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印刷業と出版業のタブーに見つけたビジネスモデル
木全哲也 記事更新日.08.03.03
株式会社三恵社 代表取締役社長
■問合せ先
株式会社三恵社
〒462-0056 名古屋市北区中丸町2−24−1
TEL 052-915-5211(代)  FAX 052-915-5019
http://www.sankeisha.com/
http://www.alcri.jp/
印刷用ページ
大学の先生の講義内容や研究内容を冊子にまとめて書店で販売できる、少部数テキスト出版「サンケイシステム」は印刷業の新たな取り組みとしてNHK「21世紀ビジネス塾」でも紹介された。「印刷業であることを捨てることから始めたビジネスモデルです」と株式会社三恵社の代表取締役木全哲也氏は語る。事務所に張られたポスターには「創造する精神」、そして会社案内には「脱刷宣言」「印刷会社から印象会社へ」という文字が躍る。

■印刷業専門の印刷会社の苦悩

現社長の父親である創業者は、広告マッチの企画印刷などを行っている企業で営業をしていた。40年ほど昔の当時、広告マッチは飲食店会社の最大のPR媒体であった。しかし、会社が倒産してしまったことから、印刷機を持たないで印刷の仕事を 受け、印刷会社へ外注する「印刷ブローカー」を始める。自身の経験と人脈を活かし「飲食店専門」の印刷会社として営業展開を行った。当時はまだ、一つの業界を専門に行う印刷業者はほとんどなく、新聞広告で「飲食業専門の印刷会社」と広告を打つなど、業界の目を引いた。その後、ファミレスの台頭などにより飲食業は「外食産業」として市場が急成長、当社の業績も大きく向上した。しかし、バブル崩壊により企業の接待費が減少、これが飲食店を直撃した。経費削減の矢面に立たされたのが広告費やメニュー作成費の縮小である。

もともと、飲食業向け印刷は、印刷数が少ない割に手間がかかり採算を取るのが難しい上、パソコン・カラープリンターの普及によりメニューなどは自社で作成する店も増えたため、ジリ貧傾向が続いた。

■「脱刷宣言」の原点

そんな時、大学の教授から「最近は大学の講義では板書をしません。授業のたびに、ワープロで作ったレジメ原稿を人数分コピーして教室で配布します。でもこうした作業が結構な手間になるんですよ」という話を聞く。そこで、先生が作った原稿をまとめ、冊子にすることを提案する。校正作業などの工数を削減すれば、安価になり受講生も購入しやすいし、先生側の毎回毎回の手間もなくなる。この試みは非常に好評で、先生から「これはビジネスになるのでは」とも言われた。

教育関連の少部数出版事業は、当初試行錯誤を繰り返し、ビジネスとしての形が見えてきたのは3年ほどしてから。

試行錯誤の中、見えてきたことがある。それは、木全社長の「印刷業としての拠りどころ」を揺るがすものであった。

 「印刷業は刷り上った活字をルーペで見ながら、いかにきれいに仕上げるかというこだわりがベースにあります。しかし、大学関係の仕事を始めてみて感じたことは、『読む人はルーペレベルの活字のきれいさには全く関心がない。活字が少々粗かろうと、問題は中身。コンテンツが重要』ということでした。このことは、大変にショックでした。仕上がりのきれいさこそがこだわりだったのですが、『読めればいい』ということが世の中のニーズだったのですから」と木全社長。これが現在の当社のキャッチフレーズである「脱刷宣言」の原点である。

コンテンツを持っている先生から原稿をもらって、最低限の校正でほぼ原稿どおりに、後はプロが表紙を作り製本。ところが、プロの作家ではない人が作った原稿をそのまま出版するなどということは、出版業としてはタブーなやり方であった。「読める程度に仕上がっていればOK」という従来の印刷業ではタブーであったやり方とあわせると、印刷業・出版業両方のタブーを破ったところに、このビジネスモデルがあったといえる。

■決意の設備投資

ビジネスとして本格的に動き始めたのは、2000年のオンデマンド機の導入が契機である。

それまでは既存のオフセット印刷機でしのいできたが、印刷の初期費用がかかり、やはり少部数では採算が悪い。そこでオンデマンド機の導入に踏み切るのだが「設備投資は一か八かでした。大型プリンターのようなマシンですから、なじみもなく、社内中から反対、総スカン状態で誰一人理解者がいませんでした。私自身、学校のカリキュラムが始まる、4月と10月を中心とした仕事しか見込みがなかったのです。しかしこれは『5〜10部という少部数のニーズに応える』という教育のソリューションビジネスだ、という捉え方をして、決意しました。この時からです、印刷業であることを捨てたのは」。

 

■少部数テキスト出版「サンケイシステム」誕生

このころはすでに授業のテキストだけでなく、先生の研究成果の発表などにも利用されるなど、受注数の拡大。ビジネスの本格化に向け、ISBNコードを取得、出版社としての登録も行った。ISBNコードを取得したことにより、正式な出版物として先生の「実績」としてもカウントされることになり、一層評判が高まった。

こうした出版実績をホームページに掲載したところ、「掲載している本を分けてくれないか」という照会がたびたび寄せられるようになった。そこで、取次店経由でアマゾンでの販売を打診したところ、思いの外、OKが得られた。「少部数出版社としては初めてではないでしょうか」とのこと。

出版不況は教育界にも及び、一定の部数が売れる見込みがなければ、学術書といえども、出版はかなわない。しかし、当社であれば少部数から出版が可能で、必要があれば少部数の増刷も可能。また、一定部数買い取ってもらうなどの条件が見合えば、当社で見込み刷りし、在庫リスクを負うことで、価格を押さえ、かつアマゾンで販売し、多くの人に読んでもらえる機会を得ることができる。こうして現在の少部数テキスト出版「サンケイシステム」ができあがる。

■「印刷会社から印象会社へ」、強みのデザイン戦略

「脱刷宣言」そして「印刷会社から印象会社へ」という戦略の中で、2006年には当社デザイン部門を独立させ「オルクリエイション」を設立。

「印刷会社のデザイン部門というのは低く見られがちで『印刷するからデザイン代をタダにしてくれ』という交渉がまかり通る世界でした。しかし、当社は長年、外食産業の仕事を得意としており『当社がデザインすると良く売れる』と評判をいただくだけの実力を持っています。スーパーやコンビニ等で自社ブランドとして売り出す商品のデザインを手がけることもありますが、これら商品の売れ行きが好調となると、そのPB商品をOEMで作っているメーカーから『自社ブランド商品のデザインをやってくれないか』と仕事が広がり、現在では有名スーパー、コンビニ等のパッケージデザイン他、食品業界を中心 に日本国中に顧客を持つまでになっています」。

デザイン部門を独立名称化し、印刷の仕事の一部でなく、デザインを単独のサービスとして扱うことで、「デザインだけ頼みたい」という受注に対応することができるようになり、受注の機会も広がった。その実力はデザイン専門誌「パッケージデザイン年鑑」、「日本タイポグラフィ年鑑」など、 多数掲載され、デザイン業界の中でも評価されるようになった。

「今後も『脱刷宣言』で事業展開を続けます。小さな市場であっても、当社の身の丈に合うのであれば、充分な市場規模です。こうした市場を見つけて『市場の創造』に挑戦し続けたいと考えています」。
 

取材・文 有限会社アドバイザリーボード 武田宜久       

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