科学的アプローチによる食品リサイクル飼料で
新しい畜産経営を
高橋慶 記事更新日.13.05.22
有限会社環境テクシス 代表取締役
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有限会社環境テクシス
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http://www.eco-techsys.com/


食品リサイクルの理論派社長

 2008年、新たな試みとしてマスコミを賑わせた食品リサイクルがある。
ホテルで余剰分となったパンを飼料化し養豚に使用、この飼料で育った新鮮な豚肉をホテルで提供。従来廃棄されていたパンを中心としたリサイクル飼料を使用することで、霜降りの度合いが多く旨味のある「三州ポーク」の地産地消と食品リサイクルとの両立を実現したと話題になった。このホテルアークリッシュ豊橋と養豚業者のトヨタファームをつなぐキーマンとして飼料化を担ったのが有限会社環境テクシスの高橋慶社長である。

 こうした成功モデルなどをきっかけに、食品リサイクルの「理論派」として一躍知られるところとなった。講演会講師や雑誌の記事執筆依頼が急増中である。


不安だらけの環境ビジネスでの起業

 有限会社環境テクシスの設立は2005年、高橋社長32歳の時。浄化槽メーカーを退職し、大学での専攻であった農学の知識を活用した環境ビジネスを行うための独立であった。
 「在職中は3D-CADを使った設計・開発が担当だったのですがを、浄化槽の開発に関わる電気工事や微生物の研究、さらに開発案件の特許取得まで幅広い業務を行なっていました。当時は大変でしたが、現在ではとても役に立っています。また、トヨタ自動車出身の方もおられ、工程管理や改善手法などものづくりに関わることも鍛えられました」と高橋社長。

 独立にあたっては不安だらけだったとのこと。
「貯金は初期投資に当てたのですが、本当に事業が成り立つのかどうか、おっかなびっくりで、借入は100万しかしませんでした。浄化槽の設計者だった人間が畑違いの環境ビジネスをするのですから、全くの異業種で業界の知り合いもいませんし、販路も仕入先すらありませんでした。大学の先生の紹介や、親戚の取引先の食品メーカーの紹介など、あらゆるツテを頼って細々と有機肥料の製造販売を始めました。食品メーカーに努めている大学の研究室の先輩から『食品汚泥から肥料を作っている』という話を聞いていましたので、汚泥の処理に困っている食品メーカーから処理費をもらって汚泥を引取り、肥料にしてそれを販売すれば良いビジネスができるのではないかとソロバンをはじいたのです。しかし、思ったほどは利益が出ず、しばらくして壁に突き当たってしまいました」。


地域との連携から生まれた食品リサイクル飼料事業

 転機を迎えたのは2007年。豊橋のサイエンスクリエイトで、東三河で農業、食品産業等の異業種連携を狙った『食農産業クラスター推進協議会』が立ち上がる。当社も参画し、食品メーカーや飼料供給業者、畜産農家、商工会議所等との付き合いが深まり、そこから「大学で学んだ生物や化学の専門知識があるのなら豚の飼料を手がけてみないか」という引き合いが入る。

 「実は肥料と飼料は分析方法が同じなど、化学的知識で通じるものがあるのです。また、堆肥は発酵させるのに2ヶ月かかり運転資金も保管場所も必要になりますが、飼料はその日のうちに出荷することができるので回転率も高く、保管場所も小スペースですむのです」。

 ただ、飼料の製造は単純な話ではない。産廃業者が排出された残飯で養豚をしようとしても肉質が悪かったり、大きくならなかったりと失敗するケースも多々ある。そこで高橋社長は農林水産省の事業を活用し、農協や愛知県農業試験場、大学、養豚業者などのグループで飼料の開発・検討を行う中で、現場情報、顧客ニーズや多くのケーススタディに出会うことができた。


乾燥飼料と液体飼料

 当社でリサイクル製造する飼料は乾燥飼料と液体飼料の2種類があり、それぞれに特徴を持つ。
 「乾燥飼料は既存の設備が利用できますが、液体飼料は新しい給餌の設備が必要になります。反面メリットもあります。デンプンを餌にすると肉質が上がるのですが、乾燥飼料では材料費が高くなってしまいます。飼料代は飼育原価の6割を占めるため、養豚業者の経営を大きく左右します。そこで、デンプンを含むじゃがいもの皮を使った液体飼料にするとコストダウンとなり養豚業者にも大きなメリットです。また、消化が良いため養豚期間が短縮することから、1匹あたりの飼料の量が減らせることになります。加えて、豚舎が空く期間もできますので病気も減らすことができるメリットがあります」。

 これら飼料の原料となるリサイクル食品の仕入先は多岐にわたる。
 乾燥飼料はもともと乾燥していた食品、パン、お菓子クズ、インスタントスープ、バームクーヘンなどを原料としており、液体飼料はもともと水分を多く含有していた食品、ニンジンくず、モヤシくず、じゃがいもの皮、牛乳、シロップ、寒天ゼリー、味噌、甘酒、塩こうじ等が原料となっている。

 「原料は、廃棄物として当社がお金をいただいて処理するものが多いのですが、質の良い物だけを吟味して回収する場合などには、有価物としてお金を当社から代金をお支払いすることもあります。また、利用量を慎重に調整したり、リサイクル飼料に向かない材料もあります。例えば、味噌や塩こうじなどは塩分濃度を計算して適正量を混ぜる必要がありますし、豆腐のように植物油などが含まれているものは脂が多くなりすぎてしまうため使えません。このように食品製造工程を熟知し、引き取る材料の目利きも必要で、なおかつ科学的なアプローチがなければ、よい飼料はできません」と、どんな食品でも飼料としてリサイクルできる訳ではないと食品リサイクルの難しさを語る。
 現在は売上の90%が飼料を占める主力事業である。


ネットワークと知識を活用した新たなビジネスモデルへ

 最近は飼料化機械メーカーと連携した動きも進んでいる。飼料化機械メーカーが、食品廃棄物を出す食品メーカー等に対して提案を行う際に、出来上がった飼料を当社が受け皿として有価物として購入するという提案も同時に行うのである。食品メーカー側は、お金を払って処理していた廃棄物が有価物として引き取られるというコスト面のメリット、ISO14000取得企業では廃棄物が減らせることで成果があげられること、廃棄物を出す際のマニュフェスト関連事務がなくなるなどの事務コスト面等様々なメリットがある。機械メーカーではマシンが売れてメリット、当社は、安定的に飼料が得られメリットとなる。

 こうした取り組みの他、今後は全国へネットワークを拡張していきたいとのこと。
 「食品リサイクルは許認可の関係もあり、地域性が高い仕事です。全国にネットワーク形成が出来れば、遠方からの当社へ依頼があった場合でも、その地域の企業にお願いすることができます。幸い講演会への講師依頼や展示会への出店などでいろいろな地域の方とお知り合いになるチャンスもたくさんあります。またブログをご覧頂いた方からの反応もいただいています。こうしたきっかけを大切にしてネットワーク形成を今後も続けて行きたいと思っています」と高橋社長。


 

取材・文 有限会社アドバイザリーボード 武田宜久