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産業政策と地域づくり――思いつくまま  
平野 洋 記事更新日.09.10.01
(財)あいち産業振興機構 理事長

【問い合わせ先】
(財)あいち産業振興機構 
〒450-0002 名古屋市中村区名駅四丁目4番38号
愛知県産業労働センター15階(ウインクあいち)
電話 052-715-3061   Fax052-563-1431
 
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■はじめに
経世済民(世を経(おさ)め民を済(すく)う)、あるいは、乏しきを憂えず等しからざるを憂う、とは古代中国に源をもち、現代の我々にも大いに貴重な言葉として伝わっています。「経済」の語源としても福祉社会のあり様の考え方としても参考になると言えましょう。少し見方を変えて地方自治にこうした考え方を敷衍するならば、地域(国)づくりの究極の目標は「県(国)民福祉の向上、県(国)土の均衡ある発展を目指す」ということになるのではないでしょうか。
経済のグローバル化の大潮流の中で地域経済も社会も大きく揺れ動いています。「もはや戦後ではない」とは1956年の第1回経済白書での記述ですが、この意は、戦後復興の時代は終わりこれからは新しい挑戦をするという困難な道が待っている、といった内容と承知しています。今はまさに「もはやこれまでの道筋では将来が描けない」、「もはや国という単位では図れない」という時代に突入しているとの感を持ちます。高度経済成長とその遺産による持続的な発展の時代は確定的に終わり、これからは新たな挑戦に不断に取り組むことが不可欠と考えます。
こうした中で重要なことは、人間個人個人の生きざまと社会全体との調和、言い換えれば「個(人間力)」としてどうあるべきかということと、「安心社会」の構築が大きな要素として浮かび上がってくると感じます。「安心社会」と言えばこの夏に策定された「骨太の方針2009」では「我が国の経済と社会は〜「豊かさ」と「希望」と「信頼」とを次代に引き継げるか否かの歴史的な正念場にある。〜国民の暮らしと生活を守ることを最優先すべく経済と社会を一体的に捉えた変革に取り組まなければならない。〜「安心社会」を実現し〜云々。」とあります。立場を超えてこの考え方は広く承認されるものと思います。 産業政策とはまさに「安心社会」の構築を目指す地域づくりのための必要不可欠な手段なのです。以下、順次、産業政策と地域づくりについて「私なりの考え方」をお示ししたいと思います。

1 産業政策を考える―――その要素としては
産業政策を考える際には、様々な要素(視点)から捉える必要があります。「経済成長戦略大綱」(2008.6)では、ヒト、モノ、カネ、ワザ、チエといった区分けで戦略の方向性を示していますが、私は地域の産業政策を進めるに当たって次のような要素を基礎に考えてきました。

空間・情報インフラ 用地、空港・港湾・道路・鉄道等交通・物流インフラ、水・エネルギー基盤、ブロードバンドインフラなど
ひと(人材) 基幹的な労働人材、高度技術人材、研究者など
資本(金融) 民間・公的金融、助成、ベンチャー育成投資など
科学・技術開発 研究施設、研究・技術開発資金、産学官連携、知的財産など
社会的環境 文化・芸術、教育、まちづくり・景観、地域コミュニティ、安全・安心社会システムなど、いわば「ひと」を引き付ける地域の魅力に関わるもの
制度構築 産業政策に関わる様々な制度(法令、税制、助成制度などの仕組み)の構築


これらの要素を幅広ににらみながら総合的に政策立案をすることが必要ですが、クール・ジャパンが注目されるように、産業政策を考える際には「文化・芸術」といった「ひと」や「地域」の誇りや魅力につながるもの(これは広く情報となって国際社会にも伝播する性格のものです)は、産業とは直接絡まないと一見されるものの、これからはその重要性を一層増してくるのではないかと思えます。その意味でこの地域には、東京から九州まで全国に9つある国立の博物館、美術館がない、ということはやや寂しいことです。二条城二の丸御殿(国宝)に匹敵する武家文化の象徴で、貴重な美術工芸品を収める名古屋城本丸御殿の再建は、地域の誇りや魅力にとって、また産業政策にとっても大きな意味を持つのではないでしょうか。


