大型板金・製缶・アングル組みの強みを活かす
企業ネットワーク

代表取締役社長 山田 剛士

記事更新日.2019.08

株式会社マウンテック

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株式会社マウンテック
〒496-0025 愛知県津島市中一色町字神明20番地

 一般的なオフィスビルや工場、店舗など大きな建物では、6,600Vの高圧電気を受電し100〜400V程度に下げ、コンセントなどから電気を利用している。このように電圧をコントロールする役割を果たすのが配電盤である。駐車場の隅や屋上、工場敷地の片隅など、通常は屋外の物置ロッカー程の大きな金属製の箱(キュービクル)に収められている。キュービクルには、内部への水漏れ、動物や異物などの接触から配線を守る他、ショートや漏電、地震や火災などの事故が発生した際にも、設備への影響を最小限に抑える役割を担うことから高い信頼性が求められる。
キュービクルの製造方法は2つある。一つは板材をプレスで折り曲げ四方の壁面をつくり屋根を取り付ける方法、もう一つは金属のアングルによる骨組みを作ったのち壁や屋根として板材を溶接で取り付ける方法である。前者の板材による方法では、正確に壁面をプレス折りすれば壁の四隅は垂直となり、比較的簡単に壁面が完成する。しかしこの方法で大きなキュービクルを作ろうとすると、巨大なプレス機が必要になることや板材そのもののたわみなどの問題が生じる。一方、後者のアングル組みによる方法は、溶接時に発生するアングルの歪み対策など正確な骨組みをする高い技術が求められる。しかし、耐震性や安定性などの強度は高くなり、また骨材であるアングル同士を溶接することで大きなものでも可変的にかつ一定の強度を維持しながら作ることができる。このことから、大きくなるほどアングル組みのキュービクルが採用されることになる。
長年の板金・製缶技術による大型の板金・製缶・アングル枠製造に強みを持ち、大型キュービクルを中心として発電所向け大型表示盤・デスク型操作盤や高速道路の情報表示板、大型架台(設備機器などの重量物を設置する台)などを、配電盤の10面列盤連結時(=8,000mm)では、全長を±2mmの精度で製造するのが株式会社マウンテックである。






民事再生のアオリから立ち直るため自社の強みを再確認

 昭和23年、現社長の祖父である山田才市氏が配電盤キュービクルの板金加工業として夫婦二人の家内工業を名古屋市内で創業。昭和59年には現在地の津島市へ拡張のため移転する。昭和61年に現社長の父である山田賢造氏が社長に就任。夫婦二人で始めた家業は、現社長の山田剛士氏が入社する平成12年には従業員40名ほどの会社へと拡大していた。
 「大学に入学する頃はまだまだ『いずれは後を継がねばならないのかな』という漠然とした思いはありましたが、現実としてはピンときていませんでした。就職も家業と関係のない近隣の樹脂試作メーカーでした。営業職でしたが担当する試作モデルがどんどん具体的な形になっていくのはとてもおもしろかったです。1年が経った頃、社長である父が『社内で1名欠員が出たので入社しないか』と言われ入社することになりました。」と当時を振り返る山田社長。
 「入社してみると、わずか1年ほどの社会経験にてらしても自社の業務についていろいろな改善点が見つかりました。配電盤キュービクルは、お使いになるお客様の敷地上の制約があり、お客様ごとにサイズもバラバラで同じものはほとんどありませんでしたが、既存の設計をアレンジすれば新規のオーダーに対応できるものも一定割合ありました。しかし、設計図が紙ベースであったため、少しでも変わると設計図段階から作り直しになるなど業務が硬直化していました。改善策などを提案もしましたが、なかなか採用されない日が続き意気消沈していきました。そんな中、平成16年2月に80%ほどの取引を占める取引先が民事再生となったのです。最初に思ったのは『やった、このプレッシャーから逃れられる』でした。ただ、こう思ったのも一瞬で、多くの方に退職をお願いすることになるなど会社の立て直しのために力を注がざるを得なくなりました。この時期を境に会社に対する意識が大きく変わっていきました」。 民事再生のアオリもまだ残る平成21年には会社の再出発を期し、経営理念の策定のため幹部候補者を集めてSWOT分析を実施した。
 「自社のことを知り、強みを再認識するよいきっかけとなりました。それまでは他社が何をやっていたのかも知ろうとしていませんでしたし、他社を知り、比較したときに改めて大型のアングルものに強みがあることを確認できました。また、お客様へのヒアリングにより、手書きの図面類による非効率は他社よりも10年遅れとなっていることを改めて客観視することになりました。このように、大型板金・枠組みが得意、アングルでキュービクルを作る技術力、そしてある程度の生産数がこなせる企業というのは県内でも数える程だということもわかりました。これをきっかけとして、大型アングル技術を活かした大型板金・製缶分野へ特化していくことになります」。




