技術力と一貫生産体制で事業分野の拡大を目指せ

代表取締役社長 水野 康行

記事更新日.2021.10

株式会社 マルエス機工

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株式会社マルエス機工
〒485-0825 小牧市大字下末字野本347-17

技術力と一貫生産体制で事業分野の拡大を目指せ

取引先の1社依存率が高くなりすぎるのは、営業の苦労が少ない反面、先方の景気や製品の売上に左右され、自社のコントロールがきかないまま受注量が激減する可能性もあることから、非常に大きなリスクを抱える諸刃の剣である。
株式会社マルエス機工もその浮沈に悩み続けた企業の一つである。
中型〜大型の産業機械向け部品製造の切削・溶接加工技術が高く評価され、1社からの受注量が拡大するものの、県外や海外へ生産拠点が移転されるなどの影響で主力事業を失うことを繰り返した。
その反省から、自社の技術力や外注活用の管理力を強化し「機械一台分の部品製作をすべて一括で請け負うことができる」という一貫受注体制を確立、新幹線、NYの地下鉄、エレベーターの部品をはじめ、立体倉庫、ディスプレイ搬送用専用機、産業ロボットなど産業用機械の部品を製造、大きさは5〜6mまで。素材も鉄、アルミ、ステンレスなど多岐にわたる。
様々な産業機械分野の取引先開拓や1100台以上の納入実績を持つロングセラーの遠心分離装置の開発など、毎月50社を超える企業からのオーダーを受ける企業へと変化を遂げた。

一社依存体質で浮き沈みを経験

株式会社マルエス機工は現社長水野康行氏の父親が昭和35年に創業、当時は旋盤加工を主に冷凍機部品や自動車部品加工を行っていた。
「当社の歴史は1社依存との戦いでした。1社比重が80%を超すなど極端に高くなったところで様々な理由で受注がストンと減少、新たな事業分野を開拓しては、またそれが極端に大きくなり、という繰り返しでした」と水野社長。
創業当時は自動車のシャフト部品を車種により1ロット50〜1000個程度受注していた。その中にはトヨタ2000GTといった名車やパトカー仕様などの特殊なシャフトの受注も。10年ほどの間に、モータリゼーションの進展とともに生産量が5倍になった頃、さらなる生産量の増加を求められた。「1人4〜5台持ちして24時間稼働でできないか」と言われたが、自社の技術力を活かしたものづくりの方向性とは異なると感じ、自動車部品からの撤退を決めた。

その後、新たな事業分野として大型のガイシとその保持金具の加工に乗り出す。 大手企業でもまだほとんど導入されていなかった芯間3mのNC旋盤を導入。これをきっかけに30cm程度から数mまでの中型・大型加工が中心となっていく。
「ガイシは絶縁体としての機能が求められますが、避雷針に代表されるように電気は尖ったところに集まる性質があるのです。そのためガイシにはR形状やひだ形状など曲面が多用され、その形状は卵型であったり、波型であったりします。プログラミングにより加工を行うNC旋盤はこうした曲線が多用される部材に対して、画期的とも言えるほど形状の精度や加工効率をあげることができました」。
こうした設備や加工技術により受注量は増えていったが、平成に入る頃、発注元が東南アジアなどへ生産拠点の移転を始めたことから一気に減少へ転じた。

そこで、平成4年には第二工場を建設、装置組み立て分野に進出し、近隣の大手自動搬送装置メーカーから受注を開始する。
「ちょうどガイシ製造の仕事がなくなり始める頃で、次の事業分野として大きくなっていきました。しかし、また80%の依存比率となった頃に主力の生産拠点が遠方へ集約化されることになり、2年ほどは受注を継続していたものの運送負担なども大きく、これも減らさざるを得ませんでした」。

事業分野ごとの浮き沈みを繰り返す中、1970年頃から50年間受注を続けるのが新幹線の車軸部品である。大型ガイシ加工のために導入したNC旋盤による旋盤加工工程を受注、その後徐々に他の工程も任されるようになり、最終的には全工程を受注することになる。



