DXを活用、対面介護時間を増やし『地域で支える福祉社会』を

代表取締役 布目 裕貴

記事更新日.2021.12

株式会社 フレーバー

■問い合せ先
株式会社フレーバー
〒470-2216 知多郡阿久比町植大前崎38

公益財団法人介護労働安定センターが行った「令和元年度介護労働実態調査」によると、65%の介護サービス事務所が人手不足感を訴え、労働者側の仕事に関する悩みでも「人手が足りない」は55%と抜けたトップとなっている。DX技術を活用し業務効率化をすることで対面介護の時間を確保、3人のケアマネを含む40名程のスタッフとともに『自分たちが目指す介護像』と向き合いながら介護事業所を運営しているのが阿久比町の株式会社フレーバーである。13年続けたテレビマンが介護業界へ転身、業界の常識にとらわれない独自の視点で、介護事業、保育事業、映像事業を展開する。

ニーズに応え事業を拡大

介護事業等を展開する株式会社フレーバーが設立されたのは2012年4月。社長の布目裕貴氏は休日の生活情報番組や全国放映の旅番組を担当するテレビ制作会社のディレクター。介護の仕事は全くの未経験だった。きっかけはパートナーの想いだった。
「私のパートナーは介護福祉士で、常々やりたいと思っている介護像を持っていました。しかし施設によって方針があり、自分が理想とするような介護が思うようにできずにいました。私自身はというと、制作の仕事で撮影や編集で帰れない日も多くあるなど、13年間どっぷりと仕事に浸かっていました。そこで、今まで自分の好きなように仕事をやらせてもらってきたのだから、今度はパートナーの力になるべきではないかと考え、自分たちで目指す介護を実現しようと会社を設立しました」と布目社長。
2014年6月に月の延べ利用者数が300人以下である小規模デイサービス「ほたる阿久比」を、翌年には炭酸泉のお風呂利用に特化した短時間デイサービス「おふろデイ」、2017年に小規模住宅型「有料老人ホームほたる」と併設のデイサービス利用者の延長宿泊サービス「お泊りデイ」、訪問介護サービスの「訪問介護ほたる」、2018年にリハビリ利用に特化した「リハビリデイ」、2018年に居宅介護支援事業所「介護相談ほたる」を開設するなどサービスを拡大させてきた。

「利用者様のご要望に応える形でサービスを充実させていく中で、現在のような多様なサービスを行うまでになりました。その結果、利用者様あるいはそのご家族の事情に合わせた柔軟な介護サービスを提供できるようになりました」。
例えば「おふろデイ」サービスは介護サービスを受けるきっかけともなる。ケアマネから、「デイサービスを利用することを拒んでいる人がおり、なんとかしたい」という相談にはスーパー銭湯へ行く気分で炭酸泉につかれる「風呂デイ」サービスの短時間利用をしたらどうか、と提案したところ、「炭酸泉」というキーワードにひかれて利用が始まり、利用時間も1日利用にまでになった。また、「お泊りデイ」は利用者の家族の都合で宿泊が必要になる場合に利用できるサービスで、いつも行くデイサービス施設で宿泊できることから安心感も強く、6床の利用ベッドが満床になる日も多い。
こうした介護事業部に加え、保育事業部として2021年4月には新たに企業主導型保育園「ほたる保育園」を開始、社長の前職の延長である映像事業部と合わせて3つの事業部となった。

「運営体制としては、社長である自分は介護事業の運営を支える役所関連への申請事務などが主で、パートナーは介護現場の最前線で夜勤にも入り、介護の品質向上につとめています。パートナーは介護一筋ですので私は逆に広い視野を持てるように気をつけています。東京などで開催される福祉用具の展示会視察にはできる限り行き新しい情報を得るようにしています。また、同じ理由で、前職のつながりでテレビ番組・CM・プロモーションビデオの企画制作をする映像事業も続けています」。

業界の慣習にとらわれずDXの活用で対面介護時間を増加

業界の慣習にとらわれないSNS等による情報発信やICT技術の介護現場への積極導入などの取り組みは2016、2018年と2度「あいち介護サービス大賞」に入賞するなど評価も高い。
「私自身も2016年3月に介護福祉士の資格を取得しましたが、業界全体からみれば新人同様です。しかし『業界の当たり前』を知らない人間ならではのアイデアは出すことができます。よりよい介護のために使えないか、パートナーを始めとするスタッフに提案し考えてもらっています。法律的な面や実務上全く難しい場合もありますが、『当たり前』という見えない壁をブレイクスルーするきっかけになることもあります」。

 

