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瀬戸を『焼物とガラス』の街に
李 末竜 記事更新日.08.01.04
グラススタジオ・バルト 代表
■問合せ先
グラススタジオ・バルト 
〒480-1206 瀬戸市八床町112
TEL/FAX 0561-41-3535
http://www.baltkobo.com/
印刷用ページ
■愛知で初めての個人ガラス工房
焼物の街、瀬戸。この瀬戸にガラス工房を開き、「瀬戸を『焼物とガラス』で街おこしできないか」と考える男がいる。グラススタジオ・バルトの代表李末竜氏である。

李代表が独立したのは1982年。ガラス工場に勤務したり家業を手伝ったりしながら、ずっと「ガラス工芸を仕事にしたい」と考えていた。働きながら日曜作家も続けてはいたが、中途半端な状況で、一念発起、独立することになる。李代表曰く「愛知県で最初の個人ガラス工房でした。岐阜や三重にも 1カ所ずつしかなかったように記憶しています」。前年には小樽の北一硝子ギャラリーが開店するなど、手作りガラスのブームが広がりつつある頃である。工房を開設した当初は、ガラス工芸の体験を希望する人が殺到し、2ヶ月先の予約が取れないほどであった。

■中小企業家同友会との出会い
工房の収入は、当初は李代表の個人作品のギャラリーでの売上が中心であった。しかし、バブル期が曲がり角を迎えるとともに、作品売上が減少を続け、行き詰まりを感じ始めていた。そこで90年から「プロダクトピース」と呼ばれる、工芸品の品質を保ちつつ、丁寧にクラフト化した少量生産商品を始める。しばらくは、プロダクトピースと体験教室、個人作品売上の比率が1/3ずつとバランスがとれた状態にあったが、現在は体験教室が60%、プロダクトピースが30%、個人作品が10%という構成になっている。
これは、体験教室に力を入れはじめた結果である。きっかけは愛知中小企業家同友会への入会であった。

同友会での勉強会は、経営マインドを持つ工芸作家へ成長させた。企業理念に始まり、自社の分析、事業計画などの重要性に目覚めた。「SWOT分析をした初めてのガラス工芸作家じゃないでしょうか」と李代表は笑う。

■経営理念から出発した体験教室で経営安定
李代表が決めた経営理念。
「バルト工房は、『ワクワクと感動』を創造し続ける集団です」。

創業時の「ガラス工芸のよさを広めたい、たくさんの人に認めてもらいたい」という想いを表現した。この経営理念をベースに「作品を売るより、作品を作る工程を楽しんでもらう」ことを事業として展開したのが体験教室の強化である。

体験教室は好評で、順調に希望者が増えている。コースは様々で「吹きガラス」や「とんぼ玉」の継続的コースから小学生でもできる「ガラス絵付け」や「風鈴絵付け」の体験コースまで10種類を超えるメニューを用意した。出張体験コースを設けたのも大きな追い風になっている。「出張することで、ガラスに親しんでもらう機会が少しでも多くなれば」と李代表。実際、PTAや子ども会、公民館での地域の集会、キャンプ場、大手企業のリクリエイション会など様々な層が、トンボ玉づくり、ガラス絵付けなどに親しんできた。

経営の視点では、体験教室売上の増加は安定経営に大きく寄与している。「作家活動だけでは、どうしても収入が不安定になり、作品売上が落ちるとアルバイトをせざるを得なくなってしまいます。そして作家活動を行う時間が減り、徐々に意欲が減退しまう、という仲間を見てきましたので、なんとか仕組みとして売上を確保し、経営を安定させる方法を考えたわけです」と経営者の顔をのぞかせる。
■体験教室を全国で
「今の『キレる』子どもは様々な体験を通して、感性を磨く機会が減っているからではないかと思うのです。ですから、社会貢献にもなる体験教室を通しての『心に対しての提案』ができないものかと考え、『いー体験』 という体験学習のポータルサイトを同友会の仲間と立ち上げました。このポータルサイトでは、様々な分野のインストラクターに呼びかけた結果、ガラス工芸だけでなく、右脳を鍛える「頭脳スポーツ」、お香調合・陶芸、木工、バルーンアート等、多彩なメニューを用意することができた。

「こうした体験教室は、インターネットを使うことで、一気に全国に広げることができるのです。現在は愛知県近郊のインストラクター登録しかありませんので、例えば青森県の人がホームページを見てもオファーがあることは現実的には皆無でしょう。しかし、青森県のインストラクターの方が登録できれば、青森県で教室を開くことは可能になるのです。そうなると、この事業を仕組化するには、全国各地にインストラクター確保をすればよいということになります。初心者向けの体験教室の講師であれば、ガラス工芸や陶芸などに興味がある方なら、数日の養成講座を受けてもらった上で、教室運営のマニュアルを用意することで充分に教室ができるわけです。現在、この「仕組化」に取り組んでおり、インストラクターをしてみたい、という人を全国で募集しているところです」。

インストラクター候補としては、退職後の団塊世代の方達に生き甲斐づくりとして取り組んで頂けたら三方善しの関係で最高かと思います。

■ものづくりと風景作りで瀬戸を街おこししたい
さて、冒頭の「瀬戸を『焼物とガラス』で街おこし」である。
なぜ、「焼物とガラス」なのか。

かつて隆盛を極めた「ノベリティ(陶磁器製の置物や装飾品などの総称)」作り。明治時代中期に始まり、昭和後期の円高で衰退するまで、瀬戸のノベリティは「精巧さ」と白色の発色のよさがヨーロッパから高く評価された。このノベリティ製造で使われた「石膏型成形」という、原型から石膏型を作り、土を流し込んで焼成することで陶器成形を行う製造法は、瀬戸に「粘土で原型を作る職人」「石膏型で型取りをする職人」「粘土を石膏型に詰め、焼成する職人」とうい分業体制を根付かせた。

李代表が狙うのは、今もかろうじて残るこの分業体制を活かし、かつてのような精巧なノベリティをガラスで製造する「パートドヴェール」という新たなものづくりの試みである。

「焼物では衰退したこうした技術を、陶器からガラスという素材に変え、復活させていきたいと考えています。これが成功すると、恐らく世界でも類を見ないガラス工芸の産地になるのではないでしょうか。なぜなら、ノベリティで世界から高く評価されるほどに培われた高い技術集積と分業体制が今なお残っている瀬戸でなければできないことだからです」。

こうした新しいものづくりとともに「ガラスと陶器」による『風景作り』という仕掛けでの街づくりを狙っている。
何故、『風景作り』なのか。

「瀬戸が情報発信をし、何度も足を運んでもらえる街にしたいのです。観光地で施設を訪れても、一度行ったら二度目に行きたくなる施設、というのは、実はあまりないのではないでしょうか。しかし、風景・風情といったものはそうではありません。一度行って気に入れば、二度・三度と季節で異なる風景や雰囲気も味わいたくなるでしょうし、イベントなどが開催される時期があれば、それも訪れたくなる。風景・雰囲気のある瀬戸で、伝統技術をもとにした陶器・陶芸があり、新しいものづくりのガラス工芸がある。考えただけでワクワクしませんか」と目を輝かせる李代表である。

取材・文 有限会社アドバイザリーボード 武田宜久       

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