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米国ワシントン州における航空宇宙産業の動向
記事更新日.08.10.01
杉本安信
愛知県サンフランシスコ産業情報センター 駐在員
印刷用ページ
今から約20年前の米国経済誌ニューヨーク・タイムズに「A Japanese Strategy for Boeing」(“日本のボーイングへの戦略”)という記事があり、その中で「今、ボーイングは日本の航空機部品メーカーとのパートナーシップに傾斜しつつある。日本企業は航空機製造のすべてを学びつつあり、近い将来、日本は十分な技術を身に付け、これまで以上に重要な役割を果たすことになるであろう」と書かれています。20年の歳月を経て、現在開発・製造が進められているボーイング社の787型機では、日本の航空機部品メーカーによる機体構造部分の分担比率が約35%に達しており、記事の予測が数値上、現実のものとなったと言えます。

中部地域は多くの航空宇宙関連部品工場を有し、日本の航空宇宙関連部品の半分が製造されるなど、まさに日本を代表する航空宇宙産業の中心地となっていますが、このほど愛知県サンフランシスコ産業情報センターにおいても、米国航空宇宙産業の動向調査の一環として、世界有数の航空宇宙産業の集積を有するワシントン州の状況について訪問調査を行いましたのでご紹介します。

■米国航空宇宙産業の地域分布
米国の航空宇宙産業には、全米で約63万7000人(2007年度)が従事していますが、2007年度の総売上高は約1,988億ドルにのぼり、そのうち輸出高は925億ドル、貿易黒字は560億ドルに達するなど、アメリカ経済の基幹産業となっています。(米国航空宇宙産業協会調べ)

また、それらを分野別売上高でみると、航空機(民生・軍事)が1,082億ドル(54.4%)を占め、宇宙計画が392億ドル(19.7%)、その他が514億ドル(25.8%)となっています。

こうした航空宇宙産業は、米国各地でクラスター状に形成されており、各地域の主要産業となっています。そうした産業集積の米国内での分布を2005年度の米国国勢調査局の資料(2005 County Business Patterns)から見ると、航空宇宙関連企業(全1,593社)の州別の立地は、
  1位 カリフォルニア州  280社
  2位 テキサス州          131社
  3位 ワシントン州        109社
の順であり、今回訪問調査を行ったワシントン州は第3位となっています(図1)。
                                                                                                               (図をクリックすると拡大します)

■国際競争の真ん中に位置するワシントン州の航空宇宙産業
『ワシントン州における航空宇宙産業の歴史は、航空機の歴史とほぼ同じである。ライト兄弟の初飛行から13年後の1916年、ウィリアム・ボーイング氏がワシントン州に航空機製造会社を設立したのが始まりである』(January 2006, Aerospace Future Alliance of Washington調査報告書より引用)。ワシントン州シアトルで16人の従業員からスタートしたといわれるこの会社が、今や世界最大の航空宇宙企業であるボーイング社(2001年にシカゴに本社を移転)でした。

ワシントン州には、現在ボーイング社の巨大な製造工場が立地し、その周辺に警報システムや通信機器、表示計器、電源システム、客室インテリアなどをはじめ、航空宇宙関連の様々な部品供給企業、システムサービス企業が集積しています。ワシントン州政府によれば、州内では11万人がこの産業に従事しており、年間生産額は360億ドルにのぼるとのことであり、航空機製造の世界的な拠点地域となっています。  

今や航空機の製造は国際連携により行われる時代と言われていますが、ワシントン州内の企業には、ボーイング社のみならず、エアバス社、エンブラエル社、ボンバルディア社など米国以外の複数の航空機メーカーに部品を供給しているところも多くなっています。現在、大型航空機の製造はボーイング社(米国)とエアバス社(フランス)の2社が激しい競争を繰り広げていますが、航空機部品の製造・取引が国際間で多角的に行われており、ワシントン州の航空宇宙産業はこの激しい競争の真っ只中にあり、かつ国際的な注目を浴びている状況にあります。

そうした国際的な競争下にあって、同州においても、この競争を生き抜き、地域全体としてさらなる発展を遂げていくために、エアロスペース・フューチャー・アライアンス・オブ・ワシントン(AFA: Aerospace Future Alliance of Washington)とパシフィック・ノースウェスト・エアロスペース・アライアンス(PNAA: Pacific Northwest Aerospace Alliance)という2つの組織が活発に活動しています。

