ICTによる変化は、産業界だけにとどまらず、個人の生活にも大きな影響を与えていることはいうまでもない。携帯電話の普及はその代表的な現象と
いえる。特にiモード(NTT Docomo)に代表される、携帯電話からの情報サービスの普及は携帯電話の利用範囲を大きく拡大したといえる。これらの情報サービスの普及には高校生や大学生といった若者による利用が大きく影響したと言ってよい。
たとえば、電子メールについて言えば、それまでパソコンからの利用が中心であったものが、携帯電話を利用することにより、まさに、いつでもどこからでもメールすることが可能になり、短いフレーズで1日に何度もメールの交換をするといった若者文化が急速に普及した。これを受けて携帯電話各社は、利用料金の定額化サービスを競って提供し、これを受け、さらに携帯電話を利用した情報サービスが拡大していることは言うまでもない。
さて、愛知県社会福祉協議会長寿社会振興センターでは「あいちシルバーカレッジ」と称する高齢者向け大学を毎年開設している。60歳以上を入学資格とし、県内5教室、総定員500名だが、少子化による受験者減少に苦しむ大学を尻目に、過去の応募倍率は、6倍を超える(平成16年名古屋教室)など毎年高い倍率で、応募者の中には、3年〜5年の応募の後にやっと入学を許可されたという方もめずらしくはなく、高齢社会の現実をまざまざと語っている。
縁あって、この数年間、私はこの「あいちシルバーカレッジ」で、「10年長生きするIT活用術」というテーマで、高度情報社会について解説する講義を持っている。この講義の中で、私は毎年受講者に「携帯電話を持っているか?」「デジタルカメラを持っているか?」と聞くようにしている。
今から5年前では、携帯電話を持っている受講生は全体の5%未満であったと思う。これらの受講生は現役時代にビジネスで利用していたり商売で利用しているなど特別な理由がある場合がほとんどだった。デジタルカメラに関していえば、皆無と言っていいぐらいであった。
やがて、受講者の利用率は増加し、本年度の講義では30%〜40%の方が携帯電話やデジタルカメラをお持ちになっていることがわかった。
私は、メディアの普及に際して「池に浮かぶ水草」を例に説明することがよくある。
「池浮かぶ水草」をイメージしてほしい。今、大きな池に、1つの小さな水草が浮かんでいるとしよう。その面積はとても小さく、池から見れば無視できるものとする。しかし、水草は、一定期間に分裂を繰り返し、1つが2つに、2つが4つに・・・と池の表面に広がっている。ここで、問題だ、水草が池の半分を覆った
とき、次はどのようになるだろうか?
そう、次は、全面を覆うことになるのだ。
メディアは口コミ情報で伝播拡大することが多い。
現に、中学2年になる私の息子は、中学での友人との話題の上位に、新型の携帯電話の話題があると言い、家族の中で誰よりも携帯電話の機種やサービスについて詳しい。これは、テレビやインターネットなどでの広告による影響もあるが、それ以上に口コミによる情報が多いと思われる。
さて、シルバーカレッジに話を戻せば、私の講義の際、携帯電話を持っている受講生の何人かの近くでは、携帯電話を持っていない受講生らに「○○の機種が使いやすくていい」とか、「□□のお店は、親切に教えてくれる」などと話しているのが漏れ聞こえてくる。
「池に浮かぶ水草」が30%だとすれば、これは、結構早い段階で、池を全面に近く覆う日が来るのではないだろうか?
情報通信技術による社会構造改革、いわゆるIT革命についてはピークを過ぎたような感じのある今日この頃であるが、高齢者向けのIT機器やサービスについては、これから大きな波が来るように思うのは私だけだろうか?
かつて高校生や大学生を魅了したような携帯電話からの情報サービスと同じように、高齢者の皆さんを魅了するようなサービスが求められているのではないだろうか。
JR名古屋駅前を通った際、クリスマス用のイルミネーションがとても美しく輝いていた。
何人かの人が足を止め、携帯電話で写真を撮ったり、知り合いに電話をし、その美しさを伝えている様子が伺い知れた。その中に何人かのお年寄りを見ることができた。
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