他社がやらない金属接合技術を磨け!
      専業加工メーカーの挑戦

代表取締役 脇田 忠司

記事更新日.2018.12

江洋圧接株式会社

■問い合せ先
江洋圧接株式会社
〒491-0112 一宮市浅井町東浅井字大島1564番1

特殊金属接合(摩擦圧接加工、電子ビーム溶接加工)の専門加工

江洋圧接株式会社は、摩擦圧接加工と電子ビーム溶接加工という2つの特殊な金属接合技術により加工を行っている。
摩擦圧接加工は、金属同士を高速で摩擦させ接触面が軟化したところで強い圧力を加え接合する技術で、鉄とアルミなど異材同士の接合に威力を発揮する。また、同種材の接合では母材以上の引張強度ともなる。
電子ビーム溶接は、真空中で電子ビームを工作物の表面に照射して局部的に加熱し、溶接作業を行う加工方法である。ビーム径を小さく絞ることで、ピンポイントで深い溶接が短時間に可能となるため、母材の歪みが最小限となる。
こうしたニッチな接合・溶接技術で、電機メーカーを中心に、モーター、エレベーター、航空機部品加工に採用され、大学などの試験研究機関などの多様な接合・溶接オーダーにも対応できる国内でも数少ない専門加工メーカーが江洋圧接株式会社である。





摩擦圧接の可能性、異材接合とコストダウン

摩擦圧接は加工機が1962年に量産実用化されたばかりの新しい技術。これに目をつけたのが創業者の脇田洋太郎氏。1974年に江洋圧接株式会社を設立、当時、専業加工メーカーが珍しかったこともあり、創業当初から鉄とステンレスなどの異種金属の接合オーダーを獲得することができた。
摩擦圧接は、高速回転させた材料と固定材料とを接触させることで行う。一定の圧力(P1)をかけると接触面は摩擦熱により温度が上昇、軟化する(摩擦発熱工程)。ここで回転を停止し、同時にP1以上の圧力で押圧(P2)し安定させる(アップセット工程)。空気中で金属材料は表面に酸化被膜があるためにそのまま圧力をかけても圧着できない。摩擦・軟化することで皮膜の下の純粋な金属が露出することで金属同士の強力な接合が可能となる。溶接とは異なり、高温・高圧のもとでの広い面で接合するため引張強度は母材よりも強くなる。




「中でもアップセット工程の圧力(P2)が重要になります。適切な条件でなければ割れが生じたり、接合力不足となったりします。また、接合部の接合面積や形状などによっても条件は変化します。このように条件設定が重要でノウハウの積み重ねが必要となりますので、父の創業当時、新しかったこの技術の条件設定では相当苦労したのではないでしょうか」。
現在は様々な金属径に対応するため5台の加工機が稼働している。中でも直径2.5〜6mm用の小型機、30〜95mm用の大型機は当社独自のオーダーメイド機であり、他社ではやれない小径接合・大径接合が可能となる。特に小型機では医療用部品向けにチタンとステンレスとの接合、薄肉の極小パイプなどを始めとして特殊な部品加工が中心となっている。
「摩擦圧接はコスト競争力で大きなアドバンテージがあります。例えば写真のようなバルブやシャフト形状の造形の場合、圧接であればヘッド部分と軸部分とをそれぞれコストが一番安い方法で造形し接合すれば完成です。削り出しと比較すると、削り代の大きさや切削時間・加工費に比較してコスト面で非常に有利になります。またコピー用のローラー部品の場合では、ローラー部分を中空のパイプ状にし軸部分を圧接することで、コストダウンだけでなく軽量化にも大きく貢献できます。」とメリットを語る脇田社長。





接合をコントロールできる電子ビーム加工

2002年、圧接技術に加え新たな接合技術として取り組んだのが電子ビーム加工である。
電子ビーム加工とは、真空中でフィラメントを加熱し放出された電子を高い電圧で加速、材料へ衝突させた衝撃による発熱を利用した溶接である。電磁力を使用したレンズで収束させ焦点をしぼることで、熱を集中し溶接部を細く深くすることができる。そのため高熱となる範囲が狭くなり、溶接箇所以外の部分は熱変性による歪みが最小限に抑えられる。異材同士の溶接の場合は、わざと焦点をぼかしてゆっくり温度を上げることで割れを防ぐこともできるなど、応用範囲は広い。
「最大のメリットはピンポイントで溶け込みの深い溶接が可能だ、ということです。図のようにTIG溶接などと溶接断面を比較するとその差は歴然としています。熱の広がりを抑えつつ深い溶接が可能となるため、コンマ1mm台の薄板溶接も最小限の歪みで収まります。その他、奥深い部分の溶接も焦点距離を長く調整することで可能ですし、出力数を変えることにより溶接の深さを調節することも可能です。反射が大きく光線が深く入らないようなレーザー加工が不得手とする金属であっても、例えば0.3mmだけ溶接するというような精度の高い溶接のオーダーにも応えることができます」。


バルブ、ギアーシャフト、アルミを使用した熱交換器部品から電気自動車の抵抗部品や航空機、動作試験用の試作部品、特殊材料を使用した部品まで多様な溶接用途に使用されている。



小ロット、極小形状、特殊材、難加工試作…持ち込まれる難題を解決せよ

「圧接加工も電子ビーム溶接も大きな加工ラインの中に組み込まれていることが多く、専門加工業者は日本でも片手で数えるぐらいです。どちらもニッチな技術ですので双方をやれる加工業者となると日本でも当社ぐらいではないでしょうか。専業加工メーカーとして接合に徹していることから『他社でできなかったのだが、なんとかならないか』というお問い合わせを多数いただきます。複数の接合方法を持っているからこそ対応できることもたくさんあり、タングステンなどの特殊材やプラチナとチタンの接合など難しい案件でも積極的にチャレンジしています」。
主力ロットは月300〜500個だが、設備用途などの極小ロット部品では1〜2個から、多い部品では月1万個まで。小ロット対応をしていることから試作加工依頼も多くある。中でも治具を必要とするような難加工試作ではそのまま量産に移行するケースもしばしば。東海三県が7〜8割と中心だが、微細加工オーダーでは遠くは東北・九州からのオーダーも寄せられる。
「ニッチな加工分野ですので、こちらからお客様を探すのは大変難しいのです。とにかくお客様に『見つけてもらう』しかないのです。そのため、HPや取引先のご紹介、展示会出展などPRにも努めています。既存のお客様も製品が変わっていく中で継続的に受注できるよう柔軟に変化に対応し、チャンスがあったときに逃さず良い提案・いい仕事をしていきたいと考えています」と将来を考える脇田社長である。



取材・文 有限会社アドバイザリーボード 武田宜久