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中小企業の退職金制度の現状と見直し時の留意点
佐藤文子 記事更新日.06.09.08
びいず社労士FP事務所 代表
社会保険労務士・CFP・DCアドバイザー
■PROFILE
1981年名古屋大学文学部卒業。
高校教職、広告会社での求人広告営業、生命保険会社での企業保険営業を経験の後、販売代理から購買代理への転換を志して2001年4月独立、中立の立場で顧客支援を行うことを実現した。
社会保険労務士として就業規則作成、賃金制度整備、人事労務アウトソース受託などを行う一方、ファイナンシャルプランナーとして従業員サイドのライフプランや運用相談、保険の見直し相談まで幅広くこなしている。
確定拠出年金は制度創生期より関心を持ち、投資教育インストラクター・ライフプラン相談者として従業員層と接する一方、中小企業にも使える企業年金制度として普及に取り組んでいる。

連絡先
〒466-0054 名古屋市昭和区円上町21−13−201
TEL 052-881-0404
E-mail:bunko.sato@nifty.ne.jp
http://homepage3.nifty.com/bsoffice/index.htm
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■はじめに
税制適格年金(適年)制度の廃止が決まって5年が経過しました。厚生年金基金の代行返上や解散が相次ぎ、退職金制度は大きく変化しつつあります。平成14年度から17年度の動きで見ると、厚生年金基金は1,656件から687件へと半減し、適年は66,757件から45,090件へと減少しました。しかし、平成23年度末の適年廃止までまだ時間があると思われていたり、目前に定年を迎える年齢層の少ない企業では看過している例も少なくないと思われます。一方、これから退職金制度を整備し、優秀な人材の確保を図りたいという企業もあるでしょう。そこで本稿では、退職金制度の見直しについての基本的な部分を確認してみたいと思います。
■適年の積立不足問題
退職金制度の課題を大きく2つに分けると、財務上の課題と人事制度の課題に分けられます。財務上の課題はいかに効率的に退職金ファンドを作るかということですが、企業会計に「退職給付会計」が導入されて、将来に約束した退職金の支払いが負債として認識されるようになりました。そこで浮かび上がってきたのが適年の積立不足問題です。適年制度の大半は高金利時代に設計され高い予定利率で計算されています。その多くは掛金を従業員の定年時まで利回り5.5%で積み立てて退職金を作る仕組みなのです。ところが超低金利時代が続き、現状の資産残高ではこの先規定の退職金に到達しないという状況になってしまいました。このところの株高により特別勘定で運用する 適年では積立不足が解消された向きもありますが、大半を占める一般勘定の適年では依然として積立不足の問題から逃れられていません。また、退職給付会計は今のところ中小企業で義務づけられているわけではありませんが、隠れ債務であることに変わりはなく、財務体質強化のためには見逃していいものではありません。
積立不足 退職給付債務
(年金給付必要額)
積立金残高
(企業年金のバランスシート)
適年制度は廃止が決まっているので、ファンドの組み替えが必要です。基本的な方法では現時点での積立不足を埋め合わせてから資産を他制度に移管します。積立不足を埋め合わせるキャッシュが不足の場合は、給付減額を行って資産を移管します。不足額を凍結して退職時に支払う方法もあります。
このあたりの手法については専門家に意見を聞きながら進めることになるでしょう。不利益変更を伴う場合もありますが放置すれば傷は深くなります。

ちなみに、適年制度の解約だけで退職金制度そのものを廃止してしまう例もあるようです。この場合、適年の解約金は直接従業員に支払われ一時所得として課税されます。企業風土にもよりますが、従業員のモティべーションダウンが懸念され、避けたいものです。
■中小企業が使いやすい退職金ファンド
適年に替わる退職金積立には、内部留保の他、確定給付年金(規約型、基金型)、確定拠出年金(企業型、個人型)、厚生年金基金、キャッシュバランスプラン、中小企業退職金共済(中退共と略されます)、生命保険(ハーフタックスの養老保険)などがあり、選択肢は多岐にわたります。さらに、商工会議所会員なら特定退職金共済(特退共と略されます)、建設業なら建設業退職金共済(建退共)も使えます。

