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超伝導で電力大変革
“歩く先端技術総合研究所”中部大 山口教授の成果
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家庭に来ている電気は交流であるが、最近では家庭電力の約70%は直流に変換してから使っている。工場も最終的には80%以上が直流需要であり、直流の方が効率的に使える。一方、発電所は交流で発電するが、交流は距離が伸びるとロス(損失)が直流に比べて大きくなる。高温超伝導材料が発見され、送電利用の研究開発が行われてきたが、ほとんど全て交流についてであった。今回は、さまざまな先端技術に関する豊かな知見で、直流超伝導この問題をブレークスルーする 中部大学 工学研究科電気電子工学専攻 先進技術連携研究センター 山口作太郎教授の研究室を訪問した。(取材は(財)科学技術交流財団 出口和光、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)松山豊が担当)。
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― まず、先生がどのようなご研究の道のりを歩まれたのか、ご紹介ください |
山口 名古屋大学のプラズマ研究所で電磁流体力学
およびプラズマ分光学の研究で博士をとり、まず、三菱電機に入社いたしました。
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― 民間の企業にいらっしゃったのですね。どのくらいいらっしゃったのですか |
山口 11年ほどいました。三菱電機では、プラズマ核融合装置のマグネット・電源・計測器関連の開発に携わるなかで、大変重要なことを教えていただきました。たとえば、ファイルの整理とか打合せの進め方、全体が1枚でわかる資料の作り方、どのように効率よく研究開発を進めていくか・・・などといった、研究開発のマネジメントを教えてもらい、本当に感謝しています。
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山口 三菱電機にいるときに、JT-60という、核融合研究の国のプロジェクトが立ち上がりました。私は会社から参加することになり、その後、さらに土岐市に核融合科学研究所がLHDと言う超伝導マグネットを使った世界最大の実験装置を作ることになり、その内に三菱電機から移籍しました。核融合の実験装置は、超伝導線材で磁場を発生させていて、今の研究の要素があるのです。 |
山口 その後、当時研究所長の飯吉先生が中部大学に移られて、核融合はなかなか難しいが、超伝導は近い将来に実用化されるかも知れないと言われて、今、中部大学にいるということです。 |
― そして現在取り組まれているのが、直流超伝導送電と・・・
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■プリウスの技術が直流超伝導送電を可能にするきっかけ |
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山口 そうです。この図を見てください。通常電力は発電所からユーザーへ交流の送電線で送られますが、ロス(損失)が大きいのが問題です。このロスを劇的に減らすのが、直流超伝導を使った送電線(図中 DCSC-PT)なのです。右の図はコストです。 |
山口 直流システムは、交流に戻すインバーターなどの変換装置等で初期コストが高いのですが、距離が長くなると、交流よりもコストが銅ケーブルでさえ低くなり、既に欧米では一部で常温の直流送電が行われています。私たちは、さらに超伝導でコストを抑え、ロスの少ない送電システムの実現を目指しています。 |
― 超伝導という難しい技術を使ってもコストは減るのですか |
山口 そこがおもしろいところです。まず、インバーター変換は、実はトヨタ自動車に秘密があります。私も電機メーカーにいたので、察しがつくのですが、従来の電力用インバーターの価格からすると、プリウスの性能を出すには、インバーターだけで車両価格くらいになってしまいます。確認するとやはり、かなりの進歩があったのです。このインバーターを組み込むと初期コストが下がるのです。さらに、電線材料である銅の価格が高騰していていまして、流せる電流で比べると、超伝導の方が安くなってきているのです。 |
山口 そうです。この写真が、われわれが開発した直流超伝導ケーブルの側面です。真ん中の銅製のフォーマー(former)は、液体窒素を流して冷やすため何も入っていません。100Aの電流が、幅4oで厚さ0.2oのテープ状の超伝導体を流れます。大変薄いので、流せる電流を2倍にしてもケーブルの外径は変わりません。 |
