企業ルポ 翔 魅力ある愛知の中小企業
経営戦略レポート
海外支援
中小企業支援等レポート
技術の広場
あいち技術ナビ
あいち産業振興機構中小企業支援
海外駐在員便り
時代の目
特集(トピックス)
企業ルポ
翔 魅力ある愛知の中小企業
あいちの製品ProductsAppeal
経営革新に挑戦する中小企業成功事例集
創業企業に聞く
支援企業に聞く
お店訪問 繁盛の秘訣
科学技術は今
ホームページ奮闘記
スペース
スペース
経営相談Q&A
労務管理Q&A
資金調達Q&A
組織活性化Q&A
環境対策Q&A
省エネQ&A
経営革新Q&A
窓口相談Q&A
IT活用マニュアル
IT特集
どんどん使ってみようWindows Vista
IT管理者お助けマニュアル
ネットワークお助けマニュアル
セキュリティお助けマニュアル
お助けBOX
補助金助成金一覧
施策ガイド
「ネットあいち産業情報」更新をお知らせします!
  トップ > 企業ルポ 翔 魅力ある愛知の中小企業 > 葛利毛織工業 株式会社
ションヘル織機で磨きあげた製造技術で織りなす高級毛織物
葛谷 幸男 記事更新日.10.03.01
葛利毛織工業 株式会社 代表取締役
■問合せ先

葛利毛織工業 株式会社 
〒493-0004 一宮市木曽川町玉ノ井宮前1
TEL 0586-87-3323 Fax 0586-86-6289
印刷用ページ
■尾州毛織物産地とともに成長
日本有数の毛織物産地、尾州。
木曽三川のきれいな水と湿度が毛織物の本場イギリスと類似していることから、明治〜大正時期、この地に毛織物産業が根づいた。それ以降、国内トップシェアを続け、現在でも国内の60%超が生産されている。
尾州産地にあって、80年前から手織りの感覚に近いションヘル織機にこだわり続け、独特な手触りや感触を表現できる高級毛織物の生産技術を確立、高級テーラーや海外有名ブランドから熱い注目を集める企業が葛利毛織工業株式会社である。

葛利毛織工業鰍ヘ、日本がまさに明治維新を迎えようとする慶応年間に創業、尾州が日本有数の毛織物産地となりつつある時期でもあった。
法人化したのは昭和24年、現社長の葛谷幸男氏が後継者として入社したのが昭和37年である。
「私が後継者として会社に入った頃には、すでに大赤字で生産効率の良い事業への転換も機械の導入もままならず、しかたなく、会社の存続のため必死にこの事業分野を続けてきたというのが実感です。ただ、その頃すでに『高級毛織物を作る会社』という評価もいただいていましたので、ものづくりの志だけは守らなければと考えていました。一時、大量生産への転換を模索し、土地の確保までしたこともありましたが、一旦大量生産へと移行してしまうと、昔ながらの『生産効率は悪いが、いいものをつくる』ということに戻れないのではと思い直し、規模や生産効率だけを追い求めることは断念しました。そういう意味では『商売ベタ』なのかもしれません」と葛谷社長。

