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国産バイオリンの歴史は鈴木バイオリンから始まった
鈴木 隆 記事更新日.10.06.01
鈴木バイオリン製造 株式会社  取締役社長
■問合せ先
鈴木バイオリン製造 株式会社 
〒454-0027 名古屋市中川区広川町1-1
TEL 052-351-6451 Fax 052-351-6453
http://www.suzukiviolin.co.jp
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バイオリン製造の本場といえば古くからヨーロッパ。日本に持ち込まれた1台のバイオリンをモデルに、外国人技術者の指導を受けず1からバイオリン製造に取り組み、国産初のバイオリンを作った男がいた。
鈴木バイオリン製造株式会社創業者の鈴木政吉氏である。現在では、国内唯一のバイオリン製造業として国内シェア30%を有し、今なお、職人の手により丁寧に作られ安心して使えるバイオリンとして高い評価を受け続けている。
 

■1887年国産バイオリン誕生、本場ヨーロッパでも高い評価
鈴木バイオリン製造鰍ヘ、創業者である鈴木政吉氏が、1887年(明治20年)にはじめて見たバイオリンに心惹かれ、自身三味線職人であった腕を活かし自作したことに始まる。
1890年に本格的な工場を建設、ついには1900年バイオリン製作の本場ヨーロッパ、パリ万博にて当社のバイオリンが銅賞を受賞、国際的な評価を確立し事業は飛躍を始める。  

1914年世界大戦が始まり、市場を独占していたドイツの生産がストップするや、世界各地からの注文が当社へ殺到する。当時、従業員は1000名を越え、毎日500本のバイオリンを始めとして53種の弦楽器の他、23種の弓、13種のケースなど多岐に渡る製品が量産されていた。
この間も研究を怠ることはなく、1926年にはドイツの製作大家を多数訪問し、製造技術に磨きをかけ続けていた。そこでは「ストラディバリが名器を生み出した産地『クレモナ』巨匠の遺作に匹敵する絶品」という評価を受け、あのアインシュタイン博士も絶賛した。
「このような音色は、200年前のイタリアの巨匠の手に成ったものでなければ、世界のどこにも求めることはできない。それを日本で、名器と同じ音色を出すものが作り出されるとは驚きである」と評価し、後日政吉への手紙の中で「自分が愛用しているバイオリンと引き比べをしたところ、その場にいた皆が貴社のバイオリンの方が優秀だと判断した」とその驚きを綴っている。  



■分業制により技術継承、日本の風土にあった製造技術を確立
現在は四代目社長の鈴木隆社長のもと、120程の全工程を職人が分業により技術力の安定をはかりながら製造している。
バイオリンは表板を松、裏板・側板・ネックを楓で作られる。当社では、ヨーロッパから厳選した松と楓を輸入、5年〜10年間自然乾燥させた後にバイオリンの材料として使用する。  

「当社は長い歴史と取引により、こうした良い材料を継続的に集めることができています。その材料を長い時間かけ日本で自然乾燥させることで、日本の気候になじませることができます。ヨーロッパ産のバイオリンでは、ヨーロッパの気候になじんだ状態で製作されますので、それを日本で使用すると、温度や湿度の違いから本体に歪みがでてきたり、弦の張り具合を調整する糸巻き部分の動きが悪くなったり、調子の維持に手間がかかりがちになります。その点、当社のバイオリンは、日本でなじませ、日本の風土特有の調整グセがわかった職人がつくるのですから『手間のかからないバイオリン』という評価をいただけるのです」と鈴木社長。
こうした吟味した材料を使い、材料の持つ特性を感じながら職人がコンマ何ミリという精度で表板・裏板を削りだす。音量・音質を決定づける非常に重要な工程である。職人の手によるため1日の表板・裏板製作数は5セットが限界。
「この工程で板厚を調整しながら削り出すのも難しいのですが、特に難しいのは表板の『f字孔』の削り出しとネックの頭の『渦巻』形状の削り出しです。ここを見ると、そのバイオリンを作った職人のレベルが分かるほどです。当社でも40年ぐらいのベテラン職人が担当しています」。  


その後の塗装工程では、下地ニスを塗った後、時間をかけ何度も色ニス塗り〜乾燥という工程を繰り返し、仕上げの透明ニスを塗るまで高級で品のあるボディを作り上げる。長いもので60日もかかる工程である。  

ここまで仕上げられたバイオリンは実は楽器としては不十分で、この状態で弦を張っても楽器本来の音は出ない。弦の振動を表板に、さらに裏板へと伝え音を響かせることで楽器本来の音となる。音を響かせるためのパーツを取り付けるのが仕上げ工程である。
弦の振動を効果的に表板に伝えるのが「駒」と呼ばれるパーツ、表板の振動を裏板にまで伝え楽器全体で音を響かせるのが「魂柱(こんちゅう)」と呼ばれるパーツである。これらを取り付けることで「木工製品」から「楽器」へと変わり、楽器としての命が吹き込まれる。
駒はバイオリンの弦を所定の位置で支え、弦の振動を表板に伝えるパーツである。駒の足がアーチ状の表板の面形状とピッタリあっていないと、駒が安定しないばかりか、効率的に表板に音を伝えることができなくなるため、この調整は仕上げの重要な工程となる。
魂柱は表板と裏板を直接つなげる棒で両者をつなぐ唯一の部品であり、魂柱により音が裏板まで振動し、楽器全体に音が響くようになる。  


このように何人もの職人の手を経て作られるバイオリンは長いもので半年〜1年かけてじっくりと作られていくのである。  

■伝えられる職人技術
こうした職人の技術は着実に世代を超えて伝えられている。
現在、職人は20人ほど。職人の世界といえば高齢化した現場を想像しがちであるが、現場に入り驚く。半数が若手である。
「当社は求人を出したことがほとんどありません。国内で手作りで楽器を作っている企業も少ないこともありますが、楽器作りに興味を持っている方も意外と多いように思います。ただ、1人前になるまでは10年ほどかかるため、本当に好きな人でなければ続きません。50年を超えるベテランもおりますので、技術の基本的なことは教えられますが、『感触・感性』の部分が大きく、当然職人の技量により質や作業時間の長さも差が出てきてしまいます。最後は、先輩の仕事を見て自らが工夫し覚えていくしかないのです」。  

■今までと変わらぬ品質と信頼のために
「今後は、輸出比率を高めて、中国などの新興国向けに生産拡大を狙おう、と思ったこともありました。実際、過去には相当規模の会社になった時期もありましたが、しっかりとバイオリン作りをしていこうとすれば、相応の適正な規模というのもあるのではないか、と考えるようになりました。当社のユーザーの多くはこれからバイオリンを習おうとする方です。そういう方々から今までのように『どのバイオリンを買っていいか分からないけれど、スズキなら安心』と今後もずっと言っていただけるよう、手作りで一つ一つ丁寧にバイオリン作りしていこうとすると、どうしても職人の経験や勘が重要になります。大きな規模の会社になるよりも、自分たちの目の届く範囲で、自信を持ったバイオリンを提供することが自分たちの使命ではないか、と考えています。今後ともこの方針が大きく変わることはないでしょう」。
ものづくりの心はブランドへの信頼へとなって受け継がれていく。  

取材・文 有限会社アドバイザリーボード 武田宜久       

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