山口 このテープの材料はほとんどが銀でビスマス化合物の超伝導体が混ざったものですが、100A程度の電流を流すことが可能です。このリボン39本を2層重ねています。その外には、液体窒素を流すパイプと断熱のために真空にするパイプが取り巻きますが、それでも直径は150oに収まります。この容量を従来の銅線で確保しようとすると超伝導のパイプよりも何倍もの大変太く重いケーブルになります。銅の価格が上がっていますし、超伝導であれば、ケーブルが細くなりますから、送電線建設に必要な土地も少なく、電流量あたりのコストは、直流超伝導のほうが安くなるのです。 |
山口 これが文部科学省の私立大学研究高度化事業助成で作った実証実験の施設です。 |
― もう本当に実用に近いところを目指している実験ということがわかりますね |
山口 U字型のパイプの中は断熱の真空パイプ、その中にそれを冷やす液体窒素のパイプ、さらにその中に超伝導ケーブルが入っています。U字の真ん中には、真空や液体窒素のポンプ等や操作盤などが置かれています。U字の端には、電流を流し込む端末や電流の状態を計測する装置があります。これで、実際のシステムとしての送電状況やコスト効率を検証しようとしています。 |
山口 この端子部分は、超伝導ケーブルを冷却しているのに接続部分の端子から熱が入ってくるのを防止しようとして開発したペルチェ電流リードです。断熱性を高め、システムの効率をさらに高めています。 |
― 送電や電力事業に大変革をもたらす可能性のある成果ですね |
山口 そうですね。昨年8月に米国電気学会(IEEE)の国際会議がシアトルで開かれましたが、われわれが成果を発表したときに、大変注目を集めました。今回の発表論文では97%が交流超伝導送電でしたが、今後の超伝導送電研究は、我われの成果の影響で、直流が主流になるだろうとも複数の研究者から言われました |
山口 もともと、このプロジェクトも、LNGコンプレッサーのトップメーカーである前川製作所の方と歓談していたときに出た話が発端です。シベリアから長距離ひかれる石油パイプラインシステムでは、どろどろの原油に圧力をかけて送るため、送る石油の半分以上のエネルギーを使ってしまうのです。これでは何をやっているのかわからない。それでは、現地で火力発電所を作って、電力として遠くへ送るほうが効率は良い。であれば超伝導を使ってはどうか、というところからの発想なのです。 |
― 先生は、お話をうかがうと、もともとプラズマに始まり、超伝導材料、電子デバイス、計測技術、WEB、発電等のエネルギー変換システム、エネルギー経済事情まで幅広く造詣が深く、まるで“歩く先端技術総合研究所”のようですね |
山口 研究のマネジメントという点では、かつて日本政府と米国政府の核融合に関する研究者交流でGA(General Atomic)に行きましたが、そのときの経験がためになっています。かつて日本の企業は、海外で成功した技術を日本に持ってきて製品化したので9割は成功していました。一方、米国では、一番前を走る研究をするために、1つのテーマに対して20や30の研究チーム(アイデア)を走らせるというようなことをします。
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山口 米国の研究責任者は、自らギャンブル、研究マネジメントは研究費と時間の管理だといっていますが、20もあるチームの中で1つ成功すればいいのです。それで成果を得ることができる。そして米国が優れているのは、残りの失敗したチームについても、貢献内容を評価し、再チャレンジできるような仕組みになっているのです。かたや日本では、研究開発の数が少なく、研究者や技術者が本当の成功体験する機会が限られてしまいます。
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山口 そうです。研究の成果である特許の配分も、米国では、研究者、研究者の属する部署、研究所(大学)と3等分になっています。これは、所属部署につけるところがポイントで、成功したチームと失敗したチームの潤滑材になるマネジメントツールになるものです。日本は今、大学なら学長になっていて、部署等、研究開発のマネジメントを行う部署にはつきません。これでは、戦略的な研究のポートフォリオを組むことはできません。 |
山口 組織としてのバックアップ体制がないと研究者が自分のメリットだけを考えるモラルハザードになります。例えば、1つの特許でいいのに3つに分割して出すことで、手当て的な収入を増やそうとするような意識などです。こうしたマネジメントシステムの違いが、成果のクオリティを下げることになると思い、憂慮しているところです。
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