企業ルポ 翔 魅力ある愛知の中小企業
経営戦略レポート
海外支援
中小企業支援等レポート
技術の広場
あいち技術ナビ
あいち産業振興機構中小企業支援
海外駐在員便り
時代の目
特集(トピックス)
企業ルポ
翔 魅力ある愛知の中小企業
あいちの製品ProductsAppeal
経営革新に挑戦する中小企業成功事例集
創業企業に聞く
支援企業に聞く
お店訪問 繁盛の秘訣
科学技術は今
ホームページ奮闘記
スペース
スペース
経営相談Q&A
労務管理Q&A
資金調達Q&A
組織活性化Q&A
環境対策Q&A
省エネQ&A
経営革新Q&A
窓口相談Q&A
IT活用マニュアル
IT特集
どんどん使ってみようWindows Vista
IT管理者お助けマニュアル
ネットワークお助けマニュアル
セキュリティお助けマニュアル
お助けBOX
補助金助成金一覧
施策ガイド
「ネットあいち産業情報」更新をお知らせします!
  トップ > 企業ルポ 翔 魅力ある愛知の中小企業 > アルプススチール株式会社
繁閑差が見つけた
  スポーツジム向けロッカー市場でシェア60%

代表取締役社長 長谷川 茂

記事更新日.2019.06

アルプススチール株式会社

■問い合せ先
アルプススチール株式会社
〒454-0804 愛知県名古屋市中川区月島町14番14号

印刷用ページ

 オフィスで使われる書棚やロッカー。そのほとんどがスチール製である。戦後間もなくからスチール家具を生産、スチール収納家具の10%、スポーツジム向けロッカーで実に60%のシェアを有するのが創業80年を超えるスチール製オフィス家具メーカー、アルプススチール株式会社である。JIS規格表示工場として厳しい品質管理のもと、少品種大量生産ラインと多品種少量ラインとを併設して多様なニーズに応える。リーマンショック時でさえも1人の解雇をすることなく雇用を支え、女性の活用や障害者の雇用にも積極的など従業員を大切にする取り組みは国や自治体から高い評価を受けている。






ブレス技術を活かす仕事を

 アルプススチール鰍フ創業は昭和13年10月。現会長利川烈氏の両親が大阪で金属プレス工場を創業、旧陸軍や空軍の指定工場として戦禍にあいつつも疎開などをしながら事業を続けた。戦後は、紡織機部品の製造へと移行、折しも朝鮮戦争による特需を受けたガチャマン景気で受注は昭和30年頃まで続くが、停戦後は次第に減少してしまう。
 ここで目をつけたのが日本経済の復興とともに増えていた鉄筋コンクリート構造のビル建設である。こうしたオフィスでは、それまで主流であった木製のオフィス家具類からスチール製へと転換しつつあった。「これなら自分たちの原点であるプレス業の技術が活きる」と可能性を感じ、昭和31年にロッカーや書庫などのスチール家具の製造販売を開始する。
 昭和35年頃から始まる高度成長期からバブル景気の時期にかけ、業容は拡大していった。昭和60年には当時の通商産業省(現経済産業省)で「ニューオフィス推進(明るく使いやすい効率的オフィスへの転換)」の後押しもあり一気に需要が増えた。
 その一方で、業界の特性ともいえる非常に大きな課題を抱えていた。
 スチール家具のほとんどの需要先は法人や学校。その納期は新年度が始まる3月下旬に集中する。年明けから大きな繁忙期が3月まで続くが、それ以降は閑散期となる。景気が少しでも悪くなると閑散期には受注が大きく減少するなど、その繁閑の差の大きさに長年悩まされていた。




リーマンショックをきっかけにビジネスを見直し

 平成20年、リーマンショックにより受注が40%ダウン。閑散期を迎えると仕事はほとんどなくなり休業を余儀なくされた。従来のビジネス形態を踏襲したままでは先細りになる可能性もあることから思い切った経営改革に乗り出す。
 まず着手したのが顧客開拓。落ち込んだ売上の回復を図り、さらに年間の繁閑ギャップの改善をしなければならない。
 当社のベースとなるビジネスモデルは、スチール家具の商品カタログを作成し、販売代理店を通じ法人や学校へ配布、その代理店経由で受注する「カタログ販売」である。
 「競合の大手スチール家具メーカーは協力会社で製造しているところも多いのですが、当社は自社製造のため自社リスクで在庫を持つことができます。ですから即日出荷などの短納期や顧客の都合に合わせた小回りを利かせられることが大きな強みであり、その利点を活かして地元の愛知県を中心に手堅くビジネスを展開していました。しかし売上の大幅ダウンを受け、このまま守りを固めるか、あるいは首都圏に討って出て営業で拡大を図るかの判断に迫られることになりました。東京支店長とミーティングを重ねた結果、オフィス数も多いことから首都圏には一定量の需要があると判断し、新規開拓を最重点に営業活動を開始しました。その結果、口座数を2倍にすることができ、今も売上の30〜40%はリーマンショック以降のお客様に支えられています」と振り返る現社長の長谷川茂氏。


