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変換効率40%を超える究極の太陽電池への挑戦
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新幹線で名古屋から大阪に向かう途中、長良川を越えたあたりに巨大な太陽光発電施設がある。この施設がもたらす発電量を石油量で換算すると、灯油缶で7,145缶分/年にもなるという。この太陽電池の2倍、3倍といった変換効率(太陽光を電力に変換する効率)を目指す太陽電池が開発されている。今回は、この開発プロジェクトを進める豊田工業大学超高効率光起電力変換共同研究推進センター長 山口真史教授を訪問した(取材は(財)科学技術交流財団 上原政美、涯FJ総合研究所 松山 豊)
二世代先の太陽光発電の開発をねらう
山口 今、太陽電池は住宅の屋根につけられていますね。これは第一世代の太陽電池といわれるもので、シリコンの単結晶や多結晶、つまり半導体チップなどで使われるような高い材料が使われています。発電量に比べて価格が高いことが普及の問題で、なるべく発電効率の高い、また安い価格になるような工夫が求められているのです。
― なるほど
山口 このような状況で、今、国のエネルギー関連の機関であるNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が研究を進めているのは第二世代といわれる太陽電池です。アモルファスという結晶になっていないシリコンを薄い膜にして太陽電池を作る研究です。私はその次の太陽電池、第三世代といわれる、集光による太陽電池のモジュールを研究しています。
― 集光型の太陽電池とはどんなものですか
山口 ここにお持ちした写真が今、実証実験している太陽電池モジュールです。この仕組みは、集光レンズを太陽に向けておいて、太陽光をレンズで小さな面積に絞って、太陽電池に当てて電力に変換するものです。
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集光型太陽電池4モジュールを用いた集光式太陽光発電システム(大同メタル提供)
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集光型太陽電池モジュール(大同特殊鋼提供)
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従来型の2倍の効率の太陽電池開発に成功
― 価格が高い太陽電池の量は少なくて済みますね
山口 そうです。さらにこの太陽電池には化合物半導体といって、レンズの集光で生じる熱にも強く、変換効率も高い材料を利用しています。今、実験しているものでは、モジュールの面積が0.7uの大きさのもので200Wの電力を生み出します。太陽電池の能力の物差しとなっている変換効率でいうと28%という高さです。
― 実際に屋外実験で出ている数字で28%とは高い数値ですね。確か今の太陽電池は13、4%程度と聞きますが
山口 そうですね。現状の太陽光発電の2倍の効率ですね。まだ開発の途中なので、今後30%、40%という超高効率を目指していきます。
― 電池だけではなく、装置構造に工夫があるようですが・・・・・
山口 これは、常にレンズで集光される光が電池にあたるように、太陽の方向を追尾する機構です。この実験機の開発自体は、NEDOからの委託された産学協同研究で行なっています。
愛知県企業が開発に参画
― どのような企業が参加されているのですか
山口 愛知県の企業では、大同メタル工業(株)がモーターなどの入った太陽追尾機構を担当し、大同特殊鋼(株)がモジュールといわれる全体を担当、県外企業ですが、太陽電池のトップ企業であるシャープ(株)がセル(素子部分)といった分担で共同研究をしています。
― 今のプロジェクトの課題とはどのような点でしょうか
山口 屋外で強い紫外線にあたるのでレンズの劣化、太陽追尾のモーターなど、市場に出していくための装置の信頼性が求められます。家庭用であれば30年程度は持たせることが必要です。プロジェクトでは、ここ1年くらいで信頼性などの確認をしていく予定です。
― 信頼性の確認という段階であれば、かなり実用段階が見えてきている状態ですね
山口 そうなのです。開発は順調に進んでいて、NEDOからは早めに切り上げようかなんていわれています(笑)。研究の最初の段階では、全国各地の気象庁の日照データを集めて、どの地域が太陽光発電に向いているかどうかも調べましたよ。
― 向いているのはどの地域ですか?
山口 向いているのは九州とか太平洋岸ですね。悪い地域は日本海側です。冬の日照がよくないのです。意外といいのが北海道の北見などですね。名古屋は条件としていいですね。
変換効率50%をねらう 超高効率光起電力変換共同研究推進センターでの研究
― より変換効率を高めていくための方針は・・・
山口 今やっているのは、太陽光のいろいろな波長を利用して変換ができるように、電池材料を変えた三層構造にし、それぞれの層で異なる波長の光を変換する電池の開発です。この層構造は、私がNTTにいるときに発明したもので、すでに人工衛星など、一部で利用されています。
― ところで、先生がセンター長をされている「超高効率光起電力変換共同研究推進センター」ではどのような研究がなされているのでしょうか
山口 このセンターは、やはり名前があらわすように高効率の太陽電池開発のための研究所です。私立大学に研究開発の拠点を作ろうという文部科学省の学術フロンティア推進事業として、平成14年度からスタートしています。ここでは今申し上げたような、太陽電池の多層構造化、集光型の太陽電池の研究や開発を行っています。いままで述べなかった研究では、新量子ナノ構造を利用した新型太陽電池の研究があります。
― これはどういったねらいの研究ですか
山口 これは、太陽電池の材料をナノレベル、つまり原子分子の大きさで制御して、より発電効率の高い材料を作ろうというものです。例えば、ナノレベルの材料構造を制御すると、紫外線領域、赤外線領域の光を使って発電することが可能になり、先ほどの多層構造にすると変換効率50%というレベルが狙えるようになってきます。
― 50%ですか!これはすごい
山口 この他にも、第一世代の太陽電池を、どう欠陥なく材料を作ったりするのかといったサポートもしています。これは、今の世代の太陽電池が社会的に使い物にならんという評価になってきたら、次の世代につながりませんので支援をしているものです。
瓦メーカーも参加する応用開発研究会
― なるほど。ところで、(財)科学技術交流財団で研究会をもたれているとお聞きいたしますが、これはどのような取組みをしているのでしょうか
山口 この研究会は太陽電池のいろいろな応用開発を中心にしています。メンバーは、これまでにあげた太陽電池の共同研究企業に加え、地元では瓦の事業者が参加しています。
― 瓦ですか?
