そんな時、大学の教授から「最近は大学の講義では板書をしません。授業のたびに、ワープロで作ったレジメ原稿を人数分コピーして教室で配布します。でもこうした作業が結構な手間になるんですよ」という話を聞く。そこで、先生が作った原稿をまとめ、冊子にすることを提案する。校正作業などの工数を削減すれば、安価になり受講生も購入しやすいし、先生側の毎回毎回の手間もなくなる。この試みは非常に好評で、先生から「これはビジネスになるのでは」とも言われた。 教育関連の少部数出版事業は、当初試行錯誤を繰り返し、ビジネスとしての形が見えてきたのは3年ほどしてから。
試行錯誤の中、見えてきたことがある。それは、木全社長の「印刷業としての拠りどころ」を揺るがすものであった。
「印刷業は刷り上った活字をルーペで見ながら、いかにきれいに仕上げるかというこだわりがベースにあります。しかし、大学関係の仕事を始めてみて感じたことは、『読む人はルーペレベルの活字のきれいさには全く関心がない。活字が少々粗かろうと、問題は中身。コンテンツが重要』ということでした。このことは、大変にショックでした。仕上がりのきれいさこそがこだわりだったのですが、『読めればいい』ということが世の中のニーズだったのですから」と木全社長。これが現在の当社のキャッチフレーズである「脱刷宣言」の原点である。
コンテンツを持っている先生から原稿をもらって、最低限の校正でほぼ原稿どおりに、後はプロが表紙を作り製本。ところが、プロの作家ではない人が作った原稿をそのまま出版するなどということは、出版業としてはタブーなやり方であった。「読める程度に仕上がっていればOK」という従来の印刷業ではタブーであったやり方とあわせると、印刷業・出版業両方のタブーを破ったところに、このビジネスモデルがあったといえる。
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