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  トップ > 経営戦略レポート 特集 > 同族会社における事業継承の抱える問題点
同族会社における事業継承の抱える問題点
桂 一朗 記事更新日.06.07.11
 税理士/CFP@認定者
 1級ファイナンシャル・プランニング技能士(資産相談業務)  
■PROFILE
名古屋市緑区において、起業相談から決算・確定申告、事業継承まで長期的視野で事業者の相談に乗り、安心できる経営環境を整える。また、土地・株式等の譲渡所得から相続・贈与申告など、ファイナンシャルプランナーとしての視点も生かして仕事に取り組む。単に金銭面だけでなく、相談者の気持ちの満足感を得られるように心がけている。
2002年4月現代ビジネス法辞典/嵯峨野書院 分担執筆

連絡先
桂会計事務所
名古屋市緑区鳴海町字薬師山126−1
TEL  052-891-4833     FAX 052-891-4835
e-mail:info@kkj-net.com
http://kkj-net.com/
 
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■事業継承とは何か?
事業継承というと、何を思い浮かべるでしょうか。やはり、社長の代替わりが行われる、つまり、それまで経営を担ってきた社長が、高齢や病気のために、次の社長へバトンタッチする、もちろん、この次の社長が、自分の子供をはじめとする親族であるばかりではなく、自社の従業員、外部の者(例えば金融機関から人材を派遣してもらう)、または会社そのものを他の会社へ売却する(M&A)など、事業継承の態様はさまざまです。

 さて、生まれながらにして、社長である者などいません。事業を行うために、自分自身で会社を興した者(創業者)は、多くの場合、そのまま社長になります。しかし、その社長の後継者である、例えば自社の従業員は、当然、社長になれるわけではありません。

では、どのようにすれば、社長になれるのでしょう。創業者が、「はい、君が次の社長です」と言ってみたところで始まらないのです。
■会社における支配力とは
社長になるためには、一定の法律上の手続きが必要です。ここから先は、法律の話なので、社長などという、一般的な言い方ではなく、代表取締役ということにします。代表取締役は、取締役会がある場合、取締役の互選によりその過半数の賛成を得られた者が就任します。(18年5月1日施行の会社法では、株式会社であっても、取締役会があるとは限らなくなりましたが、ここでは以前からある株式会社を想定しています)つまり、代表取締役になるためには、その前に、取締役に就任しているということです。その上で、取締役の過半数から支持を得る、例えば取締役会の員数は、最低3人なので、2人に賛同してもらえば、代表取締役になることができます。

後継者は、自分を代表取締役に選任してもらうために、ほかの取締役に菓子折でももって、お願いに行くのでしょうか?

いえ、そのようなことをしていたのでは、安心して経営をおこなえないばかりか、その取締役が、いつ、変心するかわかりません。

そこで、最初から、後継者が代表取締役になることに賛成する者を取締役に選んでおくことで後継者の地位を安定させます。では、取締役は、どのようにして選ぶのでしょう。

取締役は、株主総会の決議により選任します。株主が何かを決めるときの賛成または反対を行う権利を議決権と呼びますが、その議決権を行使しうる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、 その過半数の賛成を得られれば、取締役になることができます。このようにして選ばれる取締役を、後継者が代表取締役になることに賛成する者を選んでおけば、後継者の地位は安泰です。

さて、ここまで、どうしたら、社長(代表取締役)になれるのかを説明してきました。

要するに、株主総会の議決権における多数派になれば、意に沿う取締役を選任することができることがわかりました。つまり、多数の議決権を維持することが、取締役会を支配し、ひいては会社経営を支配する力になるわけです。

