右肩上がりの経済成長が終わり、日本中の企業が人事考課制度の改革に乗り出したのは、バブル経済が崩壊して数年経った1990年代半ばぐらいからでした。大企業は、こぞって成果主義を取り入れはじめ、その姿を見ていた中小企業は、盲目的に追随しました。 しかし、成果主義は思うようには定着せず、年功主義から家出をしたはずの企業が、いつしか途方にくれて、年功主義に戻ってくる現象すら起きています。
一方、成果主義に振り回されなかった企業はどうかといえば、こちらからも「人事考課基準をバランスよく精緻化し、社員への事前説明も十分に行ったけれども思うように業績が上がらない。人も育っていない。」といった声が多く聞こえてきます。
これは一体どういうことなのでしょうか。うまくいっていないのは、人事考課制度の仕組みそのものに共通した問題があるからなのでしょうか。それとも運用において問題があるからなのでしょうか。
それでは、まずは「正しい人事考課制度の導入」のために、中小企業に共通した人事考課制度の問題点を見ていただき、本来あるべき「人事考課制度の役割と位置づけ」について理解を深めていただきたいと思います。
●人事考課制度の役割とは
皆さんは、人事考課制度の役割についてどう捉えていらっしゃいますか。そもそも人事考課制度は、賃金や賞与などの処遇に結びつけるためにあるのでしょうか。それとも適材適所の判断材料に使うためにあるのでしょうか。これらは、いずれも狭義の役割として考えれば間違ってはいませんし、必要な考え方です。
しかし、人事考課制度の本質的役割を考えると、「経営戦略を後押し、組織の目的を達成できるよう人材を育成すること
」にほかなりません。この本質的役割に目を背け、人事考課制度を小手先の道具としか考えていない企業は、「業績も上がらないし、人も育たない」という弱みを常に抱えることになるのです。
●うまくいっていない企業の特徴は2つ
それでは、考課制度がうまくいっていない中小企業に共通する特徴を見ていきましょう。その特徴というのは、ずばり問題点なのですが、次の【図1】に示すように大きく2つあります。
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