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樹脂を熟知し
     独自の生産技術で高精度高品質加工を

代表取締役 古川 匡人

記事更新日.2019.04

株式会社古川樹脂工業

■問い合せ先
株式会社古川樹脂工業
〒486-0802 春日井市桃山町1-91-3

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一般的に樹脂を一つの面で削ると応力により削った面側へU字型に変形する。温度変化にも敏感で日々の気温の上下だけでなく1日の気温の上下でさえ材料が収縮する。さらに樹脂ごとにも特性があり、ある樹脂を100mm±0.01mmの精度の正方形に加工する場合、そのまま100mmで加工すると、材料が膨張し100.03mmとなってしまう。対して99.98mmで加工するとピタリ100mm±0.01mmで仕上がる。 このように樹脂ごとに異なる性質を熟知し、室温25度にコントロールされた恒温工場で樹脂精密切削加工を行っているのが株式会社古川樹脂工業である。




高精度、高精密での加工を中心とし「難しいオーダーは古川へ」「古川でできないと他に頼る先がない」と取引先の信頼は厚い。


独自の工夫で多品種少量対応

褐テ川樹脂工業は古川克己氏が樹脂関連メーカーから独立、1982年5月春日井市で事業を開始する。手と動作が連動して切削する彫刻機を2台導入してのスタートだった。まだ樹脂切削を専業とする企業は少なく、独立当初から受注は確保できていた。
「1988年には金属用のマシニングセンターとCAD/CAMを導入しています。当時としては業界の中でも先駆けた取り組みで、高品質・高精度を強みとする当社の技術のベースとなっています」と現社長の古川匡人氏。
このころ現会長(当時の社長)の克己氏と工場長とが「F工法」と名付けられたマシニングセンターを活用した独自の加工技術を開発。通常は治具で何度も固定し直しながら加工するところを、治具が不要で通常の後工程を大幅に減らせ、しかも、立部が1mm以下の肉薄加工などでも精度が確保できる工法。加工の工程数を減らすことでコストや納期を削減することに成功した。
「職人としての技術というよりはCAD/CAM導入をきっかけにした『プログラム上の発想』に近い加工上の工夫です。この工法は今も受け継がれて、30年後の今も現場で全員が使っています」。




生産ロットは1個〜数十個の多品種少量生産で、加工物は5mm〜1500mmまでと幅広い。これを13台のマシンを駆使して加工する。
「特に700mmを超える材料は、加工できる設備を持っている企業も少ないことからオーダーが集まります。また、こうした大型の加工は発注先から材料が支給されるケースが多く、中には100万円近い材料を扱うこともあります。万が一失敗したら当社の負担となることから失敗の許されない高い技術が要求される仕事となります」。


ビジネスパートナーに選ばれる理由

当社がビジネスパートナーに選ばれる理由は3つ。
一つ目は、多様な樹脂材に対応し、高精度加工が可能なこと。
樹脂の精密切削加工を行う時、樹脂の性質を熟知することは直接加工精度に影響する。例えば、ガラス繊維が入った樹脂では切削面が倒れてくるため一旦荒削りし、あえて曲がった状態にした後仕上げ加工するなどの手順が必要となる。曲がる、反る、粘り気、硬さ等などそれぞれの材料特性に合わせた寸法の取り方や削り方を変える必要がある。
「樹脂を熟知することはもちろんですが、それだけでは精度は実現しません。0.01mm単位の精度を求められるため気温の変化による材料の膨張・収縮による影響を抑える必要があります。そのため工場全体が25度になるようコントロールし恒温工場化しています。加工素材は全て前日から工場に運び込み、素材の温度が安定した状態で加工できるようにしています」。
二つ目は、納品されたプロダクトが他社よりも高品質であること。
「設計図通りにできていることは当然ですが、納品物をご覧になったお客様の多くから『他社の加工品よりもきれい』という評価をいただいています。特に初めてご発注いただいたお客様は驚いてくださります。当社のルーチンの加工方法として、0.1mmの削り残しをし、最後にその仕上げ加工をしています。その仕上げ面の良さにご評価をいただき、リピートのオーダーにつながることもしばしばで、加工部品が非常に優秀なセールスマンの役割を果たしてくれています」。
三つ目は、プロダクトへの信頼をベースにした発注元企業からの相談に対し加工提案など適切な提案ができること。
「この樹脂を使った設計ならこうした方が精度や強度が上がる、この形状はこの精度以上には出せないなど、材料選定や設計段階へのご提案もさせていただいています。大手メーカーの設計の方といえども、材料特性や加工について多岐にわたる樹脂材の全てについて網羅されているわけではないと思いますので、こうした提案をわかりやすくご説明すると受け入れていただけるケースも多くあります」。


