおかげで、ISOによる管理手法を意識し、工程マスター、現場管理、客先情報を始めとするデータの一元管理をしたため、ISOの審査・更新でも全てパソコン画面上で受けられる状況になっています。定期的に審査が入ることから、現場も緊張感を維持できますし、取りっぱなしにならず、常にローリングしていくことや、その結果として一定以上の管理レベルの証明になるところがメリットです。自動車部品の仕事をいただけるようになったのは、私ども規模の熱間鍛造業界でも早くから取得していたおかげだと思っています」。


■新規受注はほとんどがネット経由。その営業方法は?

「今は新規のお客様はほとんどがインターネット経由です。HPを作って待っているだけでなく、サプライヤー募集という企業を中心にどんどん営業メールをうっています。同じお客様であっても、ご担当者が変わっていたり、資材の調達事情が変わっていたりする可能性もありますので何度もメールするようにしています。飛び込みで営業をするよりもストレスはたまりませんし、夜会社に私一人になっても営業することができます。電話であればけんもほろろにお断りされてしまうことも珍しくないのですが、メールでは現状必要がない旨をご丁寧なメールで頂戴することすらあります。もちろん、数十社にメールしても反応があるのは1・2件程度ですが、当社規模の企業であっても着実にお客様を増えすことができています。中には当社では対応できないオーダーもあります。こうしたオーダーは、当社よりも充実した設備で加工技術を持っておられても、営業がなかったり、営業を全くせず加工技術の高さを売りにした『加工専業』の企業さんにお願いするのです。こうした企業さん側では不得手な営業をすることなく受注ができ、当社もこうした企業のお力をお借りすることで、自社技術ではまかなえない分野の新規の営業展開をすることが可能になったのです。今では10年前とはメインのお客様も変わっていれば、突出したお取引先も減り、経営リスクの分散もできてきました」。

現在では、熱間鍛造加工による素材強度の高さや加工時間の短縮化、コスト削減などのメリットに興味を示す案件も多く「鍛造から切削までの一貫生産対応と『徹底した管理』」を強みにした提案を行っているとのこと。


「一度現場を見に来ていただければ、管理状況にご納得をいただけるお客様がほとんどです」と自信をのぞかせる祖父江社長。入社以来の挑戦が結実した「管理技術」が、自らの営業活動を後押ししている。


取材・文 有限会社アドバイザリーボード 武田宜久