はい、質問ありがとうございます。
管理職のコミュニケーション力を高めて、部下育成につなげようという意図のもと、コーチング研修を導入する企業が非常に増えています。
コーチングは、決してスキル先行型の単なるコミュニケーションのテクニックを学ぶものではありません。しかし、やはり管理職研修として1日、2日でコーチングを身に付けてもらおうとすると、どうしてもスキルを習得することに意識が行ってしまうようです。心技体で言えば、技ばかりで心が抜けているんじゃないかって気になるのも分かります。
結論から言えば、もちろん管理職として部下を育成していくうえで、スキルだけでよいわけではありません。質問をいただいた方のおっしゃるとおり、もっと大切なものがあります。
それについてお答えする前に、まずこんなことを想像してみてください。
男性の方であれば、好きな女優さんが、女性の方であれば、好きな俳優さんが、あなたの隣に座って語りかけている、そんな状況です。そんな状況を妄想、いや、想像していただいたとして、その人があなたにこう語りかけてきます。
「ねぇ、今年、仕事で一番実現したいことってなに?」「それを実現するために何が必要だと思ってる?」と。
あなたはどんな感情が沸き、どう答えようとするでしょう。グッと深く考えて答えようとするのではないでしょうか。そして、熱くそれを語るのではないでしょうか。
では、次にこんな状況を想像してみてください。今度はあなたの隣に、あなたがあまり好きではない人が座っています。そして、同じ質問を投げかけてきます。「仕事で一番実現したいことは?」「そのために何をしていければいい?」。
そのときのあなたの感情や答えを出そうとする意欲はどの程度でしょうか。好きな人から質問されたときと比べていかがでしょう。
一概には言えないでしょうが、一般的に言えば、好きな人の場合は一生懸命考えて答えようとするでしょう。好きでない人の場合は、答えはしますが、あまり深く考えて答えようとしないのではないでしょうか?
上司と部下の関係でも同じです。好きな上司から質問をされれば、部下は深く考えて答えようとするでしょう。しかし、あまり好きではない上司であれば、同じ質問でもその答え方は相当に変わってくるはずです。
どれだけ、コーチング・スキルに長けていても部下から嫌われていてはそのスキルは機能しません。逆にコーチング・スキルが拙くても部下に好かれていれば、機能するのです。
意外に、コーチングを身につけようとするときに、この部下が上司をどう見ているかを忘れてしまっているように思います。
部下が上司に対してどれだけ「あの人のようになりたい」と憧れを抱いているか、それがコーチング・スキルを身につけるよりももっと大切なのです。
ただ、ここでひとつよく考えていただきたいことがあります。コーチング研修を受講されたとき、「部下の話をしっかりと聞きましょう」「人の話を否定しないで聞きましょう」「未来志向的・プラス思考的な質問を投げかけましょう」「人の良いところを見るようにしましょう」などと教えられたはずです。
これらを具体的に実践していけば、部下育成に有効なのは当然ですが、上司として、部下から憧れを持たれる人格が身についていくように思えませんか?
コーチングを身につけようとするとき、こう考えてほしいのです。『コーチングで部下育成がスキル的にうまくなるのを目指すのではない。自分自身が人として部下から憧れを持たれる上司になることを目指すのだ』と。
コーチングによって部下に対して何をするかではなく、コーチングによって上司としてどうあるべきか、を考えてほしいのです。部下があなたに良い感情を持ってくれれば、どんなスキルでも深く考えてくれるようになりますよ。
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