専任担当制のメリットを全社でも共有する取り組み

技術力の高さは「専任担当一貫製造」体制によるところが大きい。
「工程の最初から最後まで一貫体制ですべての工程を一人の担当者が加工を行います。図面を確認し材料を用意、たとえ1個の部品を作るのでもCAD/CAMデータを作成し加工、寸法チェックまでを全部やっています」。
多能工化には2つのメリットを生む。
一つは、継続的なオーダーであれば同じ担当者となるため、図面・指示に従来との違和感がある場合は発注元にフィードバックすることができる点である。時には図面間違いが見つかることもあれば、間違いではなく変更点の再確認となったりもするなど顧客との信頼関係の向上に役立っている。
もう一つは、全工程を担当する多能工へと成長する過程で加工に関するトータル的なノウハウができあがる点である。さらに現場の全員が使用するCAD/CAMで共有化するため、個々の加工ノウハウは会社の財産として残すこともできる。



では、多能工の育成には時間がかかるという課題は、どう解決しているのか。
育成以前に採用に苦しむ昨今であるが、数年前から始めた新人の採用活動はご多分に漏れず当初空振り続きだった。しかし、合同説明会などに参加することで他社の条件より見劣りすることを知ることで、『世間並み』の会社にしようとノー残業デーを設けたり休日を増やしたりするなど働きやすい環境づくりに努めた結果、採用を実現させた。
「昨春現場に初めて女性が入社したのですが、彼女は1年足らずで0.01mm精度が出せるようになっています。彼女の入社の決め手は『現場の雰囲気が良かった』でした。昔は職人気質の人が多く『自分の仕事には専念するが他の人のことは干渉しない』という雰囲気でしたが、今はベテランも教える風土になって新人の成長に一役も二役も買ってくれています。彼女の場合、高精度加工だけでなく3Dモデルを社内イチ速く作る技術者となり、一年目にして貴重な戦力になってくれています。今春もさらに一人女性が入社しますのでとても楽しみです」。

個人レベルの技術の向上に加え、品質や生産性を向上させる全社的な取り組みも行っている。
「以前は加工技術を過信しすぎ検査体制が充分でなく、コンスタントに月4〜5件の不良があっても、作り直しては再出荷を繰り返しているだけでした。しかし2010年から品質管理会議を開き、工場内で発生した不良の全てについて原因を検証し共有するようにしています。こうして現在では年に1件あるかないかというレベルにまでなりました。また、昨年の7月よりIoTを活用した効率化向上の取り組みを始め、主要な設備の稼働率を見える化できる装置を導入、稼働状況を把握できるようにしました。いざ見える化をしてみると自分で考えていたよりも遥かに稼働率は悪く、これをきっかけとして工程の見直しに挑戦中です。内製化率100%ですので、多くの条件をコントロールできることから高い効果をあげられるのではないかと試行錯誤中です」。



将来のものづくりを見据えて

「3割は大手からの受注ですが、残りは多様な業種からの多様なオーダーですので、景気変動の影響を受けにくく、リーマンショックの年でも赤字にはならずにすみました。加工技術が生命線の会社ですので、景気動向よりも技術動向の方が気になります。3Dプリンタの登場が強力なライバルになるのではと考えたこともありますが、その精度は0.1mm程度。調べてみると月500〜600件のオーダーのほぼ全てが0.1mm以下の精度で、代替される可能性のものはありませんでした。また、素材についても30〜40種類あり、この点も代替の可能性は非常に低いと考えています。しかし、いずれは3Dプリンタの精度も向上するだろうと考え、今から加工データ作成には3Dモデルを必ず作り、いつでも応用できる準備をしています。近い将来、精度の向上した3Dプリンタと精密加工技術とがハイブリッド化した生産体制になる日が来るかもしれません」。

古川社長は未来のものづくりを見据え、社員が苦労して身につけた技術やノウハウを何とかつないでいけないかと考え、IoTやAIの現場レベルの活用を異業種間で研究するプロジェクトにも参加している。
「ベテランの技術や暗黙知をIoTやAIを活用して解析、可視化できないものかと考えています。また結婚・子育てなどで一線を離れることになった人材が、自宅で作ったCAD/CAMデータを工場のマシンにデータを送ることで、居ながらにしてモノづくりをする可能性も考えています。未来の技術を使って過去の技術・ノウハウを現在に活かし、伝えていきたいですね」と将来のモノづくり像を描く。


取材・文 有限会社アドバイザリーボード 武田宜久       
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