2.シンクロトロン光を活用した愛知県酵母の開発
食品工業技術センターが独自に保有する清酒酵母(愛知県酵母)であるFIA1株(純米酒用)とFIA2株(吟醸酒用)は、長年、県内清酒メーカーで利用されています。一方で、酒類に対する嗜好が多様化する中、市場ニーズに即した酒質に対応した清酒酵母、具体的には香り華やかな吟醸酒向けの清酒酵母が求められるようになってきました。そこで、当センターでは香気成分である酢酸イソアミル(バナナ様の香り)を高生産する新しい吟醸酒用の愛知県酵母の育種に取り組むこととしました。
育種対象として、シンクロトロン光を活用してFIA2株から育種した尿素非生産性酵母FIA2Arg株を親株に用いました。FIA2Arg株の酵母菌体にシンクロトロン光を照射して、酵母の突然変異を試みました(写真1)。有望な性質を持つ突然変異株の選抜には、5,5,5−トリフルオロロイシン(TFL)を含有する培地を用いました。TFLに耐性を持つ酵母は酢酸イソアミルの前駆物質を高生産する可能性が高いことが知られているためです。シンクロトロン光照射後の酵母菌体をTFL含有培地に塗抹して培養し、生育が良好な株を酢酸イソアミル高生産性酵母の候補株としました(写真2)。取得した多数の候補株に関して、発酵試験による選抜を進め、最終的に酢酸イソアミルを高生産し、かつ実用化に十分なアルコール生成を示す有望株を取得することができました。取得した有望株を用いて大吟醸酒の試験醸造を行った結果、酢酸イソアミルに起因する華やかな香りを特徴としたフルーティーで香味バランスの良好な大吟醸酒を醸造することができ、官能評価でも良好な結果が得られました。現在、本酵母の県内清酒メーカーへの普及を図っています。
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