「この車軸部品は台車部分に取り付けられ、軌道からの振動を大幅に低減させる『軸ハリブッシュ』と呼ばれる制振ゴム部品です。新幹線だけでなく、国内の鉄道や地下鉄、アメリカ・台湾を始めとして全世界でも使われています。車体により大きさや形状が少しずつ異なる上、精度や堅牢性、安全性については高い品質が求められます。当社の加工技術やその蓄積を評価いただくことで受注を継続でき、今でも売上の15%を占めています。リーマンショックの激震を乗り越えられたのもこの部品加工のおかげで、オバマ大統領政権下で打ち出されたグリーンニューディール政策のもと、高速鉄道や公共交通機関への需要が増加し、他の分野の受注減を補い、何とか乗り越えることができました」。

生産ネットワーク体制により毎月50社から受注

こうした経験から1社依存で浮沈を繰り返すのではなく、取引先や事業分野を拡大させることで安定的な経営を目指すことを決意。
しかし、多くの事業分野や企業から多様なオーダーを受けるためには、必要とされる技術も広がり、また納期が重なるリスクもある。そこで自社で対応できる加工技術を広げつつ、協力を依頼できるネットワークの形成に力をいれた。
「今までの旋盤・マシニングなどの切削加工技術、溶接、組立といった自社技術について、伝統的な職人の技術と新しい技術とを融合させ、素材から完成品まで全てに対応できる技術を積み重ねてきました。それに加えて、小物部品の調達や焼入れ・研磨・メッキ・板金・塗装といった多岐にわたる協力会社のネットワークを形成し、部品加工から完成品まで一貫生産体制を確立しています。これにより、機械一台分の部品製作をすべて一括で請け負うことができるようになり、納期が重なっても協力会社のネットワーク活用により対応の柔軟性を高めることができました」。
現在では毎月50数社からのオーダーを受けるまでになった。

受注する産業分類は多岐にわたり、ロボットアームの土台や自動搬送装置のエレベーター部品などのスタンダードな産業用機械部品から合板メーカー向けの木の皮や凹凸を剥ぎ取るマシンの4m長の搬送ローラーという特殊部品まで、得意の切削加工や溶接による複雑形状加工技術が活きる。部品加工だけでなく、協力企業のネットワークを活かし、物流センターの搬送装置、バリやゴミ取り用のナイロンブラシ製造機、木粉とプラスチックを混練し熱と圧力とでプランター用原料にするプラント一式まで一括で請け負う。

海外拠点では「プログラム」が共通言語、技術はアナログで刷り込む

平成29年にMARUESU VIETNAM CO.LTDを設立、これを期に技術の共有化ということを強く意識し始めた。 「技術面の人材育成について、文化が異なるベトナムの方に当社の長年の経験値をどのように共有化し伝えるかということには頭を悩ませました。古くからNC旋盤の導入などプログラミングする考え方が根付いていましたので、これが共通言語になると考え、プログラムをはじめとするデジタルベースで精度の向上を実現し、それを『アナログで刷り込む』イメージで技術として根付かせることで、技術の共通化を図っています。」
今後はDX化ということを意識した取組に力を入れたいとのこと。
「搬送装置やプラントなど、近年は立体的で精度の高い組付けが必要な大きなプロダクトの案件も増えています。品質保証としては各部品が精度を満たしていることはもちろん、組付け状態での精度の保証をする必要があることから、組み付け後にロボットやAIなどを活用し測定し、お客様にもその場であるいは撮影した動画を通して品質をご確認・ご納得いただき、その上で出荷する仕組みができないかと考えています。他社でもこうした取組はまだ少ないと思いますので、今後の当社の大きな武器にもなるのではないかと考えています」と新たな取引先開拓のさらなる戦略をめぐらせる。

取材・文 有限会社アドバイザリーボード 武田宜久