2 産業政策・地域づくりで考慮すべき社会潮流・変化
複雑・多岐にわたりかつ、地球規模の様々な動きを考慮しながら地域の産業政策を企画・立案していくことが求められています。いわゆるグローバル化、資源・エネルギー制約、地球環境問題、少子化、高齢化、ひと・地域の格差問題など様々な潮流、前提、条件などを多元的に分析しながら産業政策を考えなければなりません。そこでいくつか気になることを取り上げてみましょう。
まず人口の今後です。世界人口(いずれも国連による)は2005年で65億1千万人、2030年には83億2千万人、2050年には91億9千万人と推計されています。翻って我が国は、2005年が1億2,777万人、2030年は1億1,522万人、2055年は8,993万人、2105年は4,459万人(国立社会保障・人口問題研究所推計)となっており、2005年を100として2030年は90、2055年は70、2105年は35と、1904年の日露戦争当時とほぼ同じということになります。ほぼ100年前と後の人口が同程度であり、これまでの成長を下支えしてきた人口増(労働力人口増、国内需要増)というゲタが消えてなくなり、まず国内で立ち上げ、国内市場で揉まれ安定需要を確保し、しかる後に海外展開というモデルは期待できません。昨年の「ものづくり白書」ではサプライチェーンという形でアジア経済との一体化の方向を示していますが、県内レベルの地域だけに焦点を当てた産業政策はますますその意義を小さくしていくと考えられます。
次に人の経済格差です。自由を基本とする資本主義の持続的な発展、成長のためには分厚い中流階層の存在、そして老後を含めた生活に関してまさに「安心社会」が基盤となって内需を支え、グローバル化の中で十分競争できる「人材」を育てることが必要ではないかと思われます。経済格差を示す調査結果として厚生労働省の「所得再分配調査」(平成17年)を見てみましょう。当初所得と再分配所得(当初所得から税・社会保険料を除き社会保障給付を加えたもの)のジニ係数(分布の均等度を示す指標。0に近いほど分布が均等、1に近いほど不均等)は当初所得では平成5年=0.4394,11年=0.4720、17年=0.5263、再分配所得では同じく0.3645,0.3814、0.3873となっており、単身世帯、高齢世帯の増大も相まって近年格差の拡大が進みつつありますが、社会保障負担、租税負担により人の経済格差の緩和がある程度されていることが分かります。経済社会全体の活力を高めてパイを大きくすることも重要ですが、ヨーロッパ諸国と比べて大きな開きがある国民負担率(国民所得に占める租税負担・社会保障負担率)をどのように見直すかも持続的な自由主義経済の維持発展のために重要なことと言えましょう。ちなみにアメリカは日本より国民負担率がやや低いのですが、公的な健康保険制度の全面導入をすればこれが逆転するとも言われており、別途寄付の風土(アメリカは2002年で25兆9千億円、日本7,300億円。政府税調資料)を加えれば我が国こそ、この問題を真剣に考える時期に来ているといえます。また格差としては地域間の問題もありますが、紙幅の都合上省きます。

3 産業(立地)政策の流れと課題
これからの産業政策を考える上で歴史をひも解いてみるのも重要です。昭和30年代は製造業の地方圏への立地誘導を主眼とし、首都圏工業等制限法、新産業都市建設促進法、工業整備特別地域整備促進法などのもと、拠点開発方式が提唱推進され、当地域では昭和34年の伊勢湾台風による災害克服も重要な契機としつつ3内陸3臨海の工業拠点開発の推進を図っています。40年代に入ると都市問題、公害問題をにらみつつ公害対策基本法、農村地域工業導入促進法、工業再配置促進法が制定され、50年代には石油危機等資源制約を背景にして、定住構想の推進と相まって「地方の時代」の標榜、そして先端技術産業の活力を導入し産・学・住の調和した街づくりを進めるテクノポリス構想に代表される、知識集約型の産業振興の強化、60年代から平成一桁の頃までは東京一極集中の是正と多極分散型の国土形成を目指して頭脳立地法、地方拠点都市法等の制定を見ています。平成10年代になって以降は経済のグローバル化をにらみつつ、世界に通用する産業・企業の支援が着目され、新産、工特制度の廃止、工場制限法廃止など、これまで進められてきた大都市から地方への工場移転策からの転換と相まって、地域の資源を活かした内発的な産業育成策が強化され、現在に至っています。
また昭和50年代以降の愛知の産業政策の流れを概観すると、資源環境制約に対応するための知識集約型工業の誘導、環伊勢湾都市圏の中枢性強化を目指した頭脳集約産業エリアの形成、多様性のある産業拠点の形成、人づくり、産業技術の世界的中枢性の強化(例;知の拠点づくり)など、時代が変わっても「世界的な産業技術の中枢圏域」をにらんだ政策に焦点が当たっているといえましょう。平成19年の製造品出荷額や付加価値額を比較しても、愛知は2位の神奈川の2倍を大きく超えているという実績からもわかるように、これまでの産業政策はその時代の要請と将来展望を踏まえつつ、概ね適切な判断のもと展開がされ、現在の愛知の地位の形成に寄与している面が多いと思われます。
こうした中でやや気になることは広域的な総合行政主体としての都道府県の役割です。産業政策は本稿「1」で記したように、地域特性を考慮した総合的な取組みが必要であり、企業等への直接的な政策のみでは十分な成果は期待できません。しかしながら、平成16年から取り組まれた三位一体の改革による地方の財源の縮小、景気悪化による税収減、都道府県を通さずに国から地域の関係団体・企業等への直接的な補助(空飛ぶ補助金とも言われる)の増大等によって、都道府県の果たすべき役割が大きく損なわれているのではないかと危惧されます。中央は国債発行により財源を確保し政策立案の自由度が高く、地方では中央立案の政策を企業や団体等が公募形式で導入を図る、ただしそこには都道府県の姿は前面に出てこないという図式になっているのです。国の役割は金融上、税制上の事業環境整備を基本とし、地域に対する直接支援はまさに先端的なモデル事業など全国的視点に立った事業に限定する、あるいは様々な産業振興政策のスキームやメニューを国が提示することはあっても、その具体的な実行は財源の手当てをしつつ、広域的な総合行政主体である自治体の主体的な判断に任せるということであれば、地域の実情に合った政策展開が良い意味で競争的かつ的確に行われると思われます。地方分権改革推進委員会の勧告の方向に沿って、今後大いに議論がなされるべき課題と思います。


