株式会社三光刃物製作所は現社長の森島裕貴氏の父親が1971年に創業。創業前に木工関係の仕事をしていたことから、木工用刃物の製造業として独立した。
創業地の熱田区、現在地の中川区ともに運河の流域で材木業者や家具製造業者が林立し、こうした事業所で使用される回転工具の刃を製造していた。
一般的なカッター、チップソー、ホールカッター、ルータービット等の刃物を中心としていたが、木枠や柱時計の外枠などデザイン性の高い加工を短時間でするための「総型刃物」と呼ばれる特殊な刃物も大から小まで幅広く製造していた。
しかし、マンション建設が増加するにつれ家具の需要が減少、つれて木工用刃物需要も減少していった。ユーザーが加工する素材を木材(無垢材)から、合板、MDF、パーチクルボード、LVLなどへと変化させていく中で、求められる刃具も変化していく。また、メラミンシート貼りや、紙張り、単板張りといった木質系複合材料が増えてきた。また、樹脂系の素材を加工するところも増えてきた。木工事業者は手持ちの木工加工機で樹脂加工に向いた刃物を使用し加工するニーズが強く、独自のアプローチによる樹脂切削刃物が求められた。また、一方で、樹脂加工業者は、マシニングセンターによる加工を中心としていたので、マシニングセンターによる加工プロセスを学び、それぞれの加工アプローチの長所を活かした刃物づくりをすすめるなど独自の技術を積み重ねた。
その後、「軟質系非鉄金属の切削工具」においてはアプローチが近いことから、金属素材の中での柔らかい銅、アルミ向けへの対応も進めることになる。特に家具メーカーに関連した建材やエクステリアの素材として、アルミは鉄に変わる素材として利用が広まっていたことからもニーズが高かった。
ステンレス(SUS)素材の加工は一般的に難しく難削材の一つである。穴あけ加工一つをとっても、切り屑の排出が悪く、ドリルの根元付近に切り屑が巻き付いてしまう。これを防ぐためには、切り屑を切断しながら穴をあける「ステップ加工」をするのだが、その分加工時間が長くなることや工具の寿命が短くなることが課題となる。素材ごとに硬さや粘りなど様々にパラメータが異なるため、それごとに最適条件をだすための技術力が求められる。
「こうやって苦労してお客様が困っていた技術的な課題をクリアすると、今度は『刃物が長持ちし過ぎで次の注文が来ない』という経営上の課題をどうやって解決するのかというのが大変な難問です」と苦笑いする。 |