さらに、取締役を選任することができる議決権だけではなく、それを上回る特別決議(総株主の議決権の過半数を有する株主の出席、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成により成立)を行う議決権を維持するのが望ましいと考えられます。なぜなら、定款の変更や、合併、自己株式の取得、新株の発行、相続人への売渡請求など、おおよそ会社経営を行う上で、重要事項の変更はこの特別決議が要件とされているために、より強固な支配を確立するためには、この株主総会での特別決議を行えるだけの議決権を確保することが望ましいのです。
■自社株式と相続
次に、事業継承と相続の関係をみていきます。例えば、相続開始 時点で、会社の株式の議決権を創業者60%、長男10%(後継 者)、あとの30%は取引先や従業員が所有。相続人は創業者の配 偶者、長男、次男の3人。この自社株以外に、これといった財産が ないとします。 さて、この相続で、長男が、自社株をすべて相続できればよいのですが、配偶者や次男は、自らの相続分を主張するかもしれません。その場合には法定相続分による相続となってしまいます。法定相続分とは民法に定めがある遺産の分け方であり、上記の事例では、配偶者は2分の1、長男4分の1、次男4分の1と相続することになります。

長男(後継者)は、自分だけが、相続すれば70%の持ち株になりますが、法定相続分による分割となってしまうと、わずか25%(60%−(60%÷2+60%÷4)+10%)の持分になってしまいます。

では遺言書を書いたらどうでしょうか。創業者が「すべての自社株は長男に相続させる」と書いたとしましょう。しかし、遺言がある場合、配偶者や次男は遺留分(留保すべき割合)があり、法定相続分の半分の持分は、自分に相続をさせるように主張することができるのです。配偶者であれば自社株の4分の1を、子である次男は8分の1を、遺留分として相続をします。つまり、長男の相続分は47.5%(60%−(60%÷4+60%÷8)+10%)となり、過半数にも届きません。

このように、民法に規定されている、法定相続分および遺留分という制度は、相続人間で公平に相続させるように制度設計がなされているために、事業を継承するための、支配力の維持には逆の作用を及ぼしてしまうのです。

また、上記の例では、後継者が相続人である長男であるため、株式を受け継ぐ可能性がありますが、会社の従業員等が後継者となる場合は、相続に任せておいては、まったく支配力を維持できないということになります。
■自社株式の分散
前述したように、会社を支配するためには、株主総会で特別決議 を行える議決権があることが望ましいのですが、実際には創業者であっても特別決議を行える持分を持っていない場合があります。この場合は、議決権による支配というよりは、創業者の人間関係によって、株主総会および取締役会の運営を行っているのです。

しかし、後継者は、創業者と同じ人間関係が構築できるとは限りません。ですから、会社経営を後継者に受け渡す前に、自社株を後継者に集中させるような対策をとる必要が出てきます。

そもそも、なぜ、自社株が分散しているのでしょう。それは、かつて株式会社を作るためには、発起人が7人必要であったため、親族や友人に依頼して、発起人に名を連ねてもらい、そのまま株主となるケースがありました。また、昭和36年から同族会社に対して、法人税を一定税率上乗せして課税する留保金課税制度(同族会社とは、株主等1人とその同族関係者(配偶者、6親等内の血族等)を1グループとして、3グループ以下の有する持株比率が50%以上になる会社のこと)が創設されたため、この課税をうけないように、同族関係者ではない者に、株式を移転させることが行われました。また、相続によって、親族に分散し、再び次の相続が起きてしまうという具合に、徐々に、遠戚へ株式が分散していきました。親族以外では、仕事への動機付を期待して従業員に株式を取得させることも行われました。しかし、株式を持ったまま、従業員が退職してしまうなどで、徐々に数多くの株主に株式が分散していくのです。
■自社株式の集中
それでは、どのようにして、再び株式を後継者に集中させればよいのでしょう。いくつか選択肢がありますが、結論から言えば、そのハードルは高いものです。

まず、創業者もしくは後継者が、株主である遠戚や従業員等から任意で買い取る方法があります。しかし、ここで税法の規定により大変高い金額を支払う必要が出てきます。贈与を受けるとしてもその大変高い金額が元になり贈与税の計算が行われます。この大変高い金額というのは、税法では「取引相場のない株式の評価」の中の、「原則的評価(純資産価額・類似業種比準価額)」と呼ばれているものです。それに対して、創業者等が自らの株を分散させるために、従業員や取引先もしくは遠戚へ、譲渡や贈与を行う場合には、「配当還元価額」で行えばよいため、税金の心配はほとんどせずにすみます。同じ当事者間の取引であっても、株式の移動する向きによって、価額は大きく異なります。

