強いものづくりで冷間鍛造ジョイントの市場を拓け

代表取締役社長 鬼頭 佑治

記事更新日.2021.08

協和工業 株式会社

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協和工業株式会社
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強いものづくりで冷間鍛造ジョイントの市場を拓け

ユニバーサルジョイントとは、機械の軸と軸を連結し動力を駆動側(回転する側・動力を伝える側)から従動側(回される側・動力を伝えられる側)へ正確に伝える部品である。双方の位置にはズレがあったり、軸径が異なったりすることが一般的で、こうした回転軸の位置のズレや軸径の違いを解消し、回転動力を伝達するために使用される。両端部分に異なる2つのパーツを接合するための軸穴を備え、接合する角度を自由に変化させる。自動車のハンドルの回転運動を正確にタイヤに伝えるステアリング部品がその代表格として知られ、回転運動を動力とする非常に広範囲な産業機器で使用される。

ユニバーサルジョイントに携わること70年、熱間鍛造が一般的とされる中、常温での成形方法である冷間鍛造による量産に初めて成功。常識にとらわれない発想と職人魂による革新的なものづくり技術を持つ企業として「ものづくり日本大賞」を始め多方面から高く評価されているのが協和工業株式会社である。



腕利き社長、門外不出のジョイントを手掛ける

創業者の鬼頭光治氏は腕利きのゲージ職人で、速くて上手、人の10倍仕事をこなした。トヨタ系の勤務先で腕を磨き、自動車部門ができたときにも初期メンバーに選ばれるなど会社きっての凄腕だった。1942年に独立後も元の勤務先からその腕を見込まれ、引き続き仕事を受注していた。ほどなく、朝鮮戦争による軍用トラック特需でエンジンの増産に追われる中、豊田工機(現・ジェイテクト)では多軸ボール盤の破損に困っていた。使われていたジョイント部品がすぐに壊れ、エンジンのシリンダーブロックの加工遅れに悩まされていた。アメリカから交換部品を取り寄せていたが、すぐに調達難となった。そのため同様の部品ができないかと社内で作り始めたが加工精度が出せない。そこで精度に関しては腕利きで鳴らした光治氏のところへ依頼がやってきた。
「その頃の記録を見ると、治具や検査器、加工の仕方や製造工程の組み方など多彩なアイデアがあったようです。父の職人としての技術の高さを垣間見ることができます」と現社長の鬼頭佑治氏。
試行錯誤の末、1年もかからず壊れないジョイントを完成させた。
その後、豊田工機では製造に関する強力な武器になると考え、門外不出として同社以外に販売することを禁じ、それは10年間続いた。



1962年、10年間の門外不出が解禁され、現社長の鬼頭佑治氏も加わりユニバーサルジョイントの販売を始める。 当初は課題を抱えた客先に売れたがやがて壊れないことが災いし、リピートオーダーがなくなってしまった。
「壊れないことを強みに、農業機械分野へ売り込みを図りました。田畑では泥道や凸凹など悪路の連続で、壊れないジョイントが強く望まれていました。思惑は当たり、すぐにバインダーやコンバインに採用されました。専用機の導入や人の採用など量産体制を整えました。夜昼なく月に11万個の部品生産を行っていましたが、発注も刈り入れの季節である秋に向けての生産のため、残りの半年は仕事がありません。どうにもならず、やむなくリストラまでする事態となってしまいました。この時、二度とこのようなことがないように幅広くマーケットを開拓し安定した経営をしなければならない、と誓いました」。
新たなマーケットを求め佑治氏は全国を走り回った。

新たな市場を求め、冷間鍛造ユニバーサルジョイント誕生

営業を続ける中、出会ったのは農用運搬車(作物などをのせて運ぶ荷台付きの簡易な乗り物)メーカー。駆動部にスクラップ部品を活用して低価格を実現していた。しかしスクラップ部品の調達が行き詰まり、粗悪な部品を使い始めていた。会社を訪問すると「部品精度が悪くなんとかしたい。当社の価格に見合うジョイントを作れないか」と言われた。スクラップで作った部品にコストを合わせようとすると、従来の製造方法に抜本的な見直しが求められる。
「あの方法しかない」。佑治氏には一つの解決策が浮かんでいた。農機部品の量産体制を固める過程で研究した「冷間鍛造」。専門業者に相談したが深いU字型をしたジョイント部品を見ると「丸棒状の素材を常温でこのように深く鍛造加工することは不可能だ。無理に加工すると金型が割れるか変形時の熱で金型の中で焼付きが起こる」と断られた。
「それなら俺たちがやろう」。立ち上がったのは創業社長が鍛えた腕利きの職人たち。型の形状・作り方、鍛造条件など職人の技と知恵で1977年に冷間鍛造製法を確立させた。
冷間鍛造は、金型を使い金属を変形させながら加工をおこなうため、切削加工のような削り屑が発生せず、また、材料を加熱せず常温で加工するため高精度の成形が可能。しかし一方で大きな欠点もあった。金型費が高額で、車種ごとに異なる部品を設計製造するとコスト高となり、量産部品に用途が限定されてしまう。そこでオーダーを類型化し自社規格を構築、規格品として統一した。ユーザー側の設計段階で規格の中から最適なものを提案することで車種ごとへの対応も容易となり、高精度・高強度なジョイントを小ロットであっても低コストで提供できることになった。