■80年間動き続けるションヘル織機が生み出す高級感
こうしたこだわりの高品質毛織物を作り続けるのが、80年間動き続けるションヘル織機である。

手織りの感覚に近く、繊維への負荷を極力少なくすることができるため、手触りや肌ざわりのよい高級感のある毛織物が生産できる。
当社のションヘル織機による織り技術の特徴は大きく分けて2つある。
1つは綜絖(そうこう)と呼ばれる縦糸の動きを操作する装置が24枚あり、複雑な模様を作り上げることができる点である。
織物は、縦糸に横糸を通すことで織り込まれる。糸を入れたシャトルを左右に通すことで効率良く横糸を通すことができるが、シャトルを通す際に、縦糸を上下に開くのに使われるのが綜絖である。最もシンプルな織り方では、縦糸を1本おきにそれぞれ2枚の綜絖にとりつけ、横糸を1本通す度に上下させることで織物を作る。その綜絖を24枚組合わせることで複雑な模様を作り上げることが可能になる。
「24枚の綜絖を持つ織機がある企業もまだあるとは思いますが、普段使っているのはせいぜい16枚までで、それを生産機として24枚全てを正常に作動させることができる企業は少ないのではないでしょうか。当社は24枚を動かし、織機が持つポテンシャルを最大限に活用できる数少ない企業だと思っています」と語るのは、次世代を担う葛谷聰専務である。
もう1つは、極細高級素材(super160’s)やカシミアなどの繊細な高級素材の特性を損なわないよう、丁寧に織ることができる点である。
「ションヘル織機はローテクなマシンで、使い込むほどに、そのポテンシャルを充分に発揮できるようになります。例えば、糸が通る部分は、使い込むと糸の接触面がなめらかになり、繊細な糸を掛けても糸を傷つけることなく織ることができるようになり ます。素材の良さを充分に活かしたものづくりが可能になってくるわけです。部品などを、すり減ったからといって安易に新しいものに取り替えると、部品の表面が粗く、繊細な糸を掛けると傷がついてしまうため、最初は丈夫な太い糸しかかけられなくなってしまいます。時間の経過とともに表面がなめらかになり、徐々に細い糸が掛けられるようになります。現在当社で扱っているような繊細なウール素材の糸を掛けられるようになるには数年かかり、その意味では、ションヘル織機にこだわりつづけたからこそ、繊細な糸でも扱える技術が確立できたともいえます」と葛谷専務。

■「仕立てると違いがわかる」と高級アパレルメーカーやテーラーから評価
ションヘル織機では1日10数メートル、高密度の織物の場合では8mほどしか織れない。
また、高級な織物になるほど糸が細いため、同じ長さの織物にするためには糸の本数が多くなり、縦糸を準備する時間や横糸で織り上げる時間はさらに長くなる。染色・撚糸工程から仕上げの工程まで3ヶ月かかる場合もある。
「生産性ということだけからすると見直すべきところは多いかもしれませんが、高品質な織物にこだわるが故に時間をかけている面があります。例えば、縦糸をかけてすぐ織り始めるのではなく、1日そのままにしてなじませてから織り始めた方が良い仕上がりになるのです」。
このように丁寧に織られた織物に対し、ユーザーである高級アパレルメーカーや高級テーラーからは高い評価を得ている。
最近では海外有名ブランドからも注目を集め、輸出も増え始めている。本場イギリスやイタリアなどのインポート生地メーカーがライバルで、ブランドイメージなどではまだ差があるものの、品質では決して負けていない。
「布の段階では他社の布との区別はあまりわからないが、仕立ててみるとふっくら感が出て、シルエットの良いものができるので葛利毛織の織物を使う」という評価も受ける。

■超極細高級繊維「ビキューナ」を丁寧に織り込み、プレミアジャケットに
伝統の製造技術を展開した、新たな挑戦も行っている。
アンデス4000mの高地に住むビキューナの毛は100分の1ミリと繊細で、「神の繊維」「繊維の宝石」とも呼ばれる高級素材である。独自の入手経路により確保したビキューナを22%も使った高級ジャケットを、テーラーへ提案。シリアルナンバー入りの12着限定で価格数十万円。高額にも関わらずまたたくまに完売となった。ビキューナの調達自体も困難であるが、仮に入手できたとしても、極めて繊細な繊維を丁寧に織り込む技術に自信がなければこうした提案はできない。
また、日本で自分のコンセプトを大切にして活動しているデザイナーさんとのコラボで、生地・デザイン・仕立てすべての工程を日本で行う「完全MADE  IN  JAPAN」製品も目指したいとも語る葛谷専務。
■ものづくりの現場が危ない。国を挙げて技術伝承を
しかし、そのものづくりの現場には大きな問題も顕在化しつつあると葛谷社長は警鐘をならす。
「当社のものづくりの現場でも高齢化が進み、技術の伝承が進んでいません。伝統的な繊維のものづくりを教える人がどんどん減っていっています。こうした現象はものづくりの現場あちこちで起こっていると聞きます。ここで手を打たないと、ものづくり技術が消滅しかねないところまで来てしまっているのです。我々ものづくりの現場を含め、例えば伝承に関わる費用負担等、『国力を守る』という観点から、国家戦略として国をあげて次世代への継承を進めることが必要ではないでしょうか」。 この言葉は重く受け止めねばならない。
取材・文 有限会社アドバイザリーボード 武田宜久       

あなたのご意見をお聞かせください
この記事を友人や同僚に紹介したいと思う
参考になった
参考にならなかった
 
Aichi Industry Promotion Organization
財団法人あいち産業振興機構