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第1回 飼育されたクレーム
橋本 尚美 記事更新日.06.05.15
研修講師 
■PROFILE
大学卒業後、放送局で営業と編集を務めた後、電話局に転職。オペレーターの経験を経て研修にあたる。 講師業として独立後はメンタルヘルス、コーチング、キャリア開発を横断的に盛り込んだテーマ別・階層別のプログラムを展開している。著述に月刊誌「PHPカラット」連載、携帯web「デキル女診断PHP」連載、「絶対にうまく話せるようになる講座」(共著)がある。6月から「デキル女診断PHP」で『お悩み相談』を連載予定。

連絡先
橋本尚美事務所
〒460-0008 名古屋市中区栄5−19−31 T&Mビル3階
TEL 052-225-7401
〒104-0061 東京都中央区銀座2−12−3 ライトビル5階
TEL 050-7509-9259
E-mail nhoffice@nifty.com
 

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■このお客さん、まただよー
私は良心トラベルで働いている。繁華街の大通りに面した店舗は、終日来店者が多く、電話も多い。バタバタしているうちに一日が過ぎていく感じだ。
「はい、良心トラベルでございます」
この電話も何度呼び出し音が鳴っただろう。忙しいと鈍感になってしまうのだ。
「あの〜、この前予約したチケットなんですけど、時間を変えたいんですけどね」
「はい、かしこまりました。それではお名前を教えていただけますか?」
「ハシモトと申します」
(え〜!またこのお客さん……)
しょっちゅう電話で予約してはキャンセルする客だ。もちろん購入もしてくださるのだが、どうもキャンセルが目立つ。この電話を受けるたびに、ファイルを探し回らなくてはならない。見つかったら申込書を修正して書きいれ、今度はデータを打ち込み直す。手間がかかるのだ。
 
「い、いつもお世話になっております。お日にちはいつでしたか?」
「5月○日です」
「5月○日ですね。少々お待ちくださいませ」
保留音を流すと同時に引き出しへ駆け寄る。ここで見つからないとなると、向こうのカゴに入れてあるのかも。カゴになければ、奥の引き出しにしまってあるはずだ。
右往左往していると、上司が声をかけてきた。
「おい、どうした?」
「ハシモトさんからまたキャンセルの電話で、ファイルを探しているんです」
「またか〜。この人、困ったもんだよなぁ」
同僚からも声が上がる。「私もこの前キャンセル受けましたよ」「私は先週、予約の電話を受けました」
部下の声を聞いて上司はぼやく。「忙しいのに余計な仕事だよな」
「本当ですよね…あ、ありました」
「よし。俺が代わりに電話に出てやるよ」
上司は私からファイルを受け取ると、受話器を上げた。
 
「あ、ハシモトさん?いつもお世話になっております。あのねぇ、お買い上げいただくのはありがたいんですけど、キャンセルがちょっと多いですよねぇ」
「え、ええ。すみませんねぇ。相手の都合で変えざるを得ないんですよ」
「ちゃんと日程が決まってからご予約いただいているんでしょうか?」
「…そうですよ。もちろん」
「そうですか。こちらは探すのが大変でしてね。いただいたご予約はきちんと取りますんで、できれば確定してから電話をいただけませんか?」
ずっと言いたかったことだ。上司は溜飲を下げた気がした。
 
■誰のためのチケットなの?
客のハシモトはカチンときた。
「だ・か・ら、確定してから電話してるんですよ」
何なんだこの男は。いきなり電話に出てきたかと思えば、文句を言ってきた。
「私だってね、こんな電話、そうしょっちゅうかけたくないわよ。悪いなと思っていたけど、そんなふうに言われたら悪い気持ちも吹っ飛ぶわ。おたく、遠慮して買えって言いたいわけ?」
「い、いや、そういうわけじゃないですよ。ただね、キャンセルが多いもんですから」
「買ってるじゃないの。時間や日にちを変えているだけで、相当これまでおたくで買ってるわよ」
キャンセルと言いながら事実上は変更に過ぎない。電話で予約をして店に出向くパターンを繰り返すうち、従業員の顔も何となく分かってきた。良心トラベルの支店網の中で、一番足回りがいいのでこの店で買ってきたのだが、ここにとって私は得意客ではなかったのだろうか?
 