冷間鍛造によるジョイントは精度が高く小ロットでも対応できることから評判となり、トラクター、フォークリフト、バックホーなど様々な車種に採用され始めた。
1982年にはスズキの軽商用車のステアリングに採用、1985年にはダイハツにも採用された。このまま順調に拡大を続けるかと思われたが、1991年バブル崩壊とともにコストダウン要求が強まり、価格メリットによる海外調達も検討され、ジョイント部品の受注も頭打ちとなっていった。
「商用軽自動車で採用となった時、このまま一般車にも採用をと意気込んだのですが、自動車業界では『あれは軽自動車用の部品』と認識されてしまっていて、業界の壁を超えられずにいました。そこで新たな市場を求め、広い世界に目を向けようと1995年に1997年開催の東京モーターショーに出展しようということになりました。当時、パワーステアリングの電動化が始まっていました。従来の油圧によるパワーステアリングであれば初動はゆっくり力がかかり始め徐々に負荷がかかるのですが、電動化によりステアリング部には初動に従来の7〜10倍の力が瞬時に加わることになります。当社の高精度で高強度なジョイントはこうした動向にマッチしているはず、どこかに当社の技術を必要としてくれる会社があるに違いないと考え2年間かけてジョイントの開発・改良に取り組みました」。

運命の1997年東京モーターショー

ショーの開催中、興味深げにジョイントを見つめる来場者がいた。冷間鍛造による加工であることを知ると、トヨタの名刺を取り出した。
1990年代半ばの自動車業界は、バブル崩壊後の国内需要の低迷や輸出の減少、円高の進展など日本の自動車産業は国際競争力を失い苦境を迎えていた時期で、トヨタではこうした状況を打破すべく、従来のサプライヤー系列を超えた調達先を探していこうと「技術の目利き」6人が集められた役員直轄のVEチームの一人だった。

これをきっかけに開発や調達部門への紹介を受ける。1997年に発売された初代プリウスのマイナーチェンジに向けコストダウンの一環として採用が検討された。系列色のまだまだ強かった同社内で新規企業の部品を採用するハードルは思いの外高く性能試験に1年を要したが、みごと開発への参入が許可された。初めて一般車での採用に道が拓けた。
この頃、同部署で開発していた主力車種のハンドルチューニングが思うように行かず開発に遅れがでているという話を聞きつける。ジョイント部分の提案をしたところ開発チームでは評価されたが、調達部署からは「主力車種の重要保安部品を製造レベルもわからない新しい企業に任せることは、車の安全性を守るためにも絶対にできない」と言われた。役員直属のVEチームのメンバーが掛け合ってくれた。
「そこまで言うなら調達は絶対しないが開発に関わるのは認める」と開発担当者を紹介される。見せられた図面を前にしての提案は大胆なものだった。
「この図面では目指す品質やコストは実現できません。当社で全部見直しをさせてくれませんか」。
こんなとんでもない提案をする会社はどんなレベルなのかと工場を見に来た担当者。冷間鍛造で次々に部品が加工されている現場とその技術レベルを目の当たりにし、見直し提案を依頼することになる。正月返上で10ヶ月間試行錯誤を繰り返し、試作品を完成させた。
「このジョイントがなければこの車の開発はできなかった」とトヨタの開発担当者から感謝された。鬼頭社長は社内の開発メンバーに対して「受注はできないことを前提とした試作ではあったが、主力車種の試作に関わったことでトヨタ内でも協和工業のことを知ってくれる人が増えたはずだ。今後の受注の足がかりにきっとなる」とねぎらいの言葉をかけた。
しかし、しばらく後に事態は急変する。
連絡をしてきたのは「協和工業からは絶対に買わない」と言い放った購買担当者。
「ジョイント部品を作って欲しい。ただし、2社購買となるので生産台数の半分をお願いしたい」。技術力でトヨタのTier1となった瞬間である。開発担当者からは「トヨタに採用されるということは世界へのパスポートを手にするということを意味する。今後も協力してほしい」と励まされた。