当社の取り組みで目立つのが、DXの活用による業務効率化への取り組みである。
「業務効率化」というと「介護はなるべく人の手で行うもの」という業界の常識とは真逆をいくようにも思われるが、それは発想のスタートがまるで違う。
「スタッフは皆、介護の仕事がしたくて入社してきてくれる人たちばかりです。経営者としてはそうしたスタッフのやる気を大切にし、対面介護に使える時間を最大限多くできるようにしてあげたい。やはり『介護は人が行うもの』です。ですから、対面介護以外の時間や労力を極力減らすための業務効率化に向けた投資は、人材投資と同じぐらい大切だと考えています。対面介護時間を増やすことでスタッフや利用者様の満足度の向上につながっています」。
介護記録については、事業所開設以来手書きで転記作業などを繰り返していたが、2017年にipadを使い現場で健康状態等を入力する介護ソフトを導入、電子カルテで管理することで業務は大幅に効率化された。
「ソフトの導入にあたっては、知っている限りのソフトを検討しました。その結果、当社のような多様なサービスを行っている事業者にピッタリで、タブレット上での入力の使い勝手も抜群なソフトが見つかり導入を決めました」。
また、「有料老人ホームほたる」の開設時には、天井にマイクロモーションカメラや心臓の鼓動を図る微体動測定センサーとスタッフが持つスマホを組み合わせた『見守りシステム』を導入。起床・離床・転倒・転落など利用者の動きに変化があった場合、センサーが感知し 赤外線カメラの映像をスタッフのスマホで確認、安否確認や声かけもできることから支援の有無等の判断がその場でできる。これにより不要な訪問・巡回を減らし入居者の安眠妨害を防ぐとともに、夜間勤務の不安は激減、最小限のスタッフとすることができ、昼間の対面介護へ人材資源を手厚く投入できることとなった。

楽しくサービスを利用してもらいたい

サービスを楽しんで利用してもらいたいという想いから、エンターテイメント性を重視したサービスが多く提供されているのも当社の特徴である。
外部講師等の積極的な活用もその一つである。体操やフラダンス、書道、ヨガ、日本舞踊、音楽療法やピアノ、フルート、アコーディオン奏者などを招いての音楽アクティブティなどその回数も種類も多彩で、月1回セラピー犬が来訪するドッグセラピーも利用者に大好評である。

 

また、単調で苦痛を伴いがちなリハビリでも楽しみながらしてほしい、との想いからエンターテイメント性を重視した機器を導入している。
「九州大学病院リハビリテーション部とバンダイナムコとが共同開発した『猪突猛進!うり坊タタキ(いわゆるもぐらたたきゲーム)』と『ドキドキヘビ退治(ワニワニパニックの「足版」)』です。もぐらたたきゲームでは上半身の運動と空間認識を鍛えて認知症予防に、足版のワニワニパニックでは足上げ運動による下半身の運動をし、動きのレベルによって後半の速度が上がる程度が変化するなどゲーム性が高く、利用者は楽しみながらつい『もう一回』と運動を続けてくれます。お金がかかるゲームを導入するぐらいならリハビリ機器の種類を増やしたほうがいいという考え方もあります。しかし、単調で地道な積み重ねのリハビリはなかなか自ら進んでやれるものではありません。であれば、楽しくてつい利用回数が多くなるような機器を導入することでリハビリが進み健康が維持でき、ご利用者様が喜んでくれるのであれば、その価値は充分あると考えています。

 

また、パチンコメーカーが作った『トレパチテーブル』というタッチパネルを使ったゲームも導入しています。アイスホッケーや坊主めくりなど一般的なゲームができる他、『お金でタッチ』というオリジナルゲームもあります。これはお題として出された金額を、お札や通貨を組み合わせて正解する脳トレゲームで、認知症予防や生活リハビリなどが楽しんでできます」。

開設当初から稼働率も大きく向上し、利用者やケアマネの口コミで地道に利用者を増やしてきた。
「最近では満員となることも多くなりました。デイサービスは非介護の状態から介護状態へと状態変化が起こった時に必要となるサービスのため準備期間が少ないケースが多く、『ケアマネさんの紹介だから』、『近所の人が使っているから』、『介護保険だからどこの施設でも同じようなサービスなのだろう』という理由だけで当初から同じ施設を利用し続けている人も多いようです。当施設のサービスがご利用者様の選択肢の一つになればと考えています」。

利用者だけでなく働く人も楽しい施設を

こうした介護環境の充実に加え、労働環境の向上にも余念がない。
「個人の希望する働き方を勘案しシフトを調整して休日120日に年休使用5日を確保しています。また、福利厚生として入社1年後から月1回ネイルサービスが無料で利用できます。爪は指先に力を入れる為に とても重要な役割を果たします。介護に危なくないようなデザインであれば、プロ野球選手が爪の保護のためにマニキュアをするのと同じで、ジェルで保護して丸くなることで利用者の安全にもつながります」。

 

こうした環境整備の効果から、業界の大きな課題である人材確保について困ることはほとんどないとのこと。
「現在は40名ほどのスタッフになりました。当社では採用時の人選に関しては非常に慎重です。頭数を揃えなければという切迫感もなく、また不足気味であれば社長の私が雑用や夜勤などいくらでも働けばいいので、良い方に巡り合うまで面接を続けます。採用後、当施設の雰囲気やipadの使用などに馴染めず辞める人もいますが、多くの人はずっと続けていただけます」。
新たに介護付き有料老人ホームの開設承認も受け2022年度中の開設を目指している。
「新しい老人ホームには動物を通して入居者と地元の方が触れ合える『ほたる牧場』を併設し、馬やヤギを飼う予定です。スタッフから出たアイデアで、阿久比町へのプレゼン時には高い評価をいただきました。すでに施設内で行っている動物セラピーでは、セラピー犬が来てくれるたびに利用者の表情が明るくなり、動物と触れ合う効果は実感しています。これに加えて地域の人々との交流もできるきっかけになれば、『地域で支える福祉社会』をつくる一つのモデルケースにもなるとも思っています」と目指す介護像の実現に向け、業界の常識にとらわれず前進を続ける。

取材・文 有限会社アドバイザリーボード 武田宜久