業界の悩み「繁閑ギャップ」を減らし経営を安定せよ

 売上減を従来モデルの延長でカバーしたとしても、繁閑ギャップは改善しない。
 ある時、東日本大震災を境に増えてきたある動向に目を留めた。夏に向けレンタル・リース業界での需要が増えていた。調べてみると、学校関係にレンタル・リースをするスチール家具需要。
 震災以降、学校の耐震診断・改修が強く求められ、夏休みに校舎の耐震工事や建て替えをするケースが急増、仮教室のプレハブに設置するレンタル・リース業界向けのロッカーの需要であった。春休みは新年度で忙しく、冬休みは受験や入試試験準備などで忙しいため、長期間の休暇でじっくり時間をかけて進められる夏休みがこうした時期に充てられていた。即納が強く求められるレンタル・リース業界向けでは、当社のように在庫を持っていることは大きなアドバンテージとなった。
 こうして夏にはレンタル・リース向け市場を開拓できたが、秋にかけての受注にはなお頭を悩ませていた。

 「ある時、商業施設のディベロッパー関係者から『商業施設のオープンは秋が一番多い』と聞いたのです。詳しく聞くと、その中でもスチールロッカーに強い関心をお持ちなのは、施設に入居するスポーツジムとのことでした。調べてみるとスポーツジムのHPや案内パンフレットには必ずと言っていいほど『施設案内』としてマシンと並んでロッカールームの写真が並んでいます。運営者はロッカールームを大きな差別化要因の一つとして考え、デザイナーによる独自のデザイン・色使いのロッカーにこだわりをお持ちなのだとわかりました。そのロッカーは当然オーダーメード品となり、そのこだわりに応えるには、設計のやり直しや特殊部品の取り寄せや特殊色塗装なども多く、板金・塗装の一貫製造ラインを持ち小回りの利く当社の強みが最も活きるはずです。自社ラインを持たずOEM生産に頼る会社にとっては、手間ひまがかかりあまり力を入れていないだろうと想像できましたので、強みが活きる当社は積極的に展開を図りました。その結果、一気にシェアを伸ばすことができ、今ではオープンするスポーツ事務数と自社へのオーダー数から推計するとシェアは60%にのぼります」。


 こうして冬〜春は新年度需要、夏は学校関係、秋は商業施設・スポーツジムと年間を通じた繁閑の差を小さくすることに成功、経営を安定化させることに成功した。
 今も、新たな販路の開拓には積極的で、当社が得意とする「板金+塗装」の切り口で新たなビジネスチャンスを探る。東京メトロなどの自動販売機に併設されるダストボックスや宅配ロッカーなどの受注も順調だ。


採用難がなく、離職率は2%。人が働き続けられる会社づくりを

 昭和の時代から今に至るまで男女比は7:3。
 しかし今から25年前の平成5年の平均年齢は51.5歳。バブル経済期には全く採用ができず高齢化が進んでいた。若手を入れて育てていかなければ10年もしないうちに生産もままならない状態となりかねない。バブル経済崩壊後の景気後退期に入っていたが、地元の高校を中心に若手の採用を始める。好景気時に採用ができなかった痛手を教訓に、学校とのつながりを大切にし、リーマンショック時も採用を続けた。
 「こんな時期に採用するなんて大丈夫か?と心配してくださる企業もありました。しかしいい時だけでなく苦しい時にも関係を大切にすることで信頼関係も生まれてきます。毎年同じ学校から採用することで『会社と学校』というつながりだけでなく、社内では『学校の先輩・後輩』という縦のつながりも生まれます。性格的に馴染みにくい人が入社することになれば、先輩の多くいる部署へ配属することで、そのつながりから馴染んでいくというメリットもあります。こうした事もあってか離職率は2%程度で、今は採用難と言われていますが、今年も8人の方が入社してくださっています。平均年齢は35歳になり、リーマンショック時に1人も解雇をしなかったこともあり、18歳〜70歳までの幅広くバランスの良い年齢構成となっています」。


 2%と離職率が低い理由には「人を大切にし、安心して働ける職場づくり」がある。
 産休・育休の制度は取得率100%、復帰後も小学校3年生まで短時間勤務が可能で家庭環境により6時間勤務の人もいれば7時間勤務の人もいる。
 「個々の家庭の事情には可能な限り対応したいと考えています。『子供が不登校気味で学校に出かけたのを見届けたいので1時間遅れの出勤ができないか』という希望にも応えたことがあります。また、障害者の方も13名がフルタイムで働いています。障害者と共に働くようになり、職場の雰囲気が優しくなったようにも感じます」。
 こうした取り組みが評価され、平成20年に「愛知ファミリー・フレンドリー企業」に表彰されたのを皮切りに、厚生労働大臣認定の「子育てサポート企業『くるみん』」、愛知県の「あいち女性輝きカンパニー」、名古屋市の「女性の活躍推進認定企業」「ワーク・ライフ・バランス推進企業」「子育て支援企業」などの認証・認定を受けた。近年では経済産業省から「地域未来牽引企業」「健康経営優良法人」、働き方改革推進企業である「AICHI WISH」の第一号認定、「障害者雇用優良企業等」の愛知県知事表彰を受けるなど取り組みは進化している。


 「いろいろな取組の中でこうした表彰をされるのが目的ではなく、賞をいただいた状態をどうやって維持発展させていくのかという仕組みづくりが非常に大切で、それが会社の活性化に繋がっています。今後も従業員が安心して力を発揮できる職場づくりを続けることで、活気ある企業でありつづけたいと考えています」と今後を語る長谷川社長である。


取材・文 有限会社アドバイザリーボード 武田宜久       
あなたのご意見をお聞かせください
この記事を友人や同僚に紹介したいと思う
参考になった
参考にならなかった
 
Aichi Industry Promotion Organization
財団法人あいち産業振興機構