AFAは、ワシントン州内の航空宇宙関連企業で組織する業界団体(所在地:ワシントン州シアトル)で、2006年に設立されました。会員数は約200社(2008年6月末時点)にのぼり、地元の航空宇宙産業の発展に必要な施策のとりまとめや政府への働きかけなどを行っています。一方、PNNAは、米国北西地域(ワシントン州、オレゴン州)における航空宇宙産業の振興を目的に2002年に設立された非営利組織(事務局:ワシントン州シアトル)で、2008年7月末現在、60の会員を抱え、航空宇宙産業の最新情報を会員向けに発信しているほか、セミナーの開催や人的交流の機会を提供しています。世界有数の航空宇宙産業の集積をもつワシントン州において、これらの組織が地域全体の牽引役として重要な役割を果たしていると言われています。

また、同州内には、航空宇宙分野における教育・訓練や高度技術研究を行う組織・施設として、ワシントン州立大学航空宇宙工学部や米国連邦航空局(FAA)先端材料航空センター、エベレット・エドモンドコミュニティカレッジ材料・製法開発センター、コミュニティカレッジセンター(製造関係)などがあり、人材育成や技術開発などの面で大きな役割を果たしています。

■ワシントン州政府の取り組み
こうした中で、ワシントン州政府においても、航空宇宙産業を州の基幹産業と位置付け、その集積強化に向けて、商業用航空機またはその構成部品の製造・販売にかかる税の軽減や高効率航空機の製造に使用される新たな施設の建設に対する税控除など、各種税制面での優遇措置を行っているほか、州施設での教育・訓練機会の提供、専門職員の配置など、様々な振興策を講じています。

とりわけ、ワシントン州政府では、古くから専門職員を配置してきており、現在、ワシントン州政府において航空宇宙産業の担当を務めているウィリアム・キング氏は、実に35年にわたり同州の航空宇宙産業に関わってきています。同氏は現在、地元企業への最新情報の提供や様々な相談への対応、国内外の航空宇宙展示会等への地元企業の共同参加の企画などを行っているとのことであり、同氏との面談の中では、『私の役割は産業振興の上での触媒の役割。海外の主要な航空宇宙展への地元企業の参加にも州政府として支援を行っており、幅広く対応している』との説明がありました。同州政府では海外での航空ショーにおいて幹部職員がトップセールスを行うなど、州をあげてこの基幹産業の振興に取り組んでいるようです。

■航空機製造で結びつくワシントン州と愛知県
冒頭で述べたように、現在開発・製造が進められているボーイング787型機の機体構造部分の約35%を日本企業が生産分担しており、その多くが愛知県内で生産されています。主翼、中央翼、前部胴体などはそれぞれの工場から中部国際空港(セントレア)へ運ばれ、ボーイング社の輸送用貨物機・ドリームリフターで直接、あるいは他地域での組立てを経てワシントン州シアトル郊外に運ばれています。

今回のワシントン州訪問調査の際も、アメリカンフットボール場75個の規模をもつボーイング社のエバレット工場(シアトル郊外)を訪れましたが、敷地隣接の滑走路の脇にドリームリフターが駐機していたことや、同工場の見学ツアーで愛知発の航空機部品が組立てられている様子を見ることができ、大型航空機生産の国際分業体制の状況を感じ取ることができました。また、この大型航空機を通じてワシントン州とつながっていることを思うと、アメリカ大リーグ(MLB)のシアトル・マリナーズで愛知県出身のイチロー選手がプレーをしていることや、ワシントン州と愛知県が製造業の大規模集積地となっているという類似性もあり、個人的にですが、ワシントン州への親しみを感じました。前述のウィリアム・キング氏からも『地方同士の相互協力という点で、愛知からのミッションや企業訪問などを歓迎する』とのコメントをもらっており、今後、双方向の交流が生まれることを期待したいと思います。

今、愛知県では、地元企業によるボーイング787型機への製造参加やYS‐11以来となる国産旅客機MRJの県内での開発の話題も相まって、航空宇宙産業への関心が高まっています。今年11月には第1回となる「航空宇宙産業技術展2008」(日刊工業新聞社主催)が「航空宇宙シンポジウム2008」(愛知県などが主催)とともに名古屋市内で開催される予定ですが、愛知県サンフランシスコ産業情報センターにおいても、愛知の航空宇宙産業に北米からも高い関心が集まるよう積極的にPRを行うとともに、今後もワシントン州をはじめ、米国各地の航空宇宙産業の動向について注視していきたいと思います。
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