主に眼鏡用レンズとして用いられているプラスチックレンズは、ガラスレンズと比較して軽く、成形性に優れ、着色も容易といった多くの利点があります。そのため、生産性にも優れ、現在では眼鏡レンズの9割以上がプラスチックレンズです。
しかし、プラスチック自体は柔らかい素材であるため、表面に傷が付きやすいという欠点があります。それを克服するため、その表面には傷を付きにくくする膜、いわゆるハードコートが数ミクロンの厚さでコーティングされています。ハードコートの材質は当然硬いものが用いられますが、一般的に硬い材料ほど柔軟性に乏しくなる傾向があります。そのため、プラスチックレンズにハードコート処理を施すと、表面の傷つきにくさ(耐擦傷性)は向上するものの、それに伴って耐衝撃性は低下します。
このように一方を向上させるともう一方が低下してしまうことを、トレードオフの関係と呼んでいますが、耐擦傷性と耐衝撃性はまさにこの関係にあります。さらに、ハードコートとして用いられる物質は十分な硬さが求められるため、シリカ(二酸化ケイ素)などの無機物質が主となっていますが、それと有機物質であるプラスチックとの表面の化学的な状態は当然異なります。そのため、これら物質の相互密着性が十分でないことが多く、コーティングされた膜が剥がれやすくなるという事態も生ずることがあります。
このようなことから、現状のプラスチック眼鏡レンズにおいては、図の左のように耐衝撃性のある樹脂膜をレンズ表面に1層コートし、その上にハードコート処理を施します。これにより良好な密着性、耐擦傷性および耐衝撃性の実現を可能としています。
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