このうち適年資産の移管先として中小企業が現実的に使える主なファンドは確定拠出年金(企業型)と中退共の2つでしょう。確定拠出年金と中退共を、適年に最も近い仕組みである確定給付年金と比較してみましょう。
【確定拠出年金(企業型)】
日本版401kです。加入者は197万人に達しました。企業は掛金を拠出し、運用は従業員が行います。積み立て不足の問題は発生しません。投資教育をいかに行うかが成功の鍵ですが、そのノウハウもかなり蓄積されてきました。また、総合型が登場して、少人数の企業にも導入がしやすくなりました。
60歳まで中途引き出しはできませんが、転職時に資産の移管ができます。したがって人事面においては特に採用の部分で、確定拠出年金の資産を持った大手企業からの転職者を受け入れやすいという効果も見逃せません。最近ではこの受け皿としての部分を目的とした中小企業での導入も増えているようです。
なお、企業主導で個人型を導入する企業もあるようですが、税制面等疑問が残ります。
【中小企業退職金共済】
独立行政法人勤労者退職金共済機構が運営する退職金制度です。加入できる企業規模に一定の制限があります。企業側のコストがかからないのがメリットですが、予定利率は1%の固定です(法令改正により変わることがあります)。給付は退職時ですが、転職先が中退共に加入していれば退職金として受け取らず掛金納付実績を通算する制度もあります。
【確定給付年金(規約型)】
規約に基づき退職金積立を生命保険会社や信託銀行に委託します。適年とよく似た仕組みですが、予定利率の設定や積み立て不足の解消などの縛りがかなりきつく、いままでと同額の退職金を積み立てようとすると倍ほどの掛金が必要になります。ただし従来の退職金支給額を減額しないのであれば従業員の納得は得られやすいでしょう。
確定給付年金
(DB)
確定拠出年金
(DC)
中小企業退職金共済
(中退共)
給付額の保障 企業が保障 保障なし 予定利率1% 
運用リスク 企業が負う 従業員が負う 中退共が負う
退職給付債務 あり なし なし
口座管理 不要 個人別 個人別
コスト 事務費 事務費 教育費 なし
中途退職時の給付 あり なし あり
退職事由による減額 可能 不可能(規約により可能な場合もあり) 例外的に可能(懲戒解雇の場合など)
退職一時金制度を導入する場合は、その原資を積み立てる必要がありますが、生命保険を利用した仕組みとしてよく使われている通称ハーフタックスを紹介しておきます。
【養老保険(ハーフタックス)】
養老保険とは、死亡保険金と満期保険金が同額となる生命保険です。これを原則として従業員全員一律に加入させ、契約者=会社、死亡保険金=従業員の遺族、満期保険金=会社、という契約形態で契約します。満期は通常定年年齢に合わせますので、満期保険金を退職金の原資とすることができます。解約時の返戻金は会社受け取りであり、中途退職の際、解約金を必ずしも従業員の退職金に充てる必要はありません。税務上は保険料の半額が損金算入できます。
■人事制度としての退職金規程はファンドとは別物
もう一方の課題、人事制度面に目を向けてみましょう。そもそも退職金制度は何のためにあるのでしょうか。インセンティブであると考えるのなら成果給と連動するような退職金制度とするべきですし、老後生活のための福利厚生ととらえるのであれば掛金は全員一律に近くなるでしょう。

いまだに多くの中小企業に採用されている退職金制度に勤続年数倍率方式があります。勤続年数によって定められた退職金支給率を基本給にかけて退職金の額を算出する方法です。通常は会社都合と自己都合で掛率を変えますが、年功的色彩の濃い制度です。基本給の決定方法がはっきりしていないと、さらに曖昧な制度となります。