非常に大雑把な言い方になりますが、この価額の違いは、会社を支配している創業者や後継者の支配力を高める取引(譲渡・贈与)には原則的評価で行い。支配力を弱める場合(株式の分散)には配当還元価額で行われるのです。

ちなみに、配当還元価額で売ってくれるという友好的な株主の申 し出があった場合であっても、配当還元価額と時価(原則的評価) との差額が贈与とみなされ、後継者に対して贈与税が課せられる結 果となります。ともかく支配力を高めるためには、潤沢な資金が必 要になるのです。(贈与の相続税評価額と所得税における譲渡時の 時価とでは、若干価額が違いますが、ここでは、そこまで厳密に区 別していません。)

しかも、任意に買い取るためには、先方の同意が必要であるため、日ごろから円満な関係ができていなければ困難です。特に、創業者が亡くなってしまってから、後継者だけで買い取りを申し出ても、なかなか同意が得られない場合があります。やはり、創業者が亡くなる前に後継者にとってよい環境を整えておくことが大切です。

会社自身が自己株式として買い取る方法もあります。いわゆる金庫株と呼ばれるものです。金庫株は議決権を失うために、相対的に創業者やその後継者の持株比率を高める効果があるので す。自己株式の買い取りは、株主総会の普通決議(当該株主総会において議決権を行使しうる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行うもの)により、行うことができます。しかし、意図した人物から買い取るためには特別決議(当該株主総会において議決権を行使しうる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上により行うもの)が必要となります。

これから株式を集中させようとする段階では、この特別決議をクリアすることが難しいかもしれません。また、強制的に買い取れるわけではないので、結局、友好的な株主からしか買い取れないという限界があります。

今年の5月1日に施行となった会社法には、強制的に株主から会 社が株式を取得する方法が設けられています。

ひとつは、相続人に対して、売渡請求ができるようになりました。しかし、この制度を導入するときに株主総会の特別決議(定款変更)が必要で、売渡請求を行う都度、株主総会の特別決議が必要となります。この方法も、議決権の3分の2以上の賛成が得られないならば行うことができません。しかも、株式の取得が相続まで待たなければならないことから、後継者は長期間、不安定な地位におかれてしまいます。

もうひとつは、普通株式から取得条項付株式に株式の内容を変更してしまう方法です。これは、種類株式(普通株式とは内容の異なる株式という意味)の一種で、発行する前に定款の変更(株主総会の特別決議)が必要であり、その上で、この取得条項付株式にかかわる既発行の株式を持つ株主の全員の同意が必要となります。このように、既存の株式の内容を変更して、取得条項付株式にするには、株主の同意を得るのが非常に困難であることが予想されます。

結局、会社法が施行されても、実際に株式の集中化に利用しやすいものはなく、既存の株主に対して、頭を下げて、お金を積んで、株式を買い進む以外にはないといえます。
■最後に
事業継承を行う場合に、創業者と後継者が法律上どのような環境に置かれるかについて書いてきました。

創業者にとって、自分が会社経営を行い、会社を支配していることが、あたかも空気のようにあたりまえに感じられるものです。しかし、後継者にとっては、法律に裏打ちされた議決権があってはじめて会社を支配しうるのです。この議決権の十分な持分がない限り、安定した経営は望めません。

創業者から後継者に、まとまった数の株式を移転できればよいのですが、これまで見てきたとおり、民法や税法により、株式を集中させにくくできており、しかも、一度分散してしまうと、再び集中させることが困難な状況です。

これを解決するためには、「事前の対策」が必要であり、そのことこそが、事業継承の一番重要な点です。相続税を払うほどの資産はないから対策なんて関係ない、などと思いがちで、何もせずにその時期を迎えてしまうことが多いのが現状です。一度、誰が後継者にふさわしいかという点も含めて、事前の対策を行うことをお勧めします。
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