1.はじめに　

　我々の身の回りにある金属製品は、用途別に要求される性能が異なり、それらが近年高度化・複雑化する中で、各々に安心・安全、信頼性及び耐久性の確保が求められています。そのため、製品を少しでも長く購入時の状態を維持できるように表面処理や塗装による製品の高度化がなされてきました。耐久性を確保するための性能のうち、最も重要とされるものは「耐食性」です。この評価には多くの時間を要するため、その時間を短縮し迅速に試験する方法が用いられています。
　耐食性を迅速に評価する試験は腐食促進試験と言われ、自然環境にあるさまざまな腐食因子を用いて、実際の腐食状態を再現・促進しようとするものです。その中で最もよく用いられている方法に「塩水」を用いた中性塩水噴霧試験があります。腐食促進試験としては、このほかにガス腐食試験等があります。
　ここでは、中性塩水噴霧試験について、試験方法や評価方法について紹介します。

2.中性塩水噴霧試験とは

　最も代表的な腐食促進試験として世界的に長い間用いられてきたのが、中性塩水噴霧試験、CASS（キャス）試験、複合サイクル試験で、ISO規格をはじめ世界各国の規格に制定されています。
　その中で中性塩水噴霧試験は、防錆効果の比較や品質管理の用途において、広く用いられています。金属及び表面処理の耐食性を評価する最も基本的な腐食試験です。日本産業規格JIS Z 2371で定められた条件（表1）において、試験槽内で塩水を霧状に噴霧した雰囲気環境の下で試験片を一定の時間さらすことで、腐食を促進させて耐食性（耐腐食性、防錆性）の度合いを評価する試験です。図2は、中性塩水噴霧試験実施中に腐食が進行して赤さびが発生した試験片です。
　試験実施後の試験片は、目視やレイティングナンバ法（※1)また、クロスカット法（※2）による外観観察の評価、試験前後の質量を計ることで腐食減量を算出して腐食評価を行います。
　ただし、実際の自然環境での暴露には複合的な要因が加わるため、腐食促進試験における試験時間が実際の自然環境下で何年分に相当するかを、単純には求められないのが難しい点です。

（１）レイティングナンバ法

　腐食促進試験後の試験片には、ピット状の腐食や膨れ、めっき皮膜の割れなどが発生しています。試験片の腐食面積と有効面積との割合によってレイティングナンバの標準図表で腐食の程度を示す評点が10（腐食なし）〜 0（全面腐食）に区分されており、その試験片における腐食をレイティングナンバ標準図表と目視による照合で評価します。

（２）クロスカット法

　塗装試験片において塗膜の劣化を促進させるため、あらかじめ塗膜を貫いて素地まで達するまで対角状に交差する切り込み傷を付けます。腐食促進試験後に、クロスカット部の腐食幅、膨れの大きさ、剥がれ等の劣化状況を見ることで、耐腐食性を評価します。（図3）

５．おわりに

　本報では、腐食促進試験として広く用いられる中性塩水噴霧試験について紹介しました。
　あいち産業科学技術総合センター産業技術センターでは、今回紹介した中性塩水噴霧試験だけでなく、塩水噴霧、乾燥、湿潤の各条件を設定して、繰り返し行うことで自然環境を模した複合サイクル試験や、中性塩水噴霧試験よりも腐食速度を高めるため、塩水溶液に塩化銅を加え、酢酸を添加した酸性溶液を噴霧するCASS（キャス）試験などの腐食促進試験も行っております。
　ご興味のある方は、一度お問合せいただき、新商品開発、製品の品質管理等にご活用ください。