こうした加工技術のベースとなるのが、「恒温工場」と「人材」である。
工業的長さ測定の標準温度をISOの前身であるISAが20度と定めており、僅かな熱膨張で寸法が異なってしまう精密加工においては、この温度で計測することが求められている。
創業からわずか7年後の昭和49年には、精密加工を実現するために工場の冷暖房工事を行っており、創業後の早い時期から精度を戦略技術として捉えていたことがうかがえる。恒温室を完備したのがその10年後の昭和59年、現在は工場全体を恒温室化している。
「大昔のことですが、納品先から精度が出ていないとクレームになりました。訪問して計測すると、確かに狂っている。これは…、と部屋を見回すと窓が僅かに開いており、20度での再計測をお願いしたところ、要求精度をクリアしていたことがわかりました。このように当社へのオーダーは、こうしたわずかな温度変化による膨張でも影響がでる精度が要求されるケースが多いのです」。こうした加工環境、加工設備があってもそれを使いこなせなければ宝の持ち腐れ。
どうやってこうした加工技術を身につけ、伝えているのか。
「当社では、特別な研修をしているわけではありません。また、社外での研修を受講させているわけでもありません。専ら、新入社員に対しては、先輩が教えながらスキルアップする方法をとっており、加工物を作る場合にも、簡単な部分から担当するなど、社員のスキルや得意分野によって工程分けをしています。また、ある程度のスキルが高くなってくると、社員同士で『ここはどうしたらいいか』など教え合っています。
個人のスキルアップも自主性を尊重しており、ある日、社員から「放電加工機を使用して某人気のキャラクター状に鋼板をカットしたプロダクトを技術訓練課題としてつくってみたい」との申し出があり、そのときも積極的に後押しをしました。しかし、いざやってみると、キャラクターは自由な曲線ばかりで、一つの曲線をカットするにも、プログラム上は幾つもの円弧の重なりとして描かなければなりません。これの積み重ねでキャラクターの形状が出来上がっているため、円弧も数百になったと思われるのですが、相当なプログラム行数を積み重ね作り上げました。このように、従業員が自主的に楽しみながら技術を向上させていってくれるので、非常に頼もしく思っています」。
多様な分野での受注をしていることが、当社の技術力向上の大きな強みとなっている。今後も「他社がやれない」加工、「どこもやってくれるところがないと悩んでいる」加工に果敢に挑戦し、受注分野の裾野を拡げていきたいと語る平松社長である。
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