年間の繁閑サイクルを企業ネットワークで克服

 現社長が就任したのは平成28年。自社の収益構造として大きな課題があると感じていた。
 配電盤業界は毎年12月〜年度末の3月がピークで、閑散期には仕事が少なくなるという年間のサイクルを繰り返していた。繁忙期の4ヶ月で1年分の収益を上げ、閑散期には赤字幅を抑えることで年間ではなんとか収益が残るような状況であった。
 父の代ではピーク時に既存の取引先に迷惑はかけられないと考え、ピーク時に合わせた数社の取引先数に絞っていた。しかし、何とか閑散期にも一定の収益があげられるような仕事量・取引先数にできないかと販路開拓の可能性を探っていた。
 「就任1年目は、入社後すぐに参加を始めた青年会議所が最終年となりその役職の仕事も重なり多忙となったため、本格的な取り組みは2年目からになりました。まずは配電盤メーカーをリストアップし次々訪問しました。アングル組みができる会社が減少しつつある中で大型アングルものが得意という強みがある、ということからお話を聞いていただく機会も多くありました。また、関東での建設ラッシュとの時期が重なったこともあり多くの受注をいただくことができました」。
 取引先数が増えたことで受注総量が増え、閑散期でも一定の受注を確保することができた。しかし、繁閑サイクルが同じ配電盤業界からの受注のため、繁忙期にはパンクしてしまうことになる。そこで繁忙期に生産協力してくれる企業を探すことになる。 「同業界であれば皆忙しいのではと思われがちですが、配電盤に関連する事業者、例えば設備メンテナンス関連の企業では、工場の現場が休みになる土日が忙しく平日は比較的余裕がある場合もあり、部分的にでもお願いすることができるのです。このように協力してくださる企業を増やすことで繁忙期を乗り越える体制をつくっていきました。」
 こうした連携先を増やすことで新たな受注開拓になるとも。
 「例えば、当社のような大きな板金・製缶やアングル組みを得意にしている企業は、塗装をお願いできる企業を探すことで『塗装した状態で納品する仕事』を受注することができるようになりますし、塗装企業側も受注が増加します。逆に大型塗装設備をお持ちの企業から大きな板金・製缶ができる企業としてご紹介いただくこともあります。このように、仕事を紹介し合い、お互いの受注を増やす取り組みを積極的に進めています。連携企業を増やすことで、例えば、遠方の納品先でちょっとしたメンテナンスや修理が必要となったときに、地元の連携企業にお願いすることも可能になります。このような体制づくりをすることで、納品後のメンテナンスなどの懸念から遠方のオファーを失注するようなケースも減らすことができるのではないかと考えています」。
 社長就任時には10社程であった取引先は、現在では北関東から中国地方まで60社にまで拡大させ、主要取引先への依存率を社長就任時の55%から40%へと引き下げることに成功した。また従業員も30代以下の若手ばかり9人を採用、さらなる生産の安定性を図っている。



 「こうした体制を構築する過程で、一時的に既存のお客様の追加受注をこなせなくなるなどご迷惑をおかけしたこともありました。しかし、多くの取引先の確保による売上の安定と、多彩なお客様のご要望に対応することで技術力の向上が実現できることから、長期的には経営が安定し結局は長いお付き合いができるのではないかと考えています」。


キュービクル製造業から大型板金・製缶技術を活用するものづくり企業へ

 「当社の製造は1品モノが多いことから、設計の段階からどうやって作っていこうということから始め、形になっていくことがおもしろいし、やりがいがあると考えています。反面、当社の製品は一般の方の目に留まる機会がほとんどないものばかりです。経営者としては、一般の目に触れる製品があればもっとモチベーションを向上させられるのにと考えてきました。実は高速道路の情報表示板の受注はこうしたことがきっかけでした。最近では、金シャチ横丁やオアシス21のモニュメント製造など、少しずつ目に触れるようなお仕事もいただけるようになってきました。また、新事業として駐車場向けの段差スローブ事業を立ち上げ個人の方だけでなく大手企業様からのオーダーもいただくようになりました。配電盤だけ作っている会社というだけでなく『板金・製缶技術』を使ってものづくりをする会社へとシフトすることで様々なお客さんにめぐりあう機会が増えています。今後は連携企業の輪を広げながら、関東にも拠点づくりをしたり、量産モノにも挑戦したりしたいと考えています」と将来に目を向ける山田社長。




 大型板金・製缶・アングル組み技術を企業のネットワーク化で活かす取り組みは、さらなる拡がりをみせようとしている。



取材・文 有限会社アドバイザリーボード 武田宜久