組織風土についてのご質問、ありがとうございます。
組織風土と言っても、一概に「このような組織風土が良い」とは言い切れないところはあるでしょう。組織の成長段階によっても変わってくるでしょうし、業種や業態によっても変わってくるでしょう。
ただ、どの組織にとっても必要だと、私が考える風土についてお伝えしたいと思います。
まずは、私がコンサルティングで伺っている会社の事例をお話させてください。その会社での出来事です。
先日、ある管理職の方とこんなやり取りがありました。
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管理職: | 「○○の業務でトラブったんですよねぇ。△△の数字が合わなくて・・・」 |
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私 : | 「そういうことは、全社的な問題として、もっと表に出して、全社で解決を図った方がいいと思いますよ」 |
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管理職: | 「いやぁ、それはできないですよ。部下も一生懸命やってくれていますし、そんなことをしたら部下のやる気が低下してしまいます」 |
エッセンスだけを文字にしてありますので、すごく簡単なやり取りに聞こえるかもしれません。本当は、もう少しいろいろなやり取りがあります。ただ、あまり詳しく書くと、
どこの会社か分かってしまいますし、おおよその感じをつかんでいただければと思います。
私としては、全社的な問題を取り上げて解決していくプロジェクトがその会社には存在するので、ぜひ、そのプロジェクトで取り上げられるようにすべきと提言をしたのです。しかし、その管理職の方の納得がなかなか得られませんでした。
私自身の非力を感じる場面でもありました。
そのとき、痛切に感じたのです。組織において、作りたいけどなかなか作れない風土があるとしたら、この風土だと。
ズバリ、「問題や失敗を表に出せる風土」、です。
報告・連絡・相談のコミュニケーションが良い風土といえるのかもしれません。が、あえて、私はこのように表現したいのです。
何か問題や失敗が起こったとしても、隠せるなら隠したいと思うでしょう。お笑い芸人のように、自分の失敗談を笑いのネタにすることはあるでしょうが、誰でも自分の失敗やミスは隠したがる心理があるのはうなずけると思います。
問題や失敗をすぐに表面化できる組織風土が作れたら、土台のしっかりした強い組織になれます。
問題や失敗を隠していては、いつまでも問題は解決されずに同じ失敗やミスを繰り返すでしょう。
そして、それが膨らんでさらに大きな問題を発生させていくことになりかねません。
組織風土して、「明るく、前向きな組織」、「やる気のある組織」などといった風土はもちろん大切な組織風土であることは間違いありません。このようなプラス思考的な組織風土と併せて、
もっと根っこの部分で失敗や問題点を表に出せる風土が必要だと思うのです。
トヨタ自動車のトヨタ生産方式の創始者、故大野耐一氏は、「トヨタ生産方式とは何か?」と聞かれたとき、こう答えたそうです。
「ピン張った糸がある。少しでも引っ張ると、その糸は切れてしまう。しかし、その糸が弛んでいたら、引っ張っても切れることはない。ピンと張った糸がトヨタ生産方式だ」と。
問題が発生したときに、プツンと切れて、問題を表面化・顕在化させるという仕組みがトヨタ生産方式ということなんですね。
では、この問題や失敗を表面化・顕在化できる(したくなる)風土を作るにはどうしたらいいのでしょうか?
まずはトヨタもそうであるように、問題や失敗が表面化する、顕在化してしまう仕組み作ることでしょう。
そのためのひとつの手法は、「見える化」です。
「見える化」の手法については、また機会がありましたら、お話はしたいと思いますが、車のスピードメーターを考えていただくとイメージがしやすくなるでしょう。
スピードメーターがあって、時速何kmで走っているのかが分かるからこそ、道路標識を見て、アクセルを緩めたり、踏んだりすることができます。
たとえば、時速50km制限の道路を時速70kmで走っていたとしましょう。これは問題が起こっているということです。スピードメーターがあって、目で見て問題があることが分かるからこそ、アクセルを緩めるという問題解決行動が起こるわけです。もし
スピードメーターがなければ、何kmで走っているのかが正確には分かりません。大体の感覚でしか感じ取れないでしょう。問題の認知が鈍るか遅くなります。
そして、問題を表面化・顕在化できる仕組みとしてのハード面を整えたうえで、大切なのは、コミュニケーションというソフト面です。
どれだけ仕組みを整えても、問題が表面化したとたんに、上司から「バカヤロー」と叱責されたり、評価を下げられたりしては、社員・部下は、ストレスが溜まるだけです。
もちろん、上司にとっても、部下の失敗はいやなものです。しかし、そこで叱責をしてしまっては問題が表面化しなくなり、更なる問題を引き起こすことにもつながりかねないことを認識すべきです。
問題や失敗を表面化して、それを解決していこうとする意識、そしてその問題を解決していけるだけの問題解決力とコミュニケーション力が必要になります。
まずは、@問題や失敗を「見える化」手法によって顕在化させる、Aその顕在化した問題をみんなで解決していこうとする場を設ける、これを実践していただければいいでしょう?
この2つをしっかりと実践していければ、問題を表に出せる風土が少しずつできていきます。
ちなみに、冒頭で紹介した会社ですが、その後、私からは一切提言はしませんでしたが、その管理職が自ら進んで、社内全体に問題を提起していました。
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