すでにお気づきだと思いますが、退職金の積み立て方法だけ変えても、問題の解決にはなりません。退職金原資の積立はあくまでファンドの問題であり、人事制度の問題は別物であるからです。勤続年数倍率方式の場合、そのままでいいのかの再確認が出発点です。
成果に応じた退職金制度としてよく使われているのがポイント制です。
 ※【ポイント制】勤続ポイント、職能資格ポイント等を累積し、退職金単価を掛け合わせることによって算出します。功績に応じたポイントの付与が可能です。従業員のポイント管理が必要となります。

実際に退職金制度を見直すにあたっては、まず退職金規程が自社の考える退職金の位置づけに合致しているかどうかの検証を行い、ファンドの現状を把握し、その上で最適な規定とファンドを設計するという順序になります。ファンドは必ずしも一つである必要はありません。二つ三つ組み合わせて自社にぴったりの制度を構築することもよく行われています。

ファンド選びの主な論点は、中途退職時の給付が可能かどうか、退職事由による減額が可能かどうかです。
まず中途退職時の給付ですが、これは確定拠出年金、厚生年金基金ではされず、退職者は60歳以降の給付を待つことになります。一見デメリットのようにも見えますが、逆に、企業年金制度を公的年金の上乗せととらえるのであれば、確実に老後資金を積み立てるという意味でプラス面と考えることもできます。平成16年の年金改正で老齢給付のさらなる縮小が決まり、従業員が自主的に投資(リスク資産を含む運用)について考えねばならない時代になってきたことを思えば、60歳まで途中引き出しができない代わりに非課税で複利の効果を享受できる確定拠出年金の意義は大きいでしょう。特に長期運用の場合、利回りの違いが結果に大きく影響します。たとえば22歳から60歳までの38年間、毎月1万円を積み立てたとして、利回り1%では550万円程度しか積み立てられませんが、利回り4%で積み立てられれば1,000万円を超えます。従業員に運用リスクを負わせるということは、投資の成果を享受する可能性を与えることでもあります。
次に退職事由による減額が可能であるかどうかです。これは中小企業の社長さんたちには譲れない部分だよとおっしゃる方もあります。これについては拠出と同時に資産が従業員に移転する、確定拠出年金、中退共では原則不可能です。内部留保、確定給付年金、生命保険(ハーフタックス)などを利用します。

具体的な設計例を見てみましょう。

例1

確定拠出年金と中退共を組み合わせたプランです。退職給付債務は発生しません。公的年金の上乗せを積極的に作るという意味合いで確定拠出年金を、とはいっても転職時の一時金がほしい、運用リスクを取らない部分もほしいという意味合いで中退共を組み合わせています。
役割給、成果給をもとに退職金算定基礎給を定めれば、各従業員の会社への貢献度にその年々で連動する退職金となります。

例2

確定拠出年金とハーフタックスプランを組み合わせた例です。ハーフタックスの解約金は会社受け取りですので、フレキシブルな使い方が可能です。この例では退職金カーブが中盤で勾配を増すS字型カーブを描く退職金制度に合わせています。

なお適年資産を移管する場合は、積立不足を解消して行う必要がありますが、不足分を減額して資産を移管し、各従業員の制度移行時の適年からの移管金と中途退職一時金相当額の差額については凍結の上退職時に支払うという手法も可能です。
■これからの退職金
人口減少社会に突入し、優秀な人材の確保はますます難しくなると予想されます。魅力ある施策で従業員の確保や士気向上を図るために、賃金制度の透明性はもちろん、退職金制度においても 従業員の目に見える形で構築していくことが重要になるでしょう。「退職金制度はあるらしいが期待できない」ではなく、「いま私の退職金はここまで積み立てられている」と従業員が認識できるような退職金制度を、この機会にぜひ考えてみてください。
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