4 今、求められるもの
産業政策は単に産業振興策といった狭い視野で考えるべきではなく、総合的に検討されるものであり、地域の魅力や誇りにつながる文化・芸術というような要素も重要なことは本稿「1」でも述べました。まさに「地域力」が試されていると存じます。であるからこそ地域の広域的な総合行政主体としての都道府県の役割が財政状況を背景に次第に小さくなっていることは大いに問題ですが、他にもいくつか気付いたことを申し上げます。
ひとつはニーズが顕在化してからの政策着手ではもたない、ということです。たとえば工業団地等のインフラ整備です。これまで愛知では県企業庁が中心となってバランスある地域づくりも視野に入れつつ、先行的な用地整備を進め、その舞台の上で企業の生産活動が時機を失することなく展開されてきました。用地整備は計画に着手してから完成までに平均7年ほどかかっているということ、一方、産業サイドは世界レベルの競争環境の中で速やかな対応が一層必要となっているという側面を照らし合わせるとき、公共がリスクを負って先行的なインフラ整備に努めることがこれまで以上に求められていると思われます。
次に問われるのは、人づくりです。国境のない生産活動、国境を感じない人々の増大という状況が生まれています。こうした環境にそれほど障害なく対応でき、活躍できる人材の層の厚さが地域のパワーとなり、ひいては国の力となるのです。個としての力(人間力)の向上を目指して教育、人づくりに一層力を注ぐことが不可欠となっています。
さて、産業振興など政策の立案はどのようになされるべきか、私なりの考え方を述べたいと思います。そもそも政策の立案は、収集―分析―評価―対策という過程を経て、最終的に決定されると考えます。その際、人々から負託を受けた政治家と官僚(行政マン)の役割を巡っては大きな議論があるところですが、以下のように示すことができるのではないでしょうか。

  収 集 分 析 評 価 対 策 決 定
政治家
官 僚

*収集:様々な情報、資料、データの収集
*分析:それらに関して多様な観点からの分析、課題の抽出
*評価:分析した結果をもとに重要度、優先度等を評価
*対策:評価をもとに一定の戦略・方策を具体政策として立案
*決定:政策採択の合意
注;◎、◯、□の順に役割が小さくなる



つまり対抗なのか、依存なのかということではなく、より望ましい社会づくりへ向けての、緊張感のある程よい連携(つまりはいい按排)ということであろうと思います。であるが故に様々な情報の共有化、共通の議論の場というものが重要になると考えます。
ここで政策に関する社会的な合意という点について考えてみます。最近、「国のかたち」という表現がよくされます。国のかたちが見えない、などという評価を下して悦に入っているケースもあると感じます。しかしそれでいいのでしょうか。例えば、「骨太の方針」に関連して様々なビジョン、計画が打ち出されました。新経済成長戦略、科学技術基本計画、アジア・ゲートウェイ構想、21世紀環境立国戦略、ワーク・ライフ・バランス憲章、地方再生戦略、アジア人財資金構想等々経済関係のみならず、福祉、教育等各般にわたって政策の方向性を示すものが出ています。立場によって比重の置き方や評価が異なるとしても「国のかたち」なるものは概ねこれらのビジョン、計画等によって姿が描かれているのではないでしょうか。しかし、これらの計画等の内容につぶさに目を通した人は果たしていかほどでしょうか。こうしたものに人々がこぞって目を通すべきとは無理な注文であり、とすれば、的確に情報を伝達する、分かりやすく説明する、理解を求めるという行為が重要で、その意味では、政治家、官僚(行政マン)、報道界の役割は極めて重要と言えます。政策に関する社会的な認知、共通認識化、そのための的確な情報をいかに提供するかが問われているのです。

 ■ 終りに
「百年に一度の危機」とはFRBの前議長グリーンスパンの発言と聞いていますが、もしそうであればこそ百年に一度の挑戦を我が国も求められており、地域社会も自らそうした覚悟で活力ある経済社会を新たに構築しなければなりません。そのためには、先ずは広範な情報・データを収集し、冷静な分析を加え、課題を摘出し、評価し、相応しい方策を選択する作業をしっかりと意識して行うことが必要です。新しい時代潮流を踏まえたビジョンや計画がこれから愛知県で策定される予定ですが、そうした中で産業振興における中小企業支援のワンストップサービス機関を担う本機構としても、今後の県の政策に大いに注目し、期待するとともに、自らも組織を挙げて新しい時代潮流における中小企業支援のあり方を現場から探りつつ、的確な対応と挑戦に努めてまいりたいと思います。
(平成21年8月18日 記す)


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