山口 そうです。瓦に太陽電池を付加することができないかということで参加しています。今、開発が進みつつありますが、軽量化が課題となっています。このほか、この地域には三菱重工や川崎重工といった航空機関連メーカーがあり、飛行船向けの太陽電池、ソーラー飛行船の太陽電池の開発もプロジェクトで進みつつあります。これは、飛行船の表面に薄い太陽電池を貼り、太陽電池で得た電力で推進力を得ようというもので、今度の万博に参加する飛行船にも間に合えばと考えています。
― ターゲットが明確なプロジェクトが多いですね。大学では最近、共同研究や技術の企業への移転といったことがいわれますが、先生の研究と愛知県のベンチャー企業などと関連が出てくる可能性はあるのでしょうか
山口 そうですね。一度、2,3人規模の小さな会社の方が、太陽電池と太陽熱利用(温水)の開発を提案されてきたので一緒に開発をしました。途中で先方の資金が難しく中断してしまいましたが。愛知県には、機械構造などが得意な企業はたくさんあるので、太陽電池を工夫して、いろいろな用途を展開するということはあり得ると思います。
― 例えば愛知県は繊維産業も集積していますが・・・
山口 ええ、服に太陽電池をつけるといったことも試みられていますね。このほか、道路の防音壁や道路標識など、都市の構造物に太陽電池が利用されていることが増えています。最近は大学の社会貢献が求められてきています。豊田工業大学でも研究成果を技術移転していくためのTLO(技術移転機構)を検討しています。
3,000億円の集光型太陽光発電市場を拓く
― 企業のみなさんにメッセージがあればお願いします
山口 私が豊田工業大学にきた数年前は、大学との共同研究に対して、手をあげて出てくるような企業研究者が少ないような、堅い雰囲気がありました。一度、トヨタ系の大企業の経営者が、私と社内研究者との情報交換の場を作ってくれたのですが、社内からは新たな提案が上がってこなかったことにがっかりされていました。今は、大企業の反応も違ってきたように感じます。また、(財)科学技術交流財団の研究会では、具体的な開発テーマがあり、そうした消極的な雰囲気は薄れましたね。先ほどの小さな企業さんとの共同開発の例にあるように、私は太陽電池の社会的利用を進める開発であれば前向きに取り組むつもりです。
山口 今、日本における太陽光発電の市場は1,200億円から2,000億円くらいです。2010年頃には1兆円程度の市場になると見られています。今開発している集光型の装置で約3分の1の市場をとることも可能だと思います。大変大きな市場といえるでしょう。将来的には、子供たちが習う学校の教科書で太陽光発電の存在がとりあげられるように、まずは電力需要の1割を供給できるようになればと考えております。
| プロフィール |
山口 真史 (やまぐち まさふみ)
豊田工業大学超高効率光起電力変換共同研究推進センター長
1946年生まれ。工学博士。1968年北海道大学工学部電子工学科卒業後、NTT茨城電気通信研究所エネルギー部品研究室長(1986年〜1988年)、NTT光エレクトロニクス研究所光機能素子研究グループリーダー(1988〜1994年)
、豊田工業大学大学院工学研究科教授(1994年4月〜)、立教大学非常勤講師(2001年〜)、大阪府立大学客員教授(2003年〜)、宇宙航空研究開発機構客員教授(2000年〜現在)歴任。
<研究分野 >
半導体材料,半導体物性,光電デバイス(太陽電池等),半導体の放射線損傷,光電物性,エピタキシャル成長,青色発光素子,太陽電池,Li二次電池や光機能素子・光集積部品の研究および指導
<主な著作 >
・新エネルギー大事典,工業調査会(2002)分担執筆
・Clean Electricity from photovoltaics, Imperial College Press(2001)分担執筆
・太陽光発電,(株)シーエムシー(2000)分担執筆
・速解光サイエンス辞典,オプトロニクス社(1998)分担執筆
・Current Topics in Photovoltaics, Academic Press(1998)
・化学便覧 応用科学編 第五版,日本化学会(1995)分担執筆
・太陽エネルギー工学,培風館(1994)
・Widegap II-VI Compounds for Optoelectronics Applications, Chapman & Hall(1992)
・宇宙と材料,掌華房(1991)
<受賞>
・Renewable Energy Pioneer Award(2002)
・PVSEC-12, WCPEC-3, PVSEC-14 Best Paper Award(2002, 2003)
・Irving Weinberg Award(1997)
連絡先
学校法人 トヨタ学園 豊田工業大学
〒468-8511 愛知県名古屋市天白区久方2-12-1 http://www.toyota-ti.ac.jp/index.html |
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