ネットと経営戦略をリンクさせ制御盤業界でNO1を目指す
石田 繁樹 記事更新日.13.01.04
株式会社三笠製作所 代表取締役社長
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株式会社三笠製作所
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■独自の展開で成長

制御盤は機械や生産ラインを制御・操作するためのスイッチ・計器類をまとめて据え付ける盤である。制御盤メーカーの多くは機械メーカーの協力企業としてオーダーを受注する業界であるが、そんな中、9種類のコンセプトホームページと24時間電話対応、3時間以内迅速対応、3年間保証の独自アフターサービスにより、多様な業種からのオーダーに対応する制御盤メーカーが株式会社三笠製作所である。 ホームページ、冊子・新聞発行、無料技術セミナー、ショールーム開設、キャラバンカーなどを戦略的に活用し、機械ユーザーへの積極的な販路開拓により、ネット経由オーダーは全受注の90%を占める。



■情報提供サイトと冊子で新規開拓、会社が変わり始める

1978年、現社長の石田繁樹氏の父が電機メーカーから独立・創業し、電気工事や受託生産をしていた。1986年には且O笠製作所として法人化、2000年に後継者となったのが石田社長である。
当時、工作機械業界向けの仕事がほとんどだった。業界の繁閑の差は激しく、そこへ納品する制御盤メーカーとしては経営状況は業界の動向に委ねるしかなかった。
しかし、ある時気付く。機械が入っていれば、ほぼ間違いなく制御盤は使われている。つまり現在の主力取引先である工作機械業界だけでなく、あらゆる業界に販路拡大の可能性があるということである。とはいえ、全国を営業に回るわけにもいかず、ホームページを使った受注ができないかと考えた。

「当時はまだまだ会社案内程度のホームページが大半でした。そこで制御盤.comという情報提供サイトを始めました。立ち上げにあたっては、社員と掲載する情報作りのための合宿を行い『保全性良く、早く作る』ためにどういう情報があればよいかを、付箋紙などに書いて貼り付けて整理していきました。それをまとめたものが情報サイトの内容となったのですが、まだまだこうしたコンセプトに特化したホームページが珍しかったせいか、見積の引き合いが入ってくるようになりました。それと同時に、『こんなことで困っている』『こんなことができないか』というコメントもいただくようになり、業界ごとの需要動向もわかるようになってきました」と石田社長。



こうして新規の取引先はネット経由で少しずつ入るようになる。これに可能性を感じた石田社長、別のアプローチ方法を考えた。

「当社は受託・技術提案型の企業ですので、仕事をいただくには、当社の技術をどうアピールするのかが問題になります。そこでホームページの内容を冊子にしました。つまり『技術のカタログを本』にすることにより、『技術を形にして見せる』ことができたわけです。当時のamazonを探しても実務的な制御盤の書籍はほとんどありませんでした。そこへ、当社のような中小企業が『冊子を作成しました』と持っていったのですから、大きな反響をいただくことができました。ここから会社が変わり始めました。情報提供サイトを軸にしたビジネス展開のモデルが有効だとわかりましたので、『制御盤設計.com』を立ち上げ、それを冊子にし、もともとの情報サイトに情報も追加、その内容も本にしました」。


■冊子を活用し制御盤セミナーを開催、大好評

さらに、反響の高かった冊子を使った展開ができないかと考える。次に浮かんだのはセミナーの開催だった。調べてみると、実務的な制御盤に関するセミナーはなかった。しかしセミナーを開催することで当社のノウハウが流出するのではとも考えたが「中国から来ている実務経験2〜3年の研修生でも立派に仕事をこなしていることを考えてみると、自分が思っているほどのノウハウは実はないのではないか」と割り切ったとのこと。この頃になると情報サイトを通じて「情報は出した分、帰ってくる」ということを実感していたことも大きな後押しとなった。FAXでDMやホームページで募集したところ、思いもよらないような大企業を多数含む70社程が参加。冊子をテキストに自分たちの経験話を交え話をしたところ大好評。当社にしてみれば「当社のできること」をたくさんの企業の前でPRしたことにより、後の商談にもつながったとのこと。こうして様々な方法でたくさんの企業とのつながりを持つことに成功。この関係を維持し続け「忘れられない」ために始めたのが「新聞」発行である。取引のあった企業だけでなく、セミナー参加や情報サイトで問い合わせを受けただけの企業にも3ヶ月に1回発行し、配布している。