「以前はね、おたくの店で並んで買ってたの。でもいつも待たされるのよ」
「まあ、うちはたくさん人が来ますからねぇ」
「だから並ばせっぱなしでいいと思ってるの? 25分も待ったことあるわ。客をこんな長い時間立たせっぱなしにしているところ、よそはないわよ。いつもね、私の後ろに並ぶ人の中には、誰かが舌打ちしてる。そういうこと、気づかないでしょ!」
イライラしてきた。何て無神経な人なんだろうか。
「だからね、電話で予約するようにしたの。受け取る分にはそう並ばなくて良さそうだから。でも、電話口でも待たされるのよね。変更してもらう手前、文句も言えないと思ってたけど、おたくいつも探し回っているでしょう?」
電話機の液晶画面には時間のカウンターが刻々と出る。良心トラベルに電話をかけると、呼び出し音がけっこう長い。その上キャンセルを申し出ると、「少々お待ちください」と同時に流れる保留音が1分以上かかっていた。電話を切る時に3分は超えるのだ。
「まあ、おたくはそういうやり方なんだろうけど、どうなのかしらね」
 
相手は沈黙していた。それがいっそういらだたせる。
「何で黙ってるの!?いったい誰のためのチケットなわけ?客が買ってこそでしょう?おたくら、客が1枚1枚チケットを買っているから給料をもらっているんだってこと、分かってないようねっ」
いくら言っても時間の無駄だ。客はガチャ切りすると、良心トラベルのホームページにアクセスした。
 

■■■■■■■■■■クレームが起きる構造■■■■■■■■■■

なぜホームページにアクセスしたか、予想がつくと思います。
クレームが持ち込まれるのは、従来、電話が主流でしたが、メールが急速に増えています。メールを受け取った本部は、お客様への謝罪と現場への指導をすることでしょう。そして、お客様からのメールで自分たちが苦労して開発した商品やサービスが、現場レベルで台無しにされていることを知るのです。1通のメール、1本の電話の背景にはおびただしい数の物言わぬクレーム客がいますから、あなどれません。
 
良心トラベルの言い分に納得できる方もいるでしょう。予約段階の販売とキャンセルでは、労働に対する心理的な負荷が違います。おまけに煩雑な手作業を伴うとなれば、なおのこと不満が高じてくるはず。「ただでさえ忙しいのに面倒くさいことさせて。迷惑な客だ」こんな愚痴が職場内にまん延し、非がお客様にあると共有した思いが上司を強い態度にしました。
 
なぜ、非がお客様にあるのか。それは自分たちの事情に合わないからです。
巷間、クレーム対応研修を実施すると、受講者からこんな声が上がります。「客がわがまま」「よそがサービスしすぎ」「客は切ってもいい」……
それでは、せーの、で一斉にサービスを止めることにしたらどうなるでしょう?恐らく、抜け駆けするところが出てくるに違いありません。手間がかかることを面倒くさがるのではなく、手間をかけることでお客様を増やし、リピーターになってもらう。この流れは変えようがありません。ここで頑張ることを止めた企業が淘汰されていくのです。
たちの悪いクレーマーを除いてほとんどのクレーム客は、元はごく普通のお客様です。お客様の事情に合わせて手間をかけることを面倒くさがり、いつもと変わらない日常に固執するとこじれていきます。
 
良心トラベルの場合、お客様を長時間並ばせることと、その都度ファイルを探し回って修正するやり方が日常です。これらは効率的とはいえません。このやり方が変だと思わない環境、変だと声に出せない風土がクレームを呼び込んだといえます。

多くの企業が『お客様第一』を掲げているにも関わらず、クレームに悩まされているのは、そのための教育がされていないからです。ベテランが現場で仕事を教えるOJTは、作業手順の説明に終始しています。業務が滞りなく進むことが大事で、優先すべきはお客様ではなくベテランや上司だと、刷り込まれていく。これは教育ではなく飼育です。
「そんなことはない。ちゃんとお客様のためにこれをやるんだと強調している」という方。彼らが自分の居場所を確保するために、同僚の顔色を気にすることはありませんか?人が働く根底には単に生活費を稼ぐだけでなく、人の役に立ちたいという思いがあります。その「人」とは誰なのか、お客様志向を職場が共有していますか?これらが弱ければ、やはり飼育しているのです。

クレームが発生すると、その職場の人間関係が浮き彫りになります。そして、お客様の事情に合わせた取り組みを、する気があるのかも分かります。この2つはワンセットで、話し合える環境であれば、取り組みに個人レベルの工夫が見られるもの。まずは職場環境を見直すこと。技術はそれからです。


次号は「共感の伝え方」と「電話の切り上げ方」を解説します。  

 
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