「強いつくり」を目指して。一発成形冷間鍛造ジョイント続々採用。

こうして一般車への採用も次々決まる中、どうしても気になる生産工程があった。鍛造加工時に金型との摩擦を減らし焼き付きを防ぐ潤滑皮膜を形成する「ボンデ処理」と呼ばれる工程。脱脂・酸洗・化成(リン酸塩皮膜形成)・中和・石鹸皮膜形成の工程の間に何度も水洗いを重ね9工程を経た後、充分に乾燥させることが必要となる。化成設備や廃水処理設備も必要で大量のバッチ処理となる。他の工程は必要なものを必要なときに必要なだけつくる、という考え方が一貫しているのにこの工程だけが大量処理で多くの中間在庫を抱えていた。そこでかねてより開発されていた「一工程潤滑剤」に目をつけ、これを利用した「1個流し」の冷間鍛造用潤滑剤塗布装置ができないかと考え、開発を始めた。しかし、潤滑剤の使用条件が難しくなかなかうまくいかない。加温条件を検証するために廃棄予定の風呂桶をもらってきて加温時間や温度を調整するなど試行錯誤の連続となった。最後に完成をぐっと引きつけたのは潤滑剤メーカーの推奨条件にあえて逆らう「常識外」の発想の転換であった。こうして従来のバッチ処理9工程を1個流しで「湯洗(加温)→潤滑剤塗布→乾燥」の3工程へと削減し、リードタイムを大幅に短縮させた。完成した設置面積1.5uの小さな装置は排水処理装置が不要となる画期的な潤滑剤塗布装置となった。




「装置の発売を新聞発表するや大きな反響があり、講演をすれば質問攻めとなりました。『グループをあげて過去にトライしたのに実現できなかった。協和工業さんは魔法の作り方をする』とお褒めの言葉をいただいたこともあります。廃水処理をなくした環境面でも画期的な装置だということで2012年に愛知環境賞優秀賞など高い評価をいただくことができました」。
内製化した金型技術と自社開発の1個流しの潤滑剤塗布装置。これらの技術をベースにより「常温で一発成形の冷間鍛造」を実現したユニバーサルジョイント。現在では、ホンダや日産自動車、いすゞの他、海外メーカーでも採用されている。

全体最適化を目指してDX技術で全社的改革を

20年前から会社の全体最適化を目指した活動「NKS」。入口から出口まで一貫して効率よく生産できる仕組みを作るために各部署が連携して取り組む。
「機能しないことはやめる、価値を生まないことはやめる、価値を生むことは倍にできないか」という視点で取り組み、過去には「600パレットあった自動倉庫はかえってデッドストックを生む」と結論を出しあっさりと撤去、また、組織をフラット化して技術継承の推進や現場の生産管理システムの導入など全社的な改革に取り組んできた。
しかし生産管理システムについては、製造ラインへの指示、稼働状況などのデータ収集や整理を人手で補っており、作業終了後のデータ入力や現場でのバーコード入力忘れなどにより、現場とのタイムラグや情報精度の信頼性低下が発生、これを検証するためにさらに人手がかかるという悪循環。実際に現場で起きていることや、異常やトラブルの本当の原因を知ることが難しくなってしまっていた。課題が残ったまま解決の糸口も見えないまま時が経過した。そんなときある会合で製造業に関わったことのないIT業の社長と出会い、ユニークな発想を知り、協調してDX化に取り組む事にした。
そこで「機能しないことはやめる、価値を生まないことはやめる」との発想でシステムの見直しを行った。まず、データのリアルタイム性を確保し、リアルタイムに同じ情報を見て部署間や担当者間、拠点間の連携が可能になることを目指した。人手を介したデータ入力をなくすためには、機械的にカウントされた情報を取得する必要がある。最近の設備であれば自動的にカウントする仕組みも搭載されているが、旧型の設備ではそうもいかない。そこでWi-fi付きの手作りのセンサーをマシンの脇に設置しマシン動作を検知、カウントデータを送信することでリアルタイムな情報収集を行った。
こうして生産実績の完全自動収集が実現すると、これをベースにした標準作業時間の精度が向上。リアルタイムに把握する生産状況の妥当性や問題点がその場でわかるシステムとなり、工程中のどこに問題があるのかを瞬時に把握することが可能となった。

鬼頭社長の構想は更に先にある。「このしくみを海外工場も含め各拠点に導入し、リアルタイムに状況を把握する事ができるようにしていきたい。この見える化の実践により入口から出口まで「リードタイムとリアルタイム」「限りなきレス化と自動化」を合言葉に業務のあり方の見直しに取りかかり全社各部門で変革への活動が動き出した。このDX活動の目標でもある「戦略的原価システム」の構築により持続可能な、世界で戦える企業体質づくりを追求している。」



自動車技術変革に負けないユニバーサルジョイントを

当社はあくまでも「ジョイントメーカー」であって金型業でも冷間鍛造業でもないと語る鬼頭社長。
「いいジョイントをつくる方法の一つとして冷間鍛造一発成形を開発しました。当社はジョイントでは後発メーカーですので市場に参入していくには先行する企業の課題を一つずつ解決し、お客様が必要とされる性能やコスト、生産体制へと対応してきました。今、自動車業界では自動運転機能が広まりつつあり、操作性にはより正確性が求められます。つまりステアリング動作を伝えるジョイントの精度や強度、特に回転運動を伝えるためのねじり強度がより求められるようになってきています。冷間鍛造であれば精度は高くなりますし、素材のねじり強度が高くなるという試験結果も出ているなど冷間鍛造品にはまだまだ可能性があるように感じています。今後もITを活用した生産体制を強化し自動車の技術革新に負けないジョイントを作っていきたいと考えています」と将来を見据える。

取材・文 有限会社アドバイザリーボード 武田宜久