■コンセプト別に情報サイトを全面展開、会社の方針決定に活用

今では情報サイトを一段と戦略的に活用している。当社が制御盤に関することであれば幅広く対応できることを知ってもらおうと、制御盤設計から保全までをコンセプト別に「コストダウン」「小型化」「海外規格」「設計」「中国盤」「予知保全」「クーラー」「設備安全」「基本作業」と9サイトにまで増やした。このように制御盤にまつわる全ての対応のサイトを作り、全てについて冊子を作りセミナーも開催した。

「このように、コンセプト別にすることで、お客様の要望がどの情報サイトで多くなってきているかがよくわかるようになったため、会社の方向性が自信を持って決められるようになりました。今は『短納期』『海外規格』『コストダウン』に力を入れています。こうしたお客様の要望が高い仕事は、コスト競争に巻き込まれにくく、経営の安定にもつながります。特に海外規格についてはお問い合わせが多く、毎月のようにセミナーを行っています。海外に機械を出荷するときに、国際規格のIECの下『EN統一欧州』『ANSI米国』等のそれぞれの規格に対応しなければなりません。これら規格の基本は『感電防止』『火災防止』『異常動作の防止』です。まずこういったことからセミナーでお話しすることで、海外規格の取り組みをする際に当社にもお声掛けいただくきっかけにもなるのです」。

こうしたニーズ対応型の情報サイトだけでなく、受注を前面にした制御盤の通販サイトも2つ展開を始めた。1つは板金図面・部品リスト・電気回路図をメール送信してもらえば30分で見積もり回答する「通販.com」。多様な見積に対応する過程で多くの種類の図面が読めるようになったとのこと。もう1つは要望の多かった制御盤の箱を販売する「制御盤の箱.com」でこの10月に立ち上げたばかりだ。このように日々ネットを経営戦略とリンクさせながら進化させている。


■技術を現物で見せる「ショールーム」と「キャラバンカー」

当社の技術を目で見てもらうための手段として、業界唯一の制御盤のショールームも設けている。制御盤は受注に基づき作成するので、プロダクトは設計図を含め顧客のものになり、手元には何も残らず、自社技術を見せることは難しい。そこで、独自で設計し部品メーカーの協力も得て、仮想の機械に対する制御盤を展示することにした。セミナー会場はショールームの2階で開催される。セミナー受講者が当社への興味が強くなったところで、自社の技術を形にして見せることができるため強い印象を残すことができる。さらに、展示物を持ち出して見せにいけるようにしようと、キャラバンカーも始めた。全国各地、要望があれば展示品を積んで、出前セミナーを行う。

「これは、お客様の背中を押す効果があるようで、結構受注につながっています。当社は、最近初めて営業マンが入社したほどで、営業の専門家がいません。そんな人間が丸腰で営業に行っても通用しないのは当然です。そこで、こうしたサイトや冊子、新聞、展示物、セミナーという武器を持って行き、現場目線でお話をする仕組みを作ったのです」と石田社長。


■事業所の拡大、中国と福島

事業の拡大に伴い、愛知県にとどまらず、国内外に事業所を相次ぎ設けるなど、その動きも急である。

中国進出を決意したのはコストダウンという切り口である。

「当社に来ていた研修生に現場の中核を担ってもらうことにし、大連ではハーネスなどの部品の組立や制御盤の組立・検査、筐体の板金〜塗装を行う製造会社を、青島では現地での据付工事まで行う現地法人を設立しました。これにより、中国で生産した筐体や部品を日本へ輸入し当社が制御盤の生産をするケースや、現地で組み付けた配電盤を日本へ輸入するケース、さらには中国で組み付け中国へ納品するケース、中国で組み付けヨーロッパへ輸出するケースなどコストダウンだけでなく多様なニーズに対応することができるようになりました。また、日本で製造した機械を中国へ納品するケースでは、当社の日本語を話せる中国人スタッフが中心になり据付工事を行うこともできます。日本語での打ち合わせもできますし、通訳も不要になり、納品される際の日本企業の人的な負担やコストを減らすことが可能となります」。
さらに大震災の直後、福島にも事業所を設けた。

「2011.3.11の地震の時、自分にも何かできないかと4月に福島いわき市へ行きました。そこでわずかでも現地の力になれることはと考えた結果『雇用を作ることしかない』と、現地事務所を立ち上げることを決め、その場で事務所の賃貸契約を結んできました。復興事業目当ての進出ではないことは驚きや感激を持って受け入れていただいたようで、多くの方にご協力をいただくことができました。経験者の方を雇うことができ、現在では部品の製作だけでなく制御盤もできるようになり軌道に乗ってきました。現在『福島発』で被災者の経験を活かした防災製品の開発を始めています。福島を安全・安心のブランドとして世界に向けて発信できればと考えています」と未来に向け熱い思いを語る石田社長である。




 

取材・文 有限会社アドバイザリーボード 武田宜久