なるほど、なるほど、作業マニュアルに沿った外観検査をしていれば、防げた不良品を出してしまった部下に対しての話ですね。
その外観検査を(おそらく)怠っていたことを自覚させようと話をし始めたのに、開き直られてしまったと。更には、部下の方から逆に、上司としてなかなか支援できないことまで要求をされてしまったと。
本来すべき作業途中での外観検査を間違いなく実施するにはどうしたらいいのかという話からそれてしまい、その問題解決が全くできなかったということですね。
いただいた文章からすると、問題は単純ではなく、上司としてのコミュニケーションの中に様々な問題が内包されているとは思います。
しかし、今回は「話がそれてしまって、自分のしたい話ができない」という問題に対しての解決策をお伝えしたいと思います。
この問題の解決策は、ズバリ「部下とのコミュニケーションの目的・ゴールを意識して会話に臨み、話をする」です。
こういってしまうと、非常に単純に聞こえるかもしれません。しかし、部下とのコミュニケーションに限らず、会議においても、この“目的・ゴール”を意識せずに取っているコミュニケーションが組織内では非常に多いと感じています。
事例でいえば、「どうしたら作業途中での外観チェックを作業マニュアルに沿って正確に行ってもらえるようにできるか、その答えを部下と一緒に考えて、部下の実行を促すこと」、これが今回の部下とのコミュニケーションの目的です。
「部下が納得して、もう二度と外観検査を怠っての不良品は出さないぞという気持ちになって、作業ラインへ戻っていく」というのがゴールのイメージでしょう。
その目的やゴールを意識するためには、部下と話をする前に、
「今から部下と『なぜ、不良品を見逃してしまったのか?』
という原因について話をしよう」とか
「今から部下と『どうしたら、加工中に不良品を見逃さないようにできるか?』
という対策について話し合おう」というように、
疑問形で部下とのコミュニケーションのテーマを頭の中で意識しておくと明確にしやすくなります。
部下と話をし始めるときに、そのテーマを伝えて、お互いに共有してからスタートするとよいでしょう。
そして、大切なのは、話の途中でもこのテーマに立ち返り、話がそれそうになった時には、軌道修正をこまめに行っていくことです。
<改善例>
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上司:
| (頭の中で、「今からの部下との話は、『どうしたら、不良品を見逃さないようにできるか?』、対策をしっかりと話あうため」と唱えながら・・・)○○君、今ちょっといいか? |
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部下:
| はい、いいですよ。例の不良品のことですか?
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上司:
| そう、例の不良品のこと。で、ちょっと時間を取って、『どうしたら、今後、不良品を見逃さないようにできるか?』について話をしたいんだ。いいかな? |
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部下:
| はい。今回の不良については本当に申し訳なく思っていますが、いちおう、目視での確認作業は、決められた時間毎にやっていたつもりです。でも、特に何も気づきませんでした。 |
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上司:
| なるほど、○○君としては、ちゃんと時間毎には見ていたつもりだけど、特に気付かなかったということなんだね。 |
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部下:
| はい、本当に気づけませんでした。私の見方が悪かったのかもしれません。ただ、正直なところ、作業中は他の段取りとかやるべきことが多すぎて、外観のチェックまでできないこともあります。 |
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上司: | 自分で自分のチェックの仕方が悪かったかもしれないとは思っているけど、やるべきことがあまりにも多すぎて、なかなかしっかりとチェックすることができないってこと? |
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上司:
| 本当に○○君も忙しいなか、よくやってくれていると思うよ。で、別に○○君の責任を追及したくて今話をしているわけじゃないんだ。恐らく、○○君と全く同じ環境下で不良品の確認を、○○君以外の人がやって
も、同じように不良品を見逃してしまうと思うんだよね。だから、「なぜ、確認できないのか?なぜ、見逃してしまったのか?」ということを考えるよりも、そういう忙しい中でも、不良品を出さないようにチェックできる仕組みを一緒に考えたいんだよ。どうしたら、忙しい中でも外観チェックができるだろうか?もしくは、不良品を見逃さないようにできるだろうか? |
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部下:
| もう少し余裕を持って仕事ができればいいとは思いますが? |
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上司: | 仕事に余裕ね(といって、ホワイトボードかもしくは部下との間に置かれたA3用紙に「仕事の余裕」と書き込む。※このあたりの書くことの大切さについては前回号を参照ください)。他にはどう? |
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部下:
| 他ですか。う〜ん、特には思いつきませんが・・・。 |
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上司: | そう、たとえば仕事の仕方、チェックの仕方の面で、何かいい方法ないかな? |
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部下:
| う〜ん、そう言われても、なかなか思いつきません・・・。 |
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上司: | じゃあ、私から一つ提案してもいいかな?確認を順番制にするというのはどうだろうか?一日の確認をする時間は決まっているんで、それぞれの時間をだれが確認するのか、朝礼の時に確認をしておくってのはどうだろう?それと、正しい外観のものを確認箇所に掲示しておくのも一つの手かもしれないね。どう思う? |
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上司: | ありがとう。じゃあ、これを実践するために、私の方からみんなにも声をかけて、順番制にすることを提案してみるよ。 |
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部下:
| ありがとうございます。ところで、現場では日々機械が故障したりして、我々はその処置をしながら、そのうえで生産もしています。前から、役割分担を決めて、保全・修理担当を明確にしてほしいとお願いをしていますが、どうなっているのですか? |
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上司: | 人材が入れれば、コストがかかることは分かるよね。○○君のつらい気持ちも分かるが、我々としては、コストをかけずに知恵を出すことを考えなければいけないと思っている。お金をかければ、誰だってできる。人間として知恵を出して問題を解決していく方法を考えようじゃないか。私も協力するから。いいね。(強い口調で) |
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部下:
| は、はい。分かりました。まずは先ほどの策で対応していきたいと思います。ありがとうございました。 |
いかがでしょうか?こんなうまくいは行かないだろうと思われるかもしれません。しかし、部下とのコミュニケーションをとる際に、目的やゴールを意識することは非常に大切なことであります。またコミュニケーションを質の高いものにする上で有効な手法